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日本人がぶれやすい極右の定義とは何か。EUの本質、そして極左とは。(2) 極右について

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
五つ星運動の創設者ベッペ・グリッロ。2014年ローマでの欧州議会選挙キャンペーン(写真:ロイター/アフロ)

2回目の今回は、「極右」とは何かである。

参照記事:日本人が誤解するEU(欧州連合)の本質とは何か。欧州の極右とは、そして極左とは。(1) EUについて

近年は特に、欧州で極右の台頭が叫ばれる。

数年前までは、このような異変が起こると、「EU崩壊」の大合唱だったものだ。ブレグジットの後、そのような声が減ったのはとても喜ばしい。あんなに騒いだわりには、ちっとも崩壊していないし。

それでも、近年の極右の台頭は、欧州にとって深刻な問題であることは変わりはない。

日本語情報を見ていると、極右の定義がかなりふらついている感じがする。今回は(欧州における)極右の定義と、極右とEUの相関関係を説明したいと思う。

極右の定義は人種差別主義

欧州において、極右の定義は明確に存在する。

極右の定義は、EUとはまったく関係がない。

他者を排斥する人種差別の思想をもっているか、この1点が重要なのだ。この点で極右か否かが判断される。つまり、人権やヒューマニズムの観点からはかられるのだ。具体的には、反イスラム、反ロマ、反ユダヤ、反移民などである。親EUか反EUかは関係ない。

だから、イタリアでうまれたばかりの連立政権について言えば、五つ星運動は「極右」と呼ばれても仕方がないのだ。極右の「同盟」党と連立を組み、彼らが提案する「50万人の段階的で日常的な移民追放政策」を受け入れたのだから。

何もよりによって、あの人種差別的な「同盟」党を連立相手に選ばなくたって良かったのに、とは思う。結局、あれだけ既存のシステムを攻撃したので、他の既存政党とは組めなかったのだろうとは思うのだが。

極右の定義に政策は関係あるか

また、極右の定義は、社会政策もほとんど関係ない。

たとえ国民一律に毎月10万円支給する極めて左派的な政策をしようと、排他的な人種差別的な政治をするなら、その政党や政権は「極右」と呼ばれる。

ただ、このケースでは、極右と呼びたがらない人が出てくる。心情は理解出来る。

五つ星運動についても、「格差社会の下の人の味方だから」「国民の貧富の差をなくすような政策をしているから」などの理由で、極右と呼びたがらない人たちがいる。

しかし、それは理由にならない。それを言うなら、西欧にいくつかある極右政党のほとんど全部が、左派の社会主義よりの政策を打ち出している。極右は、失業率が高かったり、社会や政治が不安定だったりするから生まれるのだ。支持を集めるために、苦しんでいる人たちに優しい政策を打ち出すのは、ごく普通だ。

その最たるものがナチスである。ナチスだって、公共事業を充実させるという極左的な政策で失業者を減らし、自国民にはとても喜ばれる政治をしたのだ(国家社会主義と呼ばれる)。でも誰もナチスを「左派」とは呼ばない。同じ論理だ。

参照:イタリア:五つ星運動と同盟の極右連立政権にみる欧州の苦悩 移民問題であなたは人権を語る資格があるか

政治の内容によって右とか左とか色分けをするのは、極右でない人たちに対してだけである。

それだけ、ヒューマニズムや人権は、人間や政治の価値を決めるとても大事な価値観なのだ。

極右にもレベルがある

さらに詳細を語るなら、「極右」と一口に言っても、色々レベルがある。

大まかに言うと、「ネオナチ」認定されている極右と、そうではない極右に分かれる。

ではネオナチの定義は何か。

今まで観察してきた範囲でいうと、反ユダヤを唱えると確実にネオナチ認定される。多くのヨーロッパ人にとって反ユダヤ主義を公然と唱える政党は、ほとんど背中に戦慄が走るようなものだと思う。あの暗い記憶ーーホロコーストを思い出すのだろう。

反ユダヤ思想というのは根が深いし、歴史的に長い。筆者は欧州で、いろいろなことを目にする機会があったが、ここでその例を書くのも、偏見を助長することになりそうで嫌なので書かない。

