“日本敵視発言”をした情報長官候補は“ロシアの恋人”と呼ばれていた! トランプ次期政権閣僚人事問題
何かと問題視されているトランプ氏の閣僚人事。
“少女売春疑惑”が取り沙汰されたマット・ゲーツ氏は司法長官指名を辞退したが、先日、「太平洋侵略を思い起こすと、現在の日本の再軍備は本当に良い考えだろうか」と日本を敵視しているような発言をしたトゥルシー・ギャバード元下院議員についても、指名された情報長官職には相応しくないと疑問視する声があがっている。
ロシアの恋人
ギャバード氏については、米情報機関や議会の情報委員会で働いたことがないという経験不足が指摘されているが、それに加えて問題となっているのが同氏が親ロシア的な発言をしてきたこと。ロシアの国営テレビをして「我々のガールフレンド(恋人)」とまで言わしめたこともあったほとだ。
ギャバード氏が親ロシアと見なされているいくつかのエピソードがある。例えば、2022年、同氏は、ロシアのウクライナ侵攻を正当化するような姿勢を示したことで問題視された。ロシアはウクライナに侵攻した理由の一つとして、ウクライナがロシアに対して使用する新型コロナウイルスのような致命的な生物兵器を作っていると訴えてウクライナ侵攻を正当化したが、ギャバード氏も「ウクライナには米国が資金提供した危険な病原体を研究しているバイオ研究所が25か所以上ある」とツイートしたことから、同氏はロシアのプロパガンダを広めていると両党の議員に非難された。
また、ツイッターでも「バイデン政権とNATOがロシアの正当な安全保障上の懸念を認めていれば、この戦争と苦しみは簡単に避けられたはずだ」とロシアの立場に同情的な姿勢を示したことが問題視された。
言論の自由は米露で変わらない
2022年3月にフォックスニュースで、ギャバード氏がした以下の発言も取り沙汰された。
「ここ(米国)で起きていることは、国営テレビがあり、メッセージが全面的にコントロールされているロシアで起きていることとそれほど変わりません」
と、米国とロシアは「言論の自由」においてそれほど違いがないとの見方を示したからである。専門家は、ロシアはウクライナ侵攻以来、SNSでの反対意見を制限し、戦争に関する虚偽情報を広めた場合、最高15年の懲役刑を科す可能性があるが、米国では「言論の自由」が憲法で保護されているとして同氏の発言を批判した。同氏はソーシャルメディア企業による検閲問題も訴えたが、専門家はその主張には根拠がないと一蹴した。
アサド大統領は米国の敵ではない
ロシアが支援しているシリアのアサド政権に対するギャバード氏の姿勢も問題視された。米情報機関はシリア内戦でアサド大統領が化学兵器を使用したと報告していたが、ギャバード氏が2017年にシリアを訪問してアサド大統領と会談したり、「何が起こったのか、私たちは真実が完全にはわからない」とアサド政権が自国民に化学兵器を使用したとする米情報機関の判断に疑問を呈したからである。
ギャバード氏はまた、「アサドは米国の敵ではない。シリアは米国にとって直接の脅威ではないからだ。シリアであれ、他のどの国であれ、彼らの利益が我々の利益と対立しているか、あるいは一致しているかを見ることが重要だ」とテレビインタビューで発言している。
そのため、ロシアやシリアに対するギャバード氏の姿勢は、上院での同氏の承認手続きの中で取り上げられる可能性が高いと言われている。
米情報機関に不信感
6月には、米司法省との司法取引で、スパイ活動法違反の罪を認め、イギリスの刑務所から釈放されたウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏について「同氏の起訴や同氏に対する告訴は、報道の自由と言論の自由に対する、最大の攻撃の一つだ」と同氏を擁護する発言をしたことも物議を醸した。アサンジ氏を擁護していたギャバード氏は、2020年に同氏の引き渡しと起訴に反対する法案を提出している。また、国家安全保障局が米国の電話記録を大量に収集していたことを暴露してロシアに亡命したCIA元職員のエドワード・スノーデン氏についても、同氏に対する告訴を全て取り下げるよう法案で擁護した。
ギャバード氏は米情報機関が敵視した両氏を擁護することで米情報機関の問題を訴えてきたわけである。トランプ氏もまたかねてFBIやCIAなどの米情報機関に深い不信感を抱いてきた。その意味で、トランプ氏が、米情報機関を改革すべく、ギャバード氏を情報長官に指名したことは納得が行くことではある。また、トランプ氏は、米国民が米情報機関に対して抱いている不信感を汲み取り、同氏を指名したのかもしれない。
国を危険に晒す
しかし、ギャバード氏の指名を問題視する声は少なくない。元国家安全保障担当補佐官ジョン・ボルトン氏は「国際情報活動に関して、彼女のような見解を持つ人物を指名するのは間違いだ」と同氏が米国の安全保障を損なう可能性があると警告。民主党下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏も「我が国の情報機関の価値観に対する侮辱だ」と批判している。ギャバード氏の下では、同盟国が米国と情報を共有しなくなるのではないかと懸念する見方もある。
SNSでは、「トランプ氏は大胆な選択をした。ギャバード氏は情報機関の失敗の裏にある事実を明らかにしてくれる改革者だ」と同氏の情報長官指名を称賛する声もあれば、「無謀な指名だ。ギャバード氏は国を危険に晒す」と批判する声もあがっており、同氏の指名を巡って、米国は分断している状況だ。
ギャバード氏は果たして情報長官に承認されるのか? また、承認された場合、同氏は米情報機関の改革者になれるのか、それとも米国の安全保障の破壊者になるのか。今後の動きに注目したい。