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飛躍が期待される注目の女性ユニット「点と」。新作タイトル「わたのはらぞこ」の意味は?

水上賢治映画ライター
「点と」の加藤紗希(左)と豊島晴香  筆者撮影

 映画美学校のアクターズコースの同期で振付師/俳優の加藤紗希と俳優の豊島晴香の女性二人からなる創作ユニット「点と」。

 ともに俳優として活躍する二人だが、「点と」においては加藤が監督、豊島が脚本という役割を担い、アクターズコースの同期の俳優仲間とともにオリジナル映画の制作に取り組む。

 これまで発表した「泥濘む」と「距ててて」の2作品はともに国内映画祭に入選。とりわけ初の長編映画となった前作「距ててて」は<ぴあフィルムフェスティバル>で観客賞を受賞すると、第15回 田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEでも入選、海外映画祭にも招待されるなど、反響を呼んだ。

 そして、現在、「距ててて」に続く新作長編映画「わたのはらぞこ」のプロジェクトを始動。本作は、いままでの「点と」のスタイルのまま、長野県上田市で地元の方々とともに1本の映画を作り上げるという。

 ユニークな創作ユニットとして注目を集める二人に新たな一歩となる今回の試みについて訊く。全四回/第四回

「点と」の加藤紗希(左)と豊島晴香  筆者撮影
「点と」の加藤紗希(左)と豊島晴香  筆者撮影

シナハン中に大きな化石を発見しました

 前回(第三回はこちら)に続いて、新作「わたのはらぞこ」のプロジェクトの話から。

 2023年3月からシナリオ作りのため同市に通い始めたとのこと。

 どのようにしてシナリオは出来ていったのだろうか?

豊島「とりあえず上田で撮ることを決めただけで、はじめはシナリオもどういうものにするのかまったく見えていなかったです(笑)。

 とりあえず足を運んで動かしまくるというか。まずは現地にいっていろいろな人に会って、話してみる。そんな感じで始まりました。

 それで、訪れれば訪れるほど、いい出来事に遭遇するんですよね。

 上田の方々にも『もってますねぇ』といわれるような、めったには起こらない瞬間に遭遇することが続きました。

 それから、前にも話に出た『うえだ子どもシネマクラブ』や『うえだイロイロ倶楽部』で出会った子どもたちの成長を感じられる瞬間に立ち会ったり、新たな人との出会いがあったりと、わたしたちの心が動く瞬間がいっぱいありました」

加藤「プラス『クジラの化石』がきっかけになっていますから、化石のこともめちゃくちゃリサーチしました。

 特に豊島さんが化石のリサーチにかなり熱中していましたね(笑)。

 博物館を訪れたりとか、掘るとすぐに化石が出ると言われた川に実際に行ってドロドロになりながら作業してみたりとか」

豊島「そうそう。ネットや資料で調べましたけど、基本は人から聞いた情報でいろいろと回りました。中にはまったく情報が違って。

 化石が見れると思っていったら、郷土史に関する博物館で化石は一つもなかったりと、かなりの珍道中。

 でも、それはそれで上田の近現代史について学ぶ機会になって、面白かったです。

 あと、わたしたち、ガチで化石を見つけたんですよ。けっこう大きな化石を。

 発掘するのには相当お金がかかるそうで、おそらくまだその化石はそのままの場所にあるんですけど、そんな感じで上田市の地質学の本まで読んで化石についてもいろいろと調べたりしました」

加藤「あとは、地域の活動にわたしたちも参加させていただいたりして町の方々との交流を続けていって」

豊島「そういった中で、ひとつのストーリーラインができていった感じです」

「わたのはらぞこ」イメージビジュアル
「わたのはらぞこ」イメージビジュアル

タイトル「わたのはらぞこ」はどういう意味?

 物語については完成したときに改めて聞いていきたいが、では、最後にタイトルはどういう意味が込められたのだろう?

加藤「造語なんですけど、今回、クラウドファンディングをやることを決めて、タイトルをまず考えようとなったんですけど……。

 いろいろと探していたときに、『海の底(わたのそこ)』という言葉を見つけたんです。万葉集で使われていたりするのですが、文字通り、海底という意味で。

 地球は陸が3割、海が7割と言われていますよね?

 つまり海の方が倍以上を占めている。ただ、海の中というのはよくよく考えてみると陸の続きがある。

 わたしたちが海を見ると、そこには海が広がっているわけですけど、その海の下の見えないところは自分の足元からつながっている陸地が実は続いている。

 その陸地も幾重もの地層があって、そこには化石が眠っている。

 自分がこういうものと思っているものが、ちょっと視点を変えるとまったく違ったものに見える。

 『海の底(わたのそこ)』という言葉から、そういうことを感じたんですね。

 あと、昔、海の底だった上田の町を連想させるところもある。

 で、これタイトルにどうだろうと豊島さんに提案したら、『海の原(わたのはら)』という言葉もあるよと返答が来て。

 こちらは古今和歌集で使われているんですけど、大海原という意味。これもいいなと思って、底と原の一文字づつをとって、『わたのはらぞこ』としました。

 いまお話ししたような意味を踏まえながら、言葉の響きとして『わたしの腹の底』みたいに感じられるところがある。

 今回の物語は主人公をはじめ登場する人物が腹の底に抱えている思いがちょっとキーになっているので、いいかなと思って、そうつけました」

豊島「わたしは単純にガチャガチャしてるというか。にぎやかな字面になっている感じが気に入っています。

 『わたのはら』『わたのそこ』だと素通りしちゃいそうですけど、『はらぞこ』となったことでちょっとひっかかってくるところがある。

 いろいろな意味にとらえることができるタイトルになったなと思います。

 余談ですけど、わたしは基本的に脚本を書くときはタイトルをつけないで書きます。

 タイトルありきで脚本を書いてください、だったら書けるかもしれないですけど……。

 タイトルをつけずに書いて、書き上げた後もその書いたものを代表するようなことばをみつけるのは苦手なんですよね。

 ですから、タイトルは基本的に加藤さんに頼っています」

加藤「タイトルも無事決まって、いまはクラウドファンディングで制作支援を募っています。

 そして、今月下旬から撮影をスタートさせる予定です。今年中に仕上げをして来年公開ができたらなと考えています。いい作品が届けられればと思っています」

豊島「そうですね。オール上田ロケでどんな作品になるのか、わたし自身も楽しみです」

(※本編インタビュー終了)

【「点と」の加藤紗希&豊島晴香インタビュー第一回】

【「点と」の加藤紗希&豊島晴香インタビュー第二回】

【「点と」の加藤紗希&豊島晴香インタビュー第三回】

「わたのはらぞこ」メインビジュアル
「わたのはらぞこ」メインビジュアル

「点と(加藤紗希・豊島晴香)」の新作長編映画『わたのはらぞこ』

現在制作支援プロジェクト実施中!

「点と」公式サイト:https://ten-to.themedia.jp/

筆者撮影以外の写真はすべて提供:「点と」

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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