ただ一つ言えるとしたら、あのホロコーストは、欧州の人なら誰もが偏見の存在を知っているだけに、「・・・あそこまでやってしまったのか、いくら好きじゃないからって、まさか、あんなことまでするなんて・・・」という思いがあるような気がしてならない。まるで、いじめの果てに殺された生徒が出た学校の生徒たちのように。

それから、人種差別や他者排斥の思想が明白であからさまだと、やはりネオナチ認定されることがある。

ただ、このあたりの判定はたいへん難しい。反移民を唱え、反イスラムを唱え、でも反ユダヤ色はまったくない政党があるとしたら、果たしてネオナチなのか否か。見ていると、ネオナチとは言われない傾向があるように思う。

確かに、ユダヤ系は、その国に長らく定住している人たちで、長いあいだその国の国民であるのに対し、イスラム系の人は移民で(比較的)新参者という違いはある。

今は時代の変わり目で、これからネオナチの定義は変わっていくかもしれない。

それでも、極右とネオナチの間には、確実に一線がある。「うちは極右だけど、ネオナチの烙印だけは勘弁してほしい」という意識は、欧州に明確に存在する。これは本当にあったことだ(以下参照)。

極右とEUの関係

次に、極右とEUは、どのような相関関係にあるかを説明したいと思う。

これを知るには、欧州議会選挙を見るのが一番いい。

5年に1回、欧州議会選挙が行われる。議員は各国で選出されて、フランスのドイツ国境の近くにある街・ストラスブールにある欧州議会に集まってくる。

欧州議会には、欧州政党がある。欧州議員が、国を超えて集まってつくるものだ。

例えば、ドイツ、フランス、フィンランド、スウェーデンなどにある緑の党に所属する議員が、欧州議会選挙で当選する。彼らが集まって、欧州議会では「欧州緑グループ・欧州自由連盟」という欧州政党をつくる、という具合である。

各国の主要政党は、欧州議会でどこの欧州政党に属するかを見ると、だいたいカラーがわかるという面白さがある。

今の議席は、2014年に行われた欧州選挙のものである。この選挙は、ユーロ危機の影響がはっきり現れたものだった。

一方で、すさまじい大量移民の流入は、地中海ルートでは始まったころで、欧州全体としてはまだ選挙へ大きな影響を及ぼすような事態にはなっていなかった。

むしろ、ルーマニアとブルガリアの国境が開かれたことによる、ロマの流入が大きな移民問題になっていた。

この時点では、実際のところ、ほぼすべての極右政党は、反EU・反ユーロ通貨であった。「反」とは、脱退を主張していることを意味する。逆も真なりで、反EU・反ユーロ通貨を唱える政党は、ほとんどが極右であった。これが当時のスタンダードであった。(以下、政党の評価は、「ル・モンド」紙に従う)。

EUに反対する政党の落ち着き先

ここでイタリアの五つ星運動である。

当時彼らは、反ユーロ通貨でEUに懐疑的だったにもかかわらず、極右ではなかった。他者を排斥する思想に薄く、特に反イスラムの思想はなかったのだ。

これは、当時はかなり珍しい存在だった。だからこそ「UFO」と呼ばれたのだろう。

他に仲間を求めるのなら、ドイツの「ドイツのための選択肢」党、リトアニアの「秩序と正義」党あたりだろうか。

「ドイツのための選択肢」党は、前年にできたばかりだった。ユーロ危機に対して、ドイツばかりが南の国の財政支援をしていることへの反発として、EU批判の政党として誕生した。当時はまだ、反移民色はほとんど現れていなかったので、「極右」とは呼ばれていなかった。

リトアニアの「秩序と正義」党も、反移民色はなく、「リトアニアが自主独立するべき」という立ち位置だった(旧東側の国々はわかりにくい・・・)。

この3党は、英国の極右UKIPが中心となってつくった欧州政党(自由と直接民主主義のヨーロッパ)に入った。

極右はいかに連帯(?!)したか

ただし、すんなりとそうなったわけではない。

五つ星運動がいかにUKIPと一緒の欧州政党にたどりついたかは、以前の記事で説明したとおりだ。

五つ星はまず最初に、緑の党系の「欧州緑グループ・欧州自由連盟」に入りたがった。ここは左派である。しかし入れなかった。次に自由主義派で中道リベラルの「欧州自由民主同盟」と交渉したが、合意に至らなかった。

