山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、「打てる捕手」への進化のヒミツは藤田一也の金言にあり【打撃編】
(前回「いよいよ正捕手か!? 7年目の横浜DeNAベイスターズ・山本祐大、進化の年【捕手編】」からの続き)
正捕手の座に限りなく近づいた2023年の横浜DeNAベイスターズ・山本祐大。
チームの捕手最多の71試合(マスクは67試合)に出場した昨年。とくにシーズン終盤はほぼマスクをかぶり続け、最多勝や最高勝率などのタイトルに輝いた東克樹投手の全登板でコンビを組み、最優秀バッテリー賞も獲得した。
プロ7年目の今年、いよいよ正捕手定着に期待がかかる。
■「諦め」の境地とは
昨年の起用は捕手としての信頼に加えて、安定した打撃にもよるだろう。打率は71試合で.277と、一昨年の.103(17試合)から飛躍的に向上した。捕手としてはかなりの高打率である。また、長打を含む安打数や打点など、ほとんどの記録においてキャリアハイを達成した。
なぜここまで大幅に伸びたのだろうか。本人に分析にしてもらうと、「うーん」と少し考えた。最も適切な言葉を探しているようだ。そして、出てきた答えが「諦め?(笑)」だった。
「諦め」―。その真意を自らこう解説する。
「これまでは結果を残したいと思いすぎて、甘い球も打ち損じしていた。甘いところからちょっと外れた難しい球も全部打ちにいってたわけですよ。打席が少ないから、もう打てるボールは全部打ちにいかなあかんって感じで…」。
ところが昨年に関しては、「やっぱ、いいボールは打てへんって自分の中で諦めて、それが打席の中で体現できた」と振り返る。なんでもかんでも手を出すのではなく、“捨てる勇気”を持てたのだ。
「はじめは難しいボールやから見逃そうって、なかなかならなかったですけど、『打てへんねやったら振っても一緒やん』って、見逃す勇気みたいなものも、打席を重ねるごとに出てきたかなっていうのはあります。うん、勇気はだいぶいりました」。
本当に甘いボール、打てるボールだけを振る。そこに集中するようにし、できるようになった。オープン戦12試合で打率.438(16打数7安打、三振0)と結果を出せたことも、シーズンへの弾みになったようだ。
「ほんまに甘い球を仕留める準備ができたのが、よかったんだと思います。全部を追い求めても、得られるものって少ないんやなって気づいて、ちょっと冷静になって野球ができたかなっていうのは感じますね」。
一昨年までとはマインドが大きく変化した。
■一也さんが言っていた意味がわかってきた
ある意味、達観といえるかもしれない。しかし、このように考え方を変えようと思っても、なかなかできるものではない。これまでの経験と、もう一つ、山本選手の心に響いたある人の言葉がある。昨年引退した藤田一也育成野手コーチだ。
「一昨年かな、一也さんに言われてたんですよ。『100%を追い求めるから0%になるんや』って。70%なら、悪くても50%で済む。よかったら逆に80%、90%にもなる。でも僕は100%しかダメって思っちゃってたんです」。
打撃でなかなか結果が出なかった一昨年のある試合後、食事の席での藤田選手(当時)との会話だ。
元来が完璧主義なところのある性格で、さらに未熟であるがゆえに100%を追い求めがちだった。
「ごはん食べながら一也さんが言っていた、その何気ない一言が自分の中で大きかったというか、考え方のベースになったというか。たとえば、僕が牧(秀悟)にはなられへん。じゃあ何か一つでも試合で貢献するってなったら1個フォアボール取るとか、1個バント決めるとか、それが僕の価値になる。そういうのを70%で追い求めていったら…みたいな話になって、『ああ、そうか』ってなりましたね」。
言われて即、そのような考え方ができたわけではない。しかし試合を重ねるごとに「あのとき一也さんはこういう意味で言ってたんやな」と徐々に理解が深まっていった。
■打席での不安が少なくなってきた
試合出場が多くなればなるほど、より“うまく諦める”ことができるようになった。もちろん毎試合、毎打席打ちたいのは変わらないし、打つつもりで臨む。けれど、たとえ打てない日があっても明日があると考えることで割り切れ、それが打席での不安を取り除いてくれた。
すると数字にも如実に表れはじめた。出場が増えるにしたがって、より好成績が挙げられるようになった。前半30試合で打率.222(OPS.619)、得点圏打率.200だったのに対して、後半は41試合で打率.315(OPS.800)、得点圏打率.353とその違いは顕著だ。
とくに8月は16試合で打率.350(OPS.809)得点圏打率.286、9月は21試合で打率.306(OPS.838)得点圏打率.444と高い数字をマークした。「明日もある」という気持ちが“安定剤”の効果を発揮した。
■2ストライクからの打撃
2ストライクと追い込まれてからも球数を放らせ、粘る力もついた。
「追い込まれれば追い込まれるほど、(カウントが)後ろになればなるほどゾーンは広がっていくわけじゃないですか。範囲を広げるから甘いボールがより甘く見えるというか、そういう気づきがあったんで、打席での落ち着きはあったかなって感じはします」。
カウント別の打率を見ても、「0-2」が10打数3安打で.300、「1-2」が32打数10安打で.313、そして「3-2」にいたっては12打数5安打で.417、四球も8つ選んでいる。
