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北朝鮮が6日ぶりにミサイルを発射。再び極超音速兵器か

JSF軍事/生き物ライター
日本防衛省2022年1月11日発表「北朝鮮のミサイル等関連情報(続報)」より

 1月11日朝、北朝鮮が弾道ミサイルらしき飛翔体を発射しました。北朝鮮内陸部から日本海に向けて発射されて日本EEZの外に着水しています。1月5日にミサイルが発射されてからわずか6日後に再びミサイルが発射されました。

北朝鮮は、本日7時25分頃、北朝鮮の内陸部から、弾道ミサイルの可能性があるものを、少なくとも1発、東方向に発射しました。詳細については現在分析中ですが、通常の弾道軌道だとすれば約700km未満飛翔し、落下したのは我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されます。

出典:北朝鮮のミサイル等関連情報(続報)|防衛省(令和4年1月11日)

 現在までに日本自衛隊と韓国軍から発表された、1月11日に発射された北朝鮮ミサイル飛行性能の観測結果は以下の通りです。

  • 飛翔距離・・・700km以上(韓国観測)、通常弾道なら700km未満(日本観測)
  • 最大高度・・・60km以下(韓国観測)
  • 最大速度・・・マッハ10前後(韓国観測)

 飛翔距離については韓国側の観測と日本側の観測は両立します。もしも通常弾道の後に滑空を行って飛距離を稼いでいれば、700km以上を飛んでいることになるからです。

 最大高度は弾道ミサイルとしては低く、前回と同じ「極超音速ミサイル」かあるいは極超音速滑空ミサイル「火星8」の可能性が高いと思われます。あるいはまだ未発表の新型ミサイルが発射されたのかもしれません。

 最大速度マッハ10、これは最大射程1300kmの準中距離弾道ミサイル「ノドン」に匹敵する速度です。本来ならば東京を狙える飛行性能ですが、実際の飛翔距離は700kmと速度の割に短い理由は幾つかが考えらます。

  • 側面機動で大きく旋回を行い、迂回飛行で長い距離を飛行。
  • 空気抵抗が強くなる低い高度で飛び続けて、飛距離が減少。
  • 滑空弾頭をわざと急降下させて、短い距離で試験を終了。

 あまり長い距離を飛行させるとアメリカとの緊張が急激に高まる恐れがあるので、北朝鮮は短距離で収まるように射程を調整していると考えられます。

 しかし2021年9月28日発射「火星8」と2022年1月5日発射「極超音速ミサイル」は共に、射程3700kmの中距離弾道ミサイル「火星12」を流用した推進ロケットをブースターとして使っていると推定されます。つまり今回発射されたミサイルも含めて、本来の射程は中距離級は発揮できる筈なのです。しかし実際の試験は短距離に抑えてあります。

北朝鮮KCNA発表写真より「極超音速ミサイル」(上)、火星8(中)、火星12(下)
北朝鮮KCNA発表写真より「極超音速ミサイル」(上)、火星8(中)、火星12(下)

 北朝鮮が極超音速兵器の試験発射を行うのはおそらくこれが3回目になりますが、段々と速度が上がっています。

  1. マッハ3・・・2021年9月28日「火星8」
  2. マッハ6・・・2022年1月5日「極超音速ミサイル」
  3. マッハ10・・・2022年1月11日 現時点では不明なミサイル

 このことから「段階を踏んで滑空試験を行うために初期は簡単な優しい条件で試験を行った」という可能性が強まってきました。

 火星12は最大3700km飛行した実績のある中距離弾道ミサイルなので、最大速度マッハ15前後が発揮可能です。極超音速滑空弾頭が大きく重くなり燃料タンクが少し短くなった火星12流用ブースターの場合でも、マッハ12前後は出せるかもしれません。するとまだ余力があります。

 北朝鮮は僅か数回の試験で極超音速ミサイルの技術を進歩させたのではなく、最初から発射試験の条件を段階的に設定していて、予定通りの試験スケジュールをこなしているだけのかもしれません。いきなり高い条件設定で冒険するのではなく、低い条件設定から徐々に条件を高く上げていき、着実に試験データを得ていく手堅い方法を選択している可能性があります。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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