入院中に考えた「弱い政治が強くなる」という政治の妙
フーテン老人世直し録(780)
霜月某日
今月7日に入院して肺がんの手術を受け、21日に退院して現在は自宅療養中である。その間にアメリカ大統領選挙でトランプの圧勝が確定し、それは250年に及ぶアメリカの歴史が大きな転換点を迎えていることを示した。
選挙後バイデン大統領はウクライナに対し長距離ミサイルの使用を許可したとメディアが報じ、19日にウクライナは初めてアメリカとイギリスから供与された長距離ミサイルをロシアに撃ち込んだ。これは選挙結果と関係のある戦争のエスカレートなのか。
ロシアのプーチン大統領はこれに対し、核使用ドクトリンを改定するとともに、21日に超音速の中距離弾道ミサイルでウクライナを攻撃し、ウクライナに兵器を供与した国々を攻撃する中距離弾道ミサイルの量産化を進める考えを示した。
まさにトランプ大統領が就任するまでの2か月間は、第三次世界大戦を巡る駆け引きが活発化し、世界の緊張は持続されることになる。冷戦後のアメリカ政治を見てきたフーテンの経験から言えば、戦争を仕掛けるのはアメリカで、その理由となるのがアメリカの作った国際秩序に他国が従わないことである。
大統領選挙の最中にティム・ウォルズ民主党副大統領候補は、共和党正副大統領候補のトランプとJ・D・バンスを「ウィアド」と呼んだ。「不思議な連中」、「気味の悪い連中」という意味だ。何度も言うがこの選挙は民主党対共和党の選挙ではない。共和党の中にもトランプとJ・D・バンスを「ウィアド」と思っている人間はいる。何が「ウィアド」なのか。
イギリスの植民地アメリカは1776年7月4日、「人間は生まれながらにして平等であり、生命、自由、幸福追求の権利を持つ」と独立宣言を発して建国された。それに影響されて1789年に欧州でフランス革命が起き「人権宣言」が制定された。
こうしてアメリカ独立宣言とフランス人権宣言を「人類普遍の原理」とする近代民主主義制度が確立された。それから今に至る250年をフーテンは欧米中心の「啓蒙主義の時代」と名付けている。
フーテンも含めて我々は子供のころからその原理を勉強させられ、それを信奉させられた。人類普遍の原理に逆らうことは人間である限り許されない。それに従うことが人間の務めであると教えられた。
ところが世界各地を取材するようになってフーテンの見方は変わってくる。「人類普遍の原理」という啓蒙主義は人類普遍でもなんでもなく、欧米というローカルな地域のキリスト教に裏打ちされた限定的な思想に過ぎないのではないかと考えるようになった。
アジア諸国はもちろんだが、アフリカでも中東でも日本の慣習や文化との共通点が多く、何よりも生きていくのにおおらかで息苦しさがない。ところが欧米ではとりわけアメリカではダブルスタンダードだらけであることに驚かされる。
差別はだめだと言いながらアメリカほど差別のある国はない。人種差別だけでなく、地域格差も男女格差も日本以上に存在し、しかし存在しない顔をする。考えてみれば「人類みな平等」を謳った独立宣言を発した時にも奴隷制度はあり、先住民族は皆殺しの運命にあった。それが知らぬ顔をして民主主義の先進国を自認しているのである。
アメリカ人は民主主義の伝道者として胸を張りたいという妙な使命感に取りつかれている。この困った存在を、しかし誰もいさめることができない。世界一の軍事力を持つ恐ろしい国だからだ。真相を暴こうとすればどんな仕打ちに合うか分かったものではない。
自分たちは民主主義を広める正義の行いをやっていると信じるアメリカ人から見れば、トランプやバンスは民主主義を広める高邁な行いを馬鹿にして、現実の問題を現実的に解決しようとする現実人間である。彼らが「ウィアド」と呼ばれるのはそのためだ。
アメリカのダブルスタンダードを支えているのはメディアである。アメリカ独立宣言を「人類普遍の原理」にしたのもメディアだ。従ってその嘘を暴こうとする者をメディアは決して許さない。そのためトランプはメディアとの戦いから始めなければならなかった。
「啓蒙思想」の提灯持ちである既存メディアをトランプは「フェイクニュース」と言ってSNSで攻撃した。しかし既存メディアとの戦いは楽ではない。印象操作をやられたらみるみる支持率を落とすことになる。今回の選挙でトランプが既存メディアとの戦いを制したとすれば、それは国民の方が「啓蒙思想」の嘘に気づき始めていたからではないか。
日本でも17日に行われた兵庫県知事選挙で既存メディアよりSNSの力の大きさが注目された。フーテンは入院する時点ですでに斎藤元彦知事の再選を予想していた。それはあれだけ批判を浴びながら全く動じることなく、選挙で答えを出そうとしている強い意志を感じたからだ。
何かそれまでは表に出せないことが胸中にしまい込まれているように感じた。でなければ人間はもっといろいろ言い訳をするものだ。それをせずに選挙にすべてをかけているように見えた。選挙民はSNSを信じたというより、SNSを契機に既存メディアの報道を信じ込まないようにしたのだと思う。
横並びで同じことを報道する既存メディアなど信用に値しない。フーテンが何度も指摘してきたように、最近で言えばコロナ報道は嘘だらけ、ウクライナ戦争報道も嘘だらけだ。そして岸田文雄バッシングや石破茂バッシングもフーテンの目には異常に見える。それと並んで兵庫県知事バッシングもあったが、選挙民はようやくその異常さに気づいたのだ。
フーテンの入院中には国民民主党の玉木雄一郎代表の不倫報道もあった。かつてクリントン大統領がホワイトハウス内で性行為を行い、生々しい証拠が暴露された時、クリントンの支持率が落ちることはなかった。世界はその時「アメリカはようやく大人になった」と論評した。
しかし不倫は知られてはならないことで、簡単に知られるようでは不倫をする資格がない。フーテンは報道を知ってすぐに「消し屋」の存在を感じた。「消し屋」とはマスコミ界に出入りして、都合の悪い記事を「消す」仕事をする人たちだ。
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