閣議決定を次から次に撤回した安倍政権とイージス・アショア疑惑
フーテン老人世直し録(520)
水無月某日
安倍政権は4月7日に新型コロナウイルスを巡る経済対策として「減収世帯への30万円支給」を閣議決定したが、16日にはそれを撤回し、「国民一律10万円支給」に切り替えた。
安倍政権は1月31日に黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定し、それを正当化するため検察庁法改正案を国会に提出したが、黒川氏の賭け麻雀が明るみに出て5月18日に方針を撤回、検察庁法改正案は廃案になった。
安倍政権は2017年12月19日に北朝鮮のミサイル攻撃を防御するためイージス・アショアの導入を閣議決定し、秋田県と山口県の自衛隊演習場に配備するとしていたが、河野防衛大臣は6月15日にその計画を停止すると発表した。
米国への配慮からか河野大臣は「停止」と言ったが、事実上の「撤回」だとフーテンは思う。かくして安倍政権の閣議決定はこの通常国会の会期中に3つも撤回されることになった。
閣議決定は国家の重要な政策について、全閣僚が一致して政府の方針を決定することを言う。それが撤回されるというのはただ事ではない。撤回すれば済むという話でもない。なぜ閣議決定をしたのか、そしてなぜ撤回したのかの説明がなければ、国民は納得する訳にいかない。
いずれも国民の中に批判の声があり、安倍政権の支持率が低下する中で、前の2つは支持率低下を食い止めようとしたものだろうが、3つ目は日本の安全保障の根幹に関わる問題だけにきちんと説明してもらわなければ困る。
まず河野大臣の説明は、発射された迎撃ミサイルのブースター(推進装置)が自衛隊の演習場内に落ちるようコントロールできると周辺住民に説明してきたが、それをするには2千億円の費用と約10年の期間がかかることが分かったというものだ。
しかしこの説明を鵜呑みにはできない。それならイージス・アショアを人のいない地域に配備するか、周囲が海の無人島などに配備すれば良い。むしろイージス・アショアは当初から安倍総理がトランプ大統領から無理矢理買わされたという噂が絶えず、防衛省内には反対の声があったとフーテンは聞いている。
そのため秋田市での住民説明会で防衛省職員が居眠りしたり、また周囲の山の高さを間違える単純ミスを犯したニュースを見るたび、それは防衛省のやる気のなさの表れではないかと思ってきた。国のトップが決めたことだから官僚としては「面従腹背」するしかない。それが住民を怒らせる行動に繋がった。
しかしそんなことで国の安全保障は大丈夫なのか。そもそも米国の言いなりになることで国の安全は守れるのか。特に自国第一主義が頭をもたげるコロナ後の世界で日本が生き延びる道を考えると、まことに暗澹たる思いになる。
「週刊文春」の7月2日号は、昨年3月に防衛装備庁と三菱商事の職員が、導入する予定である製造メーカーのロッキード・マーチン社を訪れた際の報告書を入手したと記事にしている。それによるとロッキード社製のレーダーには目標に誘導する能力がなく、別のシステムを購入する必要が出てくるというのだ。
その報告書は防衛省や官邸に提出され、公文書として保存されていた。文春が情報公開請求すると内容はすべて黒塗りになっていたが、文字数や行数はほとんどが符合した。その報告がありながら7か月後の昨年10月に防衛省はレーダーの購入を350億円で三菱商事と契約してしまう。
一方で、この報告書について当時の岩屋毅防衛大臣、原田憲治防衛副大臣、山田宏政務官、鈴木貴子政務官らは「知らない」と口をそろえた。ところが昨年5月には長島昭久元防衛副大臣が質問主意書を提出し、ロッキード社製レーダーに目標に誘導する能力がないことを問いただした。質問主意書の回答は閣議決定されるので、大臣や政務三役が知らないと言うのはおかしな話である。
つまり3年前に安倍政権が閣議決定したイージス・アショアには「闇」の部分がいっぱいなのだ。当時の説明は海上自衛隊のイージス艦8隻、航空自衛隊の28基のPAC3、それに陸上自衛隊のイージス・アショア2基を加えれば、北朝鮮のミサイル攻撃を防御できることになっていた。
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