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安倍総理そっくりになってきた小池百合子東京都知事

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(518)

水無月某日

 東京都知事選公示の前日、日本記者クラブは主要立候補予定者による共同記者会見をオンライン上で行った。初めての試みだが記者会見の会場はない。司会者と立候補予定者はそれぞれ別の場所にいてオンラインでやり取りする。それを聞く記者たちもオンラインでそのやりとりを見て質問を司会者に送り質問してもらう。

 参加したのは立憲民主党、共産党、社民党が支援する元日弁連会長の宇都宮健児氏、維新が推薦する元熊本県副知事の小野泰輔氏、事実上自民党と公明党が支援する現職の小池百合子氏、NHKから国民を守る党党首の立花孝志氏、そしてれいわ新選組代表の山本太郎氏の5人である。

 会見は、出馬の理由、小池都政に対する評価、コロナ対策、東京五輪をどうするかなどを巡り1時間半行われた。全体を通して最も印象に残ったのは小池百合子氏に精彩がなかったことだ。攻撃ではなく守勢に回るとこの人には覇気がない。

 勝利を確信しているからなのか一生懸命さも感じられない。そして話の内容も言葉が上滑りして中身がなかった。都合の悪い質問にはまともに答えずポイントをずらす。誰かに似ているなと思ったら「死に体」の安倍総理とそっくりだった。

 例えばコロナ対策で、他の4人が補償のない一律の自粛要請に否定的だったのに対し、小池氏の目玉は「東京版CDC(疾病予防管理センター)を創る」だった。CDCは米国のジョージア州にある感性症の総合研究所で世界的に有名だが、新型コロナで最大の感染者と死者を出したのは米国である。

 CDCを持つ米国がなぜ新型コロナに弱かったのかを小池氏は考えないらしい。フーテンに言わせれば、国民健康保険制度もない格差の国だからである。そして経済的利益をとことん追求する国だからである。つまり新自由主義の影響の強い国々は英国やブラジルなど軒並み新型コロナで多数の死者を出した。

 反面、コロナ対策で国際的に評価されている国は、欧州ではドイツ、アジアでは台湾や韓国、それにニュージーランドなど、いずれも「小さな政府」ではないところだ。日本でも小泉政権が医療制度に新自由主義を持ち込み、医療体制を脆弱化させたが、まだ何とか持ちこたえることができた。

 そのことを理解していない小池氏は、米国の真似をすることが進歩だと阿保な考えに取り付かれている。米国に迎合すれば日本の富は吸い尽くされるのに、安倍総理は喜んで迎合することで自らの権力基盤を維持してきた。小池氏もその真似をしようというのだろう。

 フーテンに言わせれば2人ともコロナ後の世界への想像力がない。コロナ後の政治を託すべき人材ではないように思う。しかしかつてこの2人は対立関係にあった。小池氏は安倍総理と敵対したところから都知事への道を歩み出した。

 前回のブログで書いたように、第一次安倍政権が2007年の参議院選挙で惨敗し、「死に体」となった安倍総理の足を引っ張った先頭は小池氏である。そして福田康夫総理の辞任に伴う自民党総裁選に初の女性候補として出馬し、さらに自民党の野党時代には党三役の一角を占める総務会長に就任するなど重責を担った。その頃が自民党時代の小池氏の絶頂期である。

 しかし、2012年に第二次安倍政権が誕生し、安倍総理が華々しく復活すると、小池氏は無視され冷遇され続けた。その鬱憤からか2016年に突如東京都知事選挙に立候補し、自民党を敵として戦った。自民党東京都連を「ブラックボックス」と批判し、「都政の見える化」を図ると訴えて都民の支持を集め圧勝した。

 翌2017年の都議会選挙では、自らが会長を務める「都民ファーストの会」が都議会の過半数を制して自民党を蹴散らす。東京五輪を巡っても森喜朗東京五輪組織委会長に楯突く姿勢を見せ、旧体制に抵抗する政治家として都民にアピールした。

 ところがそうした姿勢が本物かどうか疑わしくなる。築地市場の移転問題では、移転先となる豊洲市場が完成し、移転・開業の準備が進んでいたにもかかわらず、土壌汚染を理由に移転を延期し、「一時豊洲に移転するが、5年後に再び築地に」と宣言、それが次に一転して「築地は解体する」に変わる。

 その時々の過程が都民には見えない。「ブラックボックス」を批判し「見える化」を訴えてきた本人が権力を握ると自らの政治を「ブラックボックス」にし、「見えない」政治を実行しているのであった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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