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北朝鮮の機動式弾道ミサイルの系譜

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮KCNAよりKN-18(スカッド機動弾頭型)と「極超音速ミサイル」の弾頭

 北朝鮮が1月5日に発射した「極超音速ミサイル」と称する新型ミサイルについて、韓国軍は「極超音速ミサイルと呼べる性能に達していない」と評価しました。速度はマッハ6と極超音速(マッハ5以上)に達しているものの、滑空機動と側面機動の移動量があまり大きくなく、機動式弾道ミサイルの範疇であるという分析です。

【参考記事】機動式弾道ミサイルと極超音速滑空ミサイル

 北朝鮮の機動式弾道ミサイルはこれ以前までに4種類が確認されています。(※KNナンバーはアメリカ軍の命名したコードネーム。)

○機動式弾道ミサイル

  • KN-18・・・2017年5月28日初発射。スカッドを機動式に改造。
  • KN-23・・・2019年5月4日初発射。イスカンデルに似た形状。
  • KN-24・・・2019年8月10日初発射。ATACMSに似た形状。
  • KN-23拡大型・・・2021年3月25日初発射。KN-23を大型化。

○極超音速ミサイル

  • 火星8・・・2021年9月28日初発射。※極超音速滑空ミサイル。
  • 極超音速ミサイル・・・2022年1月5日初発射。※機動式弾道ミサイル?

 このうちKN-18と「極超音速ミサイル」および火星8は弾頭分離式と推定され、KN-23(拡大型含む)とKN-24は弾頭と推進ロケットが一体型となっています。

KN-18(スカッド短距離弾道ミサイル機動弾頭型)

KCNAより2017年5月28日初発射のKN-18スカッド短距離弾道ミサイル機動弾頭型
KCNAより2017年5月28日初発射のKN-18スカッド短距離弾道ミサイル機動弾頭型

 KN-18について2017年に登場した当初はスカッドの前方に操舵翼を付けた精密誘導型と分析していましたが、改めてよく見ると違うように見えます。おそらくこれは弾頭分離式で滑空が可能な機動式弾道ミサイルです。

KN-18スカッド短距離弾道ミサイル機動弾頭型の写真を拡大。矢印説明は筆者が追記
KN-18スカッド短距離弾道ミサイル機動弾頭型の写真を拡大。矢印説明は筆者が追記
  • 継ぎ目らしきラインが見える。
  • 段階的に角度が変化する二段円錐(Bi-conic)のノーズコーン。

 継ぎ目らしきラインで切り離すと仮定すると、円錐形の弾頭としては理想的な形状の機動式弾頭になります。KN-18はKN-23以降に続く機動式弾道ミサイル開発に先行した、試験用のテストベッドだったのではないでしょうか。

KN-24(ATACMS型)、KN-23(イスカンデル型)、拡大型

KCNAよりKN-24(ATACMS型)、KN-23(イスカンデル型)、拡大型。説明は筆者追記
KCNAよりKN-24(ATACMS型)、KN-23(イスカンデル型)、拡大型。説明は筆者追記

 KN-24はアメリカのATACMSによく似た胴体形状ですが、操舵翼とジェットベーンの構造から分析するとKN-23から派生した兄弟機だと推測できます。北朝鮮のKN-23、KN-24、KN-23拡大型は同系列のミサイルであり、ロシアのイスカンデルを参考に設計されています。

仮説:KN-24が火星11BならばKN-23は火星11Aである

 優秀な空力設計の胴体の最後部に4枚の操舵翼を持ち、弾道飛行の頂点を過ぎた降下後にプルアップ(機首上げ)を行って再上昇し滑空機動を行うことができます。

KN-18と「極超音速ミサイル」の機動式弾頭を比較

北朝鮮KCNAよりKN-18(スカッド機動弾頭型)と「極超音速ミサイル」の弾頭
北朝鮮KCNAよりKN-18(スカッド機動弾頭型)と「極超音速ミサイル」の弾頭
  • 段階的に角度が変化する二段円錐(Bi-conic)のノーズコーン。
  • 分離式弾頭の最後部に4枚の操舵翼を装着。

 北朝鮮が2017年5月28日に発射した機動式弾道ミサイル「KN-18」と、2022年1月5日に発射した「極超音速ミサイル」は共通した特徴を持っています。

 そしてこの特徴は1977年1月14日に初めて発射されたアメリカ軍の機動式弾道ミサイル「パーシングⅡ」とも同じです。実は最も有名な機動式弾道ミサイルの登場からもう45年も経過してるのです。

「パーシングⅡ」「C-HGB」との弾頭形状比較

北朝鮮発表より2022年1月5日の「極超音速ミサイル」とその他ミサイルの弾頭比較
北朝鮮発表より2022年1月5日の「極超音速ミサイル」とその他ミサイルの弾頭比較
  • (左)2022年1月5日、北朝鮮「極超音速ミサイル」
  • (中)1977年1月14日、アメリカ「パーシングⅡ」
  • (右)2020年3月19日、アメリカ「C-HGB」

 アメリカで開発中のC-HGB(共通極超音速滑空体)は陸軍向け中距離ミサイル「LRHW」と海軍向け中距離ミサイル「CPS」に搭載される予定の極超音速滑空弾頭です。ポラリス弾道ミサイル改造の試験用ブースターに搭載して飛行試験を既に実施しています。

 なおC-HGBは1970年代後半から1980年代初頭にかけて実験されたサンディア国立研究所の有翼再突入機「SWERVE」の流れを汲むものなので、2020年代の技術というよりは1980年代の技術を用いています。現在ならGPS誘導を用いているので精度は大きく向上していますが、空力設計などの基本的な部分では40年前の技術です。アメリカ軍が全く新しい中距離ミサイルを開発すると決めて僅か数年で配備予定を組めるのは、要素技術の研究を続けてきた下地があるからです。

 C-HGBは円錐形をしていますがパーシングⅡの弾頭よりも進化しており、機動性が大きく向上しています。そこでC-HGBを用いるLRHWとCPSは極超音速滑空ミサイルを名乗っているのですが、実際には機動式弾道ミサイルの方に近い存在です。

 これがあるので北朝鮮が機動式弾道ミサイルを極超音速ミサイルと言い張っても否定し難いという、ややこしいことになっています。ただし北朝鮮の「極超音速ミサイル」の形状を見る限りはC-HGBよりもパーシングⅡの方によく似ているので、機動式弾道ミサイル扱いでも構わないでしょう。

【関連記事】北朝鮮の新型極超音速ミサイルは前回発射の火星8よりも技術的に古い代物

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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