小池百合子氏はフランスの選挙制度なら石丸伸二氏と決選投票になる。7月7日仏日で選挙、両国の大きな違い
7月7日。くしくも、東京都知事選とフランス総選挙の2回め決選投票が、同じ日に行われた。
そして両者は、選挙制度の違いのために、全く異なる選挙結果を出したのだった。
フランスの総選挙は、小選挙区制だ。各選挙区で、選ばれるのは一人だけの制度である。日本とほぼ同じだ。都知事が東京で一人だけ選ばれるのも似ている。
でもフランスは、日本とは選挙制度が決定的に違うところがある。
それは、第一回めの選挙で、過半数に届いた候補者がいなかった場合は、上位の二人(まれに三人)で、1週間後にもう一度2回め投票(決選投票)をすることである。
これはできるだけ民意を反映できる、なかなか優れた制度である。
この制度は、有権者にとっては、「自分にとって最も良い候補者は落選(あるいは辞退)してしまっても、二番目に良い候補者を選択できる」余地がある。多数決が原則の民主主義を、より良く実現しているやり方だと思う。
この制度のために、今回の仏総選挙では、6月30日の1回め投票では極右と呼ばれる政党(国民連合)が1位となっていながらも、2回め決選投票では逆転して、左派連合・人民戦線の勝利になり、極右政党は3位になってしまったのだ。
正確にいうと、有効投票の50%以上で、かつ登録有権者数の少なくとも25%をとった人がいれば、1回めの投票で当選となる。このような選挙区では、2回めの投票はない。
もしこの条件を満たした人がいなければ、その選挙区では2回め投票(決選投票)となる。
2回めに行ける候補者は、1回め投票でトップだった人、そして登録有権者数の12.5%以上の票を獲得している人である。
そして2回めでは、トップに立った人が当選となる(過半数に達していなくてもよいが、実際には達しないことは大変まれである)。
2回め決選投票の意義
たいがいの場合は、条件を満たすのは上位二人である。ところが、今回のように大いに票が割れている場合だと、三人になることもあるのだ。
2022年の総選挙では、三人になった選挙区は、577のうち8しかなかったのに、今回はなんと306もあったのだ。四人の選挙区すら登場した。びっくり仰天である。
候補者の辞退は可能なので、ここで極右政党に対抗して、フランス「共和国」の価値観を守るため、できるだけ候補者を一本化する動きがあった。210人が辞退して一本化に協力したのだった。だから大逆転が起きたのだ。
このように、2回投票することの、もう一つの重要な意義が機能している。有権者は1回めの投票結果を見て、状況の全体を把握した上で、2回めに誰に(どの党に)投票するかを決めることができるのだ。
日本では、たとえ1票差であってもトップに来た人が当選し、他の票は全部死に票となる(総選挙であれば、比例代表のほうで救われるケースはあるが)。
わかりにくいかもしれない。この制度を、同じ日に行われた東京都知事選にあてはめてみるとどうなるか、検証してみよう。違いが大変よくわかる。
都知事選で大逆転が起こる可能性
1位は小池百合子氏で、291万8015票だった。
まず、これは有効投票数の何%になるだろうか。
有効投票数は682万3242票だったから、半分の341万1621票に届いていない。約42.77%である。ダメである。
次に、東京都の当日有権者数は1134万9279人。小池氏は、有権者数の25.7%の票を獲得した。25%を超えているから、こちらは大丈夫。
フランスの総選挙制度では、この2つの条件を満たさないといけないので、小池百合子氏は当選できない。2回め決選投票が必須になるのだ。
では誰が決選投票に行けるのだろうか。
小池氏はトップだったので、行ける。
次に、有権者の12.5%を獲得している人という条件だが、誰がクリアしているだろうか。
2位は、石丸伸二氏で、165万8363票だった。約14.6%だからクリア。
3位は、蓮舫氏で、128万3262票だった。約11.3%だから、12.5%に満たないので、ダメである。
ということで、2回め投票は、小池ゆりこ氏と石丸伸二氏の二人の決選投票となる。
ここで、蓮舫氏を応援してきた立憲民主党や社民党、共産党がどう出るのかが、一つのポイントになってくるだろう。
3位だった蓮舫氏は、これらの党の推薦ではなくて、応援を受けてきた。推薦と応援がどう違うのか、金銭的な面など具体的な違いがあるのかもしれないが、有権者にはよくわからない。
ただ、推薦じゃないのだから、決選投票ではあっさりと石丸伸二氏の「応援」にまわれるかもしれない。
有権者の動向は、はっきりとはわからないものであるが、もし仮に3位の蓮舫氏の投票分が2位の石丸伸二氏に行くのなら、合計294万1625票となり、小池氏の1回めの票を2万3610票上回ることになる。
たったの2万票強である。かなりの接戦となり、4位以下の候補者の票に投票した人たちの選択が、大きなポイントとなる。2万3610票といえば、例えば11位につけたドクター中松氏は2万3825票だった。
この制度は、大変民主的だ。日本の制度だと、小池氏以外の候補者に投票した390万5227票が無駄になる。それは有効投票数の約57.2%にあたる。半分以上の票が、すべて死に票になっているのだ。
フランスの2回め投票で逆転劇が起きたのは、1票をできるだけ重んじる選挙制度のおかげである。
ちなみに、日本はこのような選挙制度のせいか、報道でも東京の全有権者数とか、有効投票者数に、とても鈍感である。
だから当然のごとく、各候補者が、有効投票数(あるいは有権者数)の何%をとったのか、当選した人は何%だったのかなどの記事を、筆者はほとんど見なかった。
そのため、電卓を片手に、計算しなくてはならなかった。
フランスでは、各候補者が取った票数と一緒に、必ず有効投票数の何%にあたるのか書いてあるのと対照的だ。
この制度に慣れると、投票数など見ずに、候補者が何%の支持を得たのかしか見ないことすらある。「へえ、この人は6割も支持を得たのか」とか「この選挙区は3割台が3人も並んでいる」とか。
日本は違う。トップでありさえすればいい。その人の投票数が、有権者や投票数のどのくらいの割合を占めているかなど、考えなくて良い。トップ総取り。過半数にさえ届いていなくても良い。
「私の1票」の重みはどこにいった。
そんな雑な制度が、日本の選挙制度である。
◉参考記事(2022年)参院選一人区「与党28勝・野党4勝」だが、フランス式なら11人が当選していない。