北朝鮮の機動式弾道ミサイルの「側面機動」
北朝鮮は1月5日に発射した「極超音速ミサイル」と称する新型ミサイルについて、翌日の公式説明で「側面機動」を行ったと主張しています。この側面機動(측면기동)とは、通常の弾道ミサイルでは行えない左右の水平方向に旋回する機動を意味しています。
これに対して韓国軍の分析では、北朝鮮が主張しているような大きな機動変化量は確認されなかったとして、滑空と機動を行ってはいたが極超音速ミサイルというよりは機動式弾道ミサイルの範疇であったと評価しています。それでも多少なりとも水平方向に旋回していたことは確認されました。
実は北朝鮮が側面機動に言及するのは今回が初めてではなく、2021年10月19日の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射時にも側面機動を実施したと主張していましたが、これは日本防衛省が3週間後に発表した報告書で否定されています。
もし2022年1月5日に発射された「極超音速ミサイル」が顕著な水平方向への機動があったならば初確認となりますが、実際にどの程度の機動変化量だったのかは観測していた日米韓からの発表はまだなので、今後の詳細な分析が待たれます。
機動式弾道ミサイルのCross-Range maneuver(側面機動)
- MaRV(maneuverable re‐entry vehicle)機動再突入体
- MBRV(maneuverable ballistic re-entry vehicle) 機動弾道再突入体
- Cross-Range maneuver ・・・側面機動(水平方向の機動)
MaRVとMBRVはどちらも機動式弾道ミサイルの機動弾頭を意味します。「Cross-Range」は直訳すると交差範囲ですが、ここでは水平方向や横方向という意味になります。
- Ballistic Trajectory ・・・ 弾道軌道
- Down-Range ・・・ 射程
- Altitude ・・・ 高度
機動式弾道ミサイルはこの説明図のように、最終突入段階で空気の層が濃くなってくる高度40~60kmの辺りから空力操舵による機動を開始します。高度がこれ以上高いと宇宙空間に近く、空力操舵はほぼ効きません。つまり基本的に機動式弾道ミサイルは通常弾道で打ち上げた場合は最終突入段階でしか滑空機動と側面機動は行いません。
これに対し極超音速滑空ミサイルの場合は中間飛行段階から高度40~60kmの辺りでプルアップ(機首上げ)を行う再上昇と降下を繰り返すスキップグライド飛行(跳躍滑空飛行)を実施します。つまり極超音速滑空ミサイルは中間飛行段階から滑空機動と側面機動を行うことが可能です。
HGV(hypersonic glide vehicle、極超音速滑空体)
逆に言えば機動式弾道ミサイルでも最大到達高度を低くして発射すれば、極超音速滑空ミサイルに近い動き方を行うことが可能です。ただし弾頭が単純な円錐形状で生み出す揚力が少ない場合、滑空飛行を長く維持することができずに射程が大幅に短くなってしまいます。
北朝鮮が2022年1月5日に発射した「極超音速ミサイル」は、機動式弾道ミサイルを低く発射した試験だった可能性が考えられます。北朝鮮は高度を発表していませんが、日本と韓国は発射翌日以降になってから最大高度50kmだったと観測分析結果を報告しています。
- 水平距離700km ※北朝鮮の自称。韓国は懐疑的。日本は「通常軌道なら500km」まで観測。500~700km?
- 最大高度50km ※日本と韓国の観測
- 側面機動120km ※北朝鮮の自称。韓国は懐疑的
- 最大速度マッハ6 ※韓国の観測
なお参考例としてインドの機動式弾道ミサイル「シャウルヤ/サガリカ」の飛行タイプ別では、弾道飛行モードだと最大高度190kmの弾道飛行+終末滑空で水平距離1800kmを飛行し、極超音速滑空飛行モードでは最大高度40kmで水平距離700kmを飛行するという資料があります。
Ballistic Glide Re-entry Vehicle (BGRV) and Indian Missile Program ※14ページ目に「Shourya flight types」
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