いよいよ正捕手か!? 7年目の横浜DeNAベイスターズ・山本祐大、進化の年【捕手編】
勝利のハイタッチの列で、いつも誰よりも笑顔を弾けさせている。目尻のたれたその顔は、20代半ばになってもあどけない。
「キャッチャーは勝ったときに、やっと気が抜けるから」―。
横浜DeNAベイスターズ・山本祐大。捕手としての自負が、矜持が、そのこぼれる笑顔に垣間見える。
捕手にとって勝利の瞬間は格別で、捕手だけが知る喜びがあるのだという。
■チームの捕手で最多出場
昨年、開幕からクライマックスシリーズまで、初めて1軍で完走した。「1年間戦ってるって感じがしたし、常に1軍にいたいなと思いました」と達成感を味わえた。
マスクはチームの捕手の中で最多となる67試合でかぶった。代打と一塁での出場も入れると71試合。これも捕手ではチーム最多だ。入団から出場試合数を2、13、2、51、17と積み上げ、一気のジャンプアップとなった。
中でも最多勝や最高勝率などのタイトルに輝いた東克樹投手との名コンビぶりが際立った。東投手の登板24試合すべてでマスクをかぶり、毎試合「祐大のおかげ」と讃えられ、最優秀バッテリー賞を獲得するまでになった。
■東克樹と共有する特別な思い
東投手には特別な思い入れがある。プロ2年目の2019年、初めての先発出場だった5月6日、バッテリーを組んだのが東投手だった。
読売ジャイアンツ相手に同期コンビで挑んだが、初回に3点を献上。三回にも5失点し、その裏の打席で右飛に倒れたあと、バッテリーともに交代となった。
「悔しかったし、あっという間に終わって、何もできへんかったなっていう思い出。あぁ、これが1軍なんだ、何もさせてくれないんだ、1軍は。ファームでやってた配球の勉強とかが意味ないとすら思わせられるような、それくらいの衝撃だった」。
まったく歯が立たず、無力感に苛まれた。しかし、その一方で心が滾った。「より1軍に向けて頑張ろうって思えた」。山本選手にとって「ターニングポイントだった」と位置づける試合だ。
あれから4年―。お互いに辛酸をなめ、成長した。
「去年1年しか知らない人もいるやろうけど、僕らには特別な思いがある。あのとき1軍のレベルの高さを肌で感じたからこそ、去年に活かせたと思っている」と振り返り、「ほかのピッチャーと区別するわけじゃないんですけど、やっぱ東さんとタイトルが獲れたっていうのは特別なものがありましたね」としみじみ語る。
2人だけの歴史がある。
■「祐大のおかげ」が一大ブームに
昨年、東投手は毎試合、「祐大のおかげ」と讃えてくれた。「キャッチャーってなかなかスポットライトが当たらないんで、ああやって言ってくれるのは嬉しいし、それが話題になりましたしね」と頬を緩める。
たびたびヒーローインタビューにも呼んでくれ、その働きぶりを大勢のファンにアピールしてくれた。
「いや、ほかのピッチャーに言えって言ってるわけじゃないですよ(笑)。でもキャッチャーとしても『ピッチャーのために』と思ってやってるので、お互いを立てられたら関係性もよりよくなるのかなと思います。去年は特別な例かもしれないけど、ああいうことが少しでも増えてくると嬉しいなっていう思いはありますね」。
お互いのことを思い合える関係性だから、意思疎通もスムーズにいくのだろう。こういったことが波及すると、バッテリー間がより円滑になるかもしれない。
■勝つために高いレベルを求め合う
そんな東投手のことを「勝負の世界の中で、いっさいの妥協がない」と尊敬する。試合が終われば仲のよさにほっこり感が漂う二人だが、試合中はそんな甘いものではないという。
「仲よしこよしで勝てたらいいけど、そういうわけにはいかない。やるべきことをやれとか、もっとうまくなれとか要求されるのは、本当にそのとおりだし、そういう主張をするピッチャーが増えてもいいと思っている」。
投手の要求が、捕手を成長させてくれる。
勝ちへの執念は、どちらもとてつもなく強い。だから、お互いに求めるものも高くなる。山本選手は東投手の要求に全力で応えるし、東投手も山本選手が試合中に得た相手のデータや感じたことなどは全面的に信頼して聞き入れてくれる。その証しが「お母さんみたい」という言葉になるのだ。
ベクトルの方向が同じ2人だから、本気でぶつかり合えている。
■投手の良さをもっと引き出したい
ただ、東投手とだけ組んでいるわけにはいかない。昨年は東投手の24試合以外に、先発では濵口遥大投手と8試合、石田健大投手と7試合、やや調子を落としていた今永昇太投手とも終盤に5試合組んで違った面を引き出すなど、“担当投手”を徐々に増やした。
(ほか大貫晋一3試合、笠原祥太郎、トレバー・バウアー、上茶谷大河、ロバート・ガゼルマン、坂本裕哉が各1試合)
「いろんなピッチャーと組むのは楽しいっすよ。その人の良さをもっと引き出さなあかんし、それができるのが正捕手。僕にはまだまだ足りない。もっとピッチャーを勝たせることができた試合もあったし、力不足だなって感じたんで、今年は勝たせることが1試合でも多くできるように、力不足だと感じることが1試合でも少なくなるようにと思ってやります」。
どの投手と組んでも最良のものが引き出せるよう、捕手として尽力することを誓う。
■試合に出られる喜びとゲームセットでの笑顔
昨年は、とにかく試合に出られることが無上の喜びだった。もちろん、連戦の疲労がなかったわけではない。しかし「しんどいと感じたことは一度もない」とキッパリ。
それよりも「今日も試合に出られる、今日もスタメンに名前がある、こんなCSを争っている状況の中で毎日試合に出られる、っていうのが本当に楽しかったです」と、嬉々としてマスクをかぶった。
「負けてるときでも代打を送られへんかったことも、嬉しかった。やっぱ最後まで出ることが一番嬉しいですし」。