入れなかったのは、この2つが親EUだからである。 五つ星運動は、EU懐疑派・反ユーロ通貨ということで、合意できなかったのだ。

それでも五つ星に人種差別的な色彩がなかったから、交渉はできたのだろう。これが極右だったら、交渉のテーブルにつくことさえなかったに違いない。

そこで党内のネット投票の末、英国UKIPが率いる欧州政党に入ったのだ。

次に、「ドイツのための選択肢」党について。

ここは、英国の保守党が中心となってつくっている欧州政党(欧州保守改革グループ)にいたのだ。ここはEU懐疑派であるが、極右ではない。

しかしその後彼らは、UKIPが中心となっている欧州政党にうつった。移民排斥が強くなってきたからだと思う。

(しかし、確かに7人「ドイツのための選択肢」で当選した欧州議員がいたはずなのだが、今は1人しかいない。6人はどこに行ったのだろう。党が極右の方向にシフトしたから、出て行ったのだろうか)。

当時は「反EU・あるいは強い懐疑派で集まる」という欧州政党が、英国の極右UKIPが中心となっているこの欧州政党しか成立しなかったので、結局はここに集まったのだろう(ユーロ危機の後なので、むしろ反ユーロ通貨というほうがふさわしいだろう)。

この欧州政党は、単にEUに反対というだけで、まるで同床異夢のような、本当に訳のわからない寄せ集めグループだった。欧州議会にしかこんな党は生息しないだろう。ただ、新しい動きではあった。

極右の欧州うちわもめ

ここで、もう一つ興味深い動きがあった。

結果的に、英国のUKIPだけが欧州政党をつくることに成功した。しかし当時、フランスの極右・国民戦線が、同じように欧州政党をつくろうとして、両者は激しく競争していたのだ。

欧州政党をつくるには、7カ国25人以上の議員が必要だ。これを満たすと、政党として認められ、補助金が出る。数と人数からして、反EUが集まる欧州政党が2つできるのは難しい状態だった。英国のUKIPと、フランスの国民戦線は、激しいメンバー集め競争を展開していた。

ここで英国UKIPが使ったのが「フランスの国民戦線はネオナチだ!」という言葉だった。

国民戦線の党首は、マリーヌ・ルペンという女性である。この人の代になって、マイルド路線になったものの、以前はそうではなかった。彼女の父親は、党の創設者であったジャン=マリー・ルペンという人物で、もっとはっきりと極右だった。そして反ユダヤ的な発言を時折する人だったのだ。

父親が亡くなったのならともかく、よく親子で登場していた。今もぴんぴんしている。

このセリフのために、複数の極右政党が国民戦線からひいてしまい、英国UKIPのほうに流れた。そのおかげで、英国UKIPは欧州政党をつくるのに勝利したのだった。

国民戦線は欧州政党をつくることができず、無所属になってしまった。一緒に組んでいた極右政党や、世間では最初からネオナチ認定されていた政党も同様だ。

このように、「ネオナチ」と聞いただけで、「それだけは勘弁して」と逃げ出す人たちは欧州に存在する。たとえ自他共に認める「極右」であってもだ。極右の良心(?)というべきだろうか。

欧州議会の特殊さ

それにしても、各国極右の党首がにっこり並んで手を合わせて、やたら仲良く「連帯」をアピールしているのは、実に奇妙な図だった。「何だこれは。EUっていうのは、変なものを生み出すなあ・・・」と思ったものだ。

変といえば、反EUの極右政党が欧州議会にあるというのも、実に変な話である。どこの国の国会でも、さまざまな主張の政党があるといえども、「自分の国から去りたい」「自分の国をなくしたい」と主張している政党はないだろう。それが、欧州議会にはあるのだから。

たまに極右の欧州議員が、欧州議会において金銭的な汚職をしたというニュースが流れる。「やつらを徹底的に追及して困らせてやる」「やつらに欧州議員報酬を払うのすら嫌だ」と思う人たちがいても無理もないかも・・・と思ったりする。

