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注目の女性ユニット「点と」。新作は海なし町で出た全長8メートルのクジラの化石がきっかけに

水上賢治映画ライター
「点と」の加藤紗希(左)と豊島晴香  筆者撮影

 映画美学校のアクターズコースの同期で振付師/俳優の加藤紗希と俳優の豊島晴香の女性二人からなる創作ユニット「点と」。

 ともに俳優として活躍する二人だが、「点と」においては加藤が監督、豊島が脚本という役割を担い、アクターズコースの同期の俳優仲間とともにオリジナル映画の制作に取り組む。

 これまで発表した「泥濘む」と「距ててて」の2作品はともに国内映画祭に入選。とりわけ初の長編映画となった前作「距ててて」は<ぴあフィルムフェスティバル>で観客賞を受賞すると、第15回 田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEでも入選、海外映画祭にも招待されるなど、反響を呼んだ。

 そして、現在、「距ててて」に続く新作長編映画「わたのはらぞこ」のプロジェクトを始動。本作は、いままでの「点と」のスタイルのまま、長野県上田市で地元の方々とともに1本の映画を作り上げるという。

 ユニークな創作ユニットとして注目を集める二人に新たな一歩となる今回の試みについて訊く。全四回/第三回

「点と」の加藤紗希(右)と豊島晴香
「点と」の加藤紗希(右)と豊島晴香

『海のない上田から全長8メートルにもなるクジラの化石がまるまる出た』

という地元の方からポロっと出た話題に食いつく?

 前回(第二回はこちら)まで、初の長編映画「距ててて」の劇場公開について二人に訊いた。

 では、今回の新作長編映画「わたのはらぞこ」は、どのような形で企画が始動したのだろうか?

加藤「ポレポレ東中野での公開後、地方の劇場をめぐることになったのですが、その1つ目の劇場が上田映劇さんだったんです。

 上映を通して、前にもお話ししたように、『うえだ子どもシネマクラブ』や『うえだイロイロ倶楽部』といった素敵な活動や人との出会いがあって、わたしも豊島さんもすごく上田という町に感銘を受け、愛着を抱きました。それから、町にもすごく興味を抱いたんです。

 それで2022年7月のことですけど、上田映劇さんでの最終上映日を迎えました。

 ワークショップなどもさせてもらって滞在最終日、ある方とお話ししていたら、『海のない上田から全長8メートルにもなるクジラの化石がまるまる出た』という話題になって。

 『そのことが映画になったらおもしろいと思うんですよね』とその方がポロっとおっしゃったんですよ。

 その瞬間、『それめっちゃおもしろいですね』とわたしと豊島さんは口にしていて、その場で『それちょっとわたしたちで考えてみてもいいですか?』と気づいたら言っていたんですよね。

 そういう話になった理由のひとつとして、豊島さんが化石とかけっこう好きなんですよ」

豊島「詳しいとか、知識があるわけじゃないんですけど、石とか化石にロマンを感じる性格なんですよ(笑)。

 いまの上田市は山に囲まれていますけど、1400万年前は深い海だったそうで。

 もう、いま見ている光景と全然違う光景がかつて広がっていたというだけで、めちゃめちゃロマンを感じるんです。『地球すげえ!』みたいな(笑)。

 わたしたち『点と』は、次の作品に向かうとき、映画を作るためにネタを探すというよりは、何か新しくやりたいことができたときにはじめて動き出すといいますか。

 『じゃあ作ろう』と思えるものに出会ったときに、二人の意見や感覚が一致して動き出すところがあるんですね。

 で、振り返ると上田映劇さんでの上映やワークショップを通して、この町のことを映画で描く、この町で起きていることを映画に取り込むようなことができたら、という気持ちが徐々に芽生えていたんじゃないかと思うんですよね。

 それぐらい魅力的な出会いが多くあったんです。

 それで最後の最後にクジラの化石という大きなモチーフが、わたしたちのもとに飛び込んできた。

 その瞬間、あくまで漠然とですけど、この町で映画が作れたらなぁと思ったんですよね。

 だから、クジラの化石の話に、かなり前のめりになって食いつきましたね(笑)。

 そこから、もう少し具体的に考えようという話の流れになっていって。去年の3月ぐらいから改めて上田市に足を運んでいろいろリサーチを始めました」

「わたのはらぞこ」イメージビジュアル
「わたのはらぞこ」イメージビジュアル

加藤「そうですね。去年の1月ぐらいに『次は上田の町で映画を作ろう』と決めてたよね」

豊島「確か、ちば映画祭の帰路の車中でそういう話になった気が……」

加藤「そうかな。

 ちょうどそのころ、わたしは、アニエス・ヴァルダの本を読んでいて、ある町の中で映画を撮る、町の人といっしょに映画を撮るといったことに興味を持っている時期でもありました。

 それで対話しているうちに、次に映画を作るなら上田で町の人たちと作るようなイメージができていった気がします」

豊島「それでクジラの化石のことを話してくださった方に連絡をとって主旨を伝えて、まず町のことをもっと知りたいと思って3月から上田市に足を運んで脚本作りのリサーチを始めました」

加藤「余談ですけど1月に決めて3月にリサーチと、少し期間が空いたのは上田は冬は路面が凍結したり、雪が積もったりする可能性もあるということで。

 そういった道に馴れてない自分たちだとちょっと運転が危ないということで、暖かくなるタイミングで始めることにしました」

(※第四回に続く)

【「点と」の加藤紗希&豊島晴香インタビュー第一回】

【「点と」の加藤紗希&豊島晴香インタビュー第二回】

「距ててて」ポスタービジュアル
「距ててて」ポスタービジュアル

「距ててて」

6月13日(木)までシモキタエキマエシネマK2にて1週間限定上映決定!

<アフターイベント実施決定!>

6/13(木)21:25~上映開始、上映終了後最終日舞台挨拶:加藤紗希・豊島晴香・釜口恵太・神田朱未・髙羽快

(上映開始時間は予定、変更になる可能性あり)

「わたのはらぞこ」メインビジュアル
「わたのはらぞこ」メインビジュアル

「点と(加藤紗希・豊島晴香)」の新作長編映画『わたのはらぞこ』

現在制作支援プロジェクト実施中!

「点と」公式サイト:https://ten-to.themedia.jp/

筆者撮影以外の写真はすべて提供:「点と」

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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