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「出生数80万人割れ?」発生結婚出生数からみれば予想通りの未来がきただけの話

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

毎月の風物詩?

昨日12/20に人口動態統計速報(10月分まで)が発表されたことを受け、また毎月の決まり事のように「今年の出生数が減少」というニュースをメディアは報道するのだが、わかりきった話を「今突然ふってわいたような危機」みたいに言うことの意味はあるのだろうか。

人口動態速報に掲出されたグラフは以下の通りである。

確かに、2022年は1月を除けば、すべての月で出生数が前年割れしている。1-10月の累計の前年比でみれば、95.2%である。

厚労省「人口動態統計速報」より
厚労省「人口動態統計速報」より

残りの2か月も同様の前年比でいくとすれば、2021年の年間確定出生数が約81万人だったので、2022年は約77万人になるかもしれないと計算できる。

しかし、そんなことは、少なくとも1年前にはかなり精度の高い予測として推計可能であったし、いまさら大騒ぎすることではない。

発生結婚出生数という指標

出生の話題でいつも使われる合計特殊出生率は、あまり意味がない。未婚が増えれば自動的に下がるものなので、未婚増の日本において実情をキチンと表現できないからだ。

そもそも、出生数は婚姻数と極めて強く相関する。私が独自で算定している「発生結婚出生数」という指標がある。これは、出生数を婚姻数で除したものである。つまり、1婚姻当たりどれくらいの出生があったかを占める指標となる。もちろん、婚姻と出生が同年で達成されるものとは限らないが、長期の推移を見ることで、その傾向が明らかになる。

下記のグラフは1960年から2021年までの「発生結婚出生数」を表したものである。単年単位ではなく、直前5年間の平均値によって計算している。

これによれば、2021年の同指標は、1.56である。これは、つまり、1婚姻当たり1.56人の子どもが生まれてくるという話だ。

それどころか、グラフの推移を見て抱ければ一目瞭然だか、1990年代以降この「発生結婚出生数」はほぼ変わらない。むしろ、近年は増加している。1995年に1.6をはじめて割り込んだが、それ以降は1.5を下回ることはなかった。

と同時に、この「発生結婚出生数」を使うことで、今年の婚姻数をみれば、その次の年の出生数が大体予想できる。

2021年の婚姻数は、50万1138組であった。これに、2021年の「発生婚姻出生数」をかけあわせてみると、78万658人が2022年の出生数見込みとなる。冒頭に書いた、10月までの前年比から計算した約77万人とほぼ同じだろう。

「統計史上はじめて80万人を下回るかもしれない」などというが、そんなことは、1年前の婚姻数が確定した段階で「定められた未来」だったのである。

人間の赤ちゃんが空から降ってくるわけがないのだから、よくよく考えれば婚姻数によって出生数が決まるのは当たり前の話である。

今の出生減は25年前に確定

1年前どころか、出生数が増えないことは、実は少なくとも25年前にも予想できた。

現在、出産をする女性の年齢帯は晩産化とはいえ、ほぼ25-39歳が中心である。この年齢帯の女性の人口が減れば、自動的に出生数は減るのである。

これが、私が繰り返し言っている「少母化」というものだ。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

現在39歳の人が生まれたのは1983年である。日本はバブル経済に浮かれ、恋愛至上主義が真っ盛りの頃で、その恋愛によって生まれた子どもたちである。

写真:アフロ

しかし、その子たちが高校を卒業した2001年は就職氷河期ともいわれ、経済的には「失われた20年」の中に位置する。そうした状況が「消えた第三次ベビーブーム」を生み、結果そこで増えなかった人口減が今の「少母化(出産する女性の絶対人口の減少)」を招いた。

過去の記事でも、一人当たりの母親が産んでいる子どもの数は1980年代から減っていないことは何度も書いている。

出生数が減っているのは、生まれてくる子どもの数が少ないのではなく、産む母親の数が少ない、すなわちそれは婚姻数が少ないということなのである。そして、それは少なくとも25年前には確定された事実であり、今更何をどうしようが変えられない現実である。

日本だけでない世界の「少母化」

同時に、これは日本だけの話でもない。いつも出羽守界隈が「見習え」というフランスでさえ、すでに「少母化」が始まっている。フランスの国立統計経済研究所であるINSEE自体もそれを認め、明言している。人口14億人を抱える中国も例外ではない。

アフリカを除く世界中で出生数はこれから減少し、しばらく増えることはない。

フランスでも北欧でも減り続ける出生の要因「少母化」現象が世界を席巻する

写真:イメージマート

この連載をお読みの方は毎度おなじみの話で恐縮だが、こうした記事に「どうにもならないというのをやめろ。無責任だ」という批判もしばしばいただく。

しかし、どうにもならないことをどうにかすればなんとかなるという方がよっぽど無責任ではないだろうか。

本当のことを指摘されると人は大体不快になるので仕方がないが、耳触りのいい言葉でそのように取り繕ったり、悪戯に危機感を煽って、誰かの責任にするだけで満足したところで何も変わらない。

いい加減、当たり前にくる未来をふまえた上で「今、何をすべきか」に向き合ってほしいものである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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