ネオナチをやめた

実は、欧州政党づくりの話には、続きがある。

フランスの国民戦線とその仲間は、欧州政党をつくれなかった。英国UKIPに負けた。

そのために、一度は連帯を断ったネオナチ政党(ギリシャの「黄金の夜明け」党、ドイツのNPD党など)と手を組むのではないかという推測があった。

欧州政党になれずにただのグループだと、補助金も出ないし、活動は大幅に制限されてしまうから妥協するのではないか、という理由だ。

しかし、現実に起こったのは、まったく反対のことだった。

娘のマリーヌは、フランスに戻って「反ユダヤ的」と父親を断罪しはじめたのだ。党員の資格停止を決定し、名誉会長の資格を剥奪したのだった。

当時フランスのメディアは、「国民戦線が、国民に広く受け入れられて政権党になるために、このような措置をとった」と解説していて、欧州議会での出来事に触れたものはとても少なかった。しかし、明らかに娘のマリーヌは、欧州連合の舞台で学んだのだと筆者は思う。「あのじいさんの発言」は、極右すら逃げ出し、人々から白い目で見られて、軽蔑を受けるものなのだと。

EUの舞台に出ずに、フランスにいただけなら、娘の現党首はこのことに気づかなかったに違いない。フランスでは、父親の問題発言が出るたびに批判されるものの、「またかよ」と、もはや慣れっこになっている面があったからだ。

とはいえ、たとえフランス人は慣れていても、大多数の人々は、現政権に対する批判票という意味で投じるだけで、決して政権を渡そうとは思わなかっただろう。今、国民戦線が大きく成長したのは、反ユダヤ主義=ネオナチの色彩を断ったのが、大きな理由の一つである。

このように、たとえ極右といえども、集まってみんなで議論することが、平和の構築に最も大事なことだと、つくづく思う。EUっていうのは平和に貢献しているなあと、しみじみ思うのだった。

結局、極右になってしまった

次の欧州議会選挙は、来年2019年に行われる。移民問題の影響が、はっきり選挙結果にでるだろう。

派手な主張と実際はどうだか、冷静に見ていきたい。

極右政党が実際に政権党になったなら、本当に選挙戦の主張どおりEUやユーロを脱退するかは、はなはだ疑問だ。筆者は、そんな勇気のある政党は本当に存在するのか、一つもないんじゃないか、と疑っている。

しかし・・・全体を振り返ると、五つ星運動などのように、「反EU・EUに強い懐疑派でありながら、極右ではない」というのは、一瞬新しいカテゴリーの登場かと思ったが、あっという間に全滅してしまった。みんな極右になってしまった(少なくとも西欧では)。

反対ばかりしていて、1本筋のとおった思想がないと、こんなものなのかなとも思う。だから「ポピュリスト」と呼ばれるのかもしれない(ただ、五つ星運動の創設者・グリッロには、極左にシンパシーをもっているような発言は見受けられたことは、付け加えておく)。

ただ、五つ星運動は面白い党ではあるので、極右と連立を組んでどうなるのか、「欧州の実験」という意味で今後も注目していきたいと思っている。

日本と極右

最後に、日本はどう見られているのかを書こうと思う。

日本は、極右の人に大変評判がいい。「日本には日本人しかいないから素晴らしい」「日本があんなに発展しているのは、移民がいないからだ」などなど。一体何人の隠れ極右に会っただろうか。

彼らは匿名のネット上はともかく、こんな話は面と向かって普通はしないはずだ。筆者が外国人で日本人で、かつ女性だから、こうなるのだろう。

「昔、ベトナム戦争でボートに乗って逃げてきた難民を追い返した(よくやった、と褒めている)」とか、よくまあ知っているものだ。筆者は、日本人である自分を「隠れ極右探知機」と自称(自嘲?)しようかしらと思っているくらいだ。もっとも左派の仲の良い友達に「正直に言え。日本人は移民を拒絶して、本当は満足なんだろ」と言われたこともあるのだが・・・。

参考記事:日本には存在しない欧州の新極左とは。(3) EUの本質や極右等、欧州の今はどうなっているか

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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