一昨年まではチャンスで打席が回ると、代打を送られベンチに下がることが多かったが、昨年はスタメンで52試合に出場したうち、41試合でゲームセットまでマスクをかぶった。延長十二回までもつれた試合でも交代はなく、「守りきるの、楽しかった」と喜んでいた。
また、代打出場も9試合(8打数2安打.250)あり、代打からも含め試合途中からマスクをかぶることも15試合あった。
「やっぱ最後にマウンドで集まるのが一番幸せやから。あそこにいるのがどんだけ幸せかって感じながらやってます」。
いくら打っても、いくら盗塁を刺しても、勝つまでは気を緩められない。勝ってはじめて喜べる。それが冒頭で記した笑顔の要因だ。
■捕手としての不安要素が少なくなってきた
着実に歩みを進めてきた。捕手として、自身の変化も感じているという。
「全体的に不安要素は少なくなったかな。ワンバン(ワンバウンド)を逸らしそうとか、ノーバン(ノーバウンド)を落としそうとか、捕りにくいボールがきたらどうしようとか、ランナーに走られたらどうしようとか…。そういうのが少なくなったんで、対バッターと、対相手チームと勝負できたかなって思います」。
懸命に取り組んできた練習は嘘をつかない。以前、「意識していたら遅れる」と話していた反応に関しても、無意識に足が動くようになった。
「イメージの中での無意識が、より試合の中で出ることが多くなった」という自覚もあるし、「引き出しは増えましたね。経験を積みながら、『この場面で、これだけはやりたくない』みたいなものが明確になった」という手応えも増えてきた。
■山ちゃんバズーカを最大の武器に守備力でチーム1を目指す
鉄砲肩も健在だ。盗塁阻止率は.455(許18、刺15)。捕手の規定となるマスクでの出番が71試合に満たないため、ランキングに名前は載っていないが、1位である中村悠平選手(東京ヤクルトスワローズ)の.407をも上回っている。
「僕は入ったときからそこがウリなんでね。バッティングの成績が落ちることはあるかもしれないけど、そこだけは絶対に落ちたくないし、負けたくない。やっぱほかの人より(数字を)出したいと思います」。
盗塁阻止は投手のクイックの速さも関わってくるので一概に比べられないが、戸柱恭孝捕手と伊藤光捕手のそれは2人合わせて.212(許52、刺14)なので、いかに山本選手の鬼肩が突出してるかがよくわかる。
しかし、だからといって今年も出場が約束されていると、安穏としているわけではない。
「守備で1番にならないと。去年もそう思われようとやってきましたけど、今年も守備で圧倒的な1番にならないとダメだと思ってやります。ブロッキング、フレーミング、スローイング、配球やリードも。ベイスターズで1番にならないと、12球団でもトップクラスにはなれない。まずはチームで1番やと思ってもらえるような守備力を目指していかないといけないと思っています」。
首脳陣やチームメイト、誰からも信頼されるように、そしてそれを見るファンのみなさんにも認めてもらえるようにと、山本選手は「捕手力」をよりアピールしていく。
■143試合出たい
捕手という仕事にやりがい…いや生きがいを感じている。
「キャッチャーってほんと、勝負を左右するポジションやし、キャッチャーがしっかりしていれば勝てる試合って、いっぱいあると思うんです。強いチームには絶対的正捕手がいると言われるのは、そういうところに基づいているんかなと思う」。
素人目にはわからない部分で、捕手の真価が問われるところは多々あると言い、それこそが捕手というポジションの醍醐味であると山本選手は語る。
だからこそ、143試合すべてでマスクをかぶることを目指す。
「今の時代は無理って言われてますし、自分もどれだけできるかわからへん。自分の体力がどれだけもつのか、どれだけチームに貢献できるのか、未知の世界なんで。でもやりたい。やらなわかんないし、初めから無理やって思うつもりはまったくない」。
未知であるからこそ挑戦したい。もちろん、ただ出たいのではなく、チームを勝たせる捕手として出るというのは必須だ。
「143試合出られても、最下位やったら僕の価値は0。多く出させてもらえればもらえるほど、賞賛もあれば批判も多くなってくると思う。でも、一つでも多く勝利に貢献できるように、そこを追い求めてやっていきたい」。
試合の流れを見ること、投手のよさを引き出すこと、相手打者を把握すること…捕手にできることは山ほどある。グラウンドに出れば“監督”でもあるのだから。全試合でそれを任されたいと望んでいる。
■ハマの司令塔は進化する
根っからの“捕手気質”だ。人を観察すること、全体を見ること、チームのことを考えることは、これまでも好んで自然にしてきた。
グラウンドでただ一人、反対方向を向いている捕手というポジション。考えるのはチームが勝つことだけで、そのために自身はどう行動すべきかを常に念頭に置いている。
「自分だけよければいいっていうのは、もう終わりかな。僕に求められているのは正捕手になることもそうかもしれないけど、やっぱチームの勝利、優勝だと思う」。
自分のことよりチームのこと。今、その思いがより強くなっている。それはもう正捕手としての自覚にほかならない。
プロ入り7年目の今年、26歳を迎えるハマの司令塔は、自身の裁量で勝てる試合を増やし、チームを最も高い頂へと導くべく、進化する。
*次回「打撃編」(山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、「打てる捕手」への進化のヒミツは藤田一也の金言にあり【打撃編】)に続く
(撮影:筆者)
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