「『追い込まれたんやから、しゃあないやん』っていう感じになってますね。そう、自分の中で『しゃあないやん』が多くなりましたね」。
もちろん、いい意味での「しゃあないやん」だ。諦め、割り切りがうまくできるようになり、「全部の結果に100%出せる人なんておらん」という“一也の教え”が身についた結果である。
■考え方の軸が確立された
フォームのマイナーチェンジなど技術的なことにも取り組んできたが、やはり大きかったのはマインドの変化だと繰り返す。
元々が打撃のいい選手だ。独立時代から見ていた柳田殖生内野守備走塁コーチ(当時はスカウト)も、入団時の指揮官だったアレックス・ラミレス監督も、山本選手の打撃には高い評価を与えていた。
安定したマインドによって、その本来持っていたものが出せるようになったのだ。
「技術とか追い求めていくところはもっともっといっぱいありますけど、自分の中でこういう考え方というか、このシンプルな考え方が基本の軸になっていくんじゃないかなと思う。今年またどうなるかわからないし不安でしかないけど、でもそこはやっぱ変えずに、これから先もやっていきたいなっていうのはある」。
今後もレベルアップとともに枝葉はつくだろうが、自身を支えてくれるであろう考え方の根幹となる部分は確立された。
■フィジカルの成長
そして、当然のことながらマインドだけでなく、フィジカルの成長も重要ポイントだ。しっかりと鍛えた体は、見るからに年々大きくなっている。もちろん「動ける範囲」でのバルクアップだ。
「土台がしっかり作れてきたっていうのも、一つ大きな要因なのかなって思っています。昨シーズンは考え方とフィジカルがメインだった。確実にフィジカルが強くなって、今までになかったものが出てきてるんじゃないかなっていう感覚はありました」。
以前はファウルになっていた当たりがヒットになったり、きわどいコースに出したバットを止めて見極めができたりなど、「そういったところができたのは、フィジカルがついてきているから」とうなずく。
以前、鶴岡一成バッテリーコーチから助言された「お腹の力が抜ける」というところも「だいぶ良くなったって言ってもらった」と、体幹や下半身がしっかり強化されたことも実感している。
「フィジカルトレーニングって、自分がコントロールしないとできないトレーニングばかりなので。おもりに任せてやるトレーニングというより、自分の意識がそこにあることが大事。今、ここを鍛えているからこの姿勢はダメだとか、そういうのを頭でわかりながらやらないと」。
自分の体を自分で意識して動かす。ただ大きくするのではなく、思いどおりに使える体にしているのだ。
■捕手目線での嫌な打者になる
打者である自分に、最も影響を与えているのは捕手である自分だ。捕手目線で嫌な打者になることが理想であるという。
「僕の中で考えるのは、『こういうバッターは嫌だな』『こういうことを当たり前にできるバッターは不気味やな』ということです。率よりも、なんかこう受けててダメージを与えるというか…」。
例として名前を挙げるのは、同じ捕手の中村悠平選手(東京ヤクルトスワローズ)、木下拓也選手(中日ドラゴンズ)だ。「長打もあって、チョコンと当てる技術もある。それに勝負強い」と打率以上に、打たれているイメージが非常に強いという。
「毎年打率を残せたらいいけど、なかなかそういうわけにいかない。“その1本”をどこで打ってるのか、そういうのがキャッチャーに求められるバッティングで、大事だと思う。そりゃ、毎年3割5分とか打てたら最高ですけどね(笑)」。
勝負どころでの1本にこだわる。
■どのコースにもコンタクトできるように
そこで、まず自身に与えた課題は「『これが打てません』みたいな打ち方はやめよう」だ。
「『低めしか打てません』みたいなの、あるじゃないですか。高めに投げとけば大丈夫だ、みたいなね」。
偏ったコースしか打てないと見られることは、マイナスでしかない。理想はどんなコースでも打てることだが、「まだ僕の技術じゃ厳しいコースをヒットにすることはできないんで、打てるコースを徐々に広げている段階」と対応力を上げている。
もともとタイミングをとるのがうまく、“当て感”のいい打者である。「同じアウトでも、かすりもせずベンチに帰ってくるより、なんとか当てて」とコンタクトの確率を上げるよう腐心してきた。
「毎年徐々に、自分が思っているところにバットが出せるようになってきたんで、ヒットが増えたのかなと思う」。
また、マスクをかぶっていて、「どのコースのボールでも、どこにでもヒットを打てるバッターが嫌」だという。自身の打球方向としては、昨年は左44%、中堅34%、右22%という結果で、「引っ張ろうとも思ってないし、流そうとも思っていない。来た球に素直にっていうイメージ」だったと振り返る。
「センター40%で左右が30%ずつが理想に近いけど、あくまで理想なんで」と、受け身である打者としてはやはり「対応」が重要で、それが結局は「嫌なバッター」になる。そしてその中で、やはりセンター方向は基本ではある。
■効果的な長打を
もう一つ、「長打の打てないバッターにはなりたくない」ということも掲げる。
昨年は自己最多の3本塁打を記録した。しかも中堅への一発あり、2試合連続弾ありで、さらにはプロ初の三塁打も放ち、長打率.382と長打力でも進化を見せた。
「まさかセンターに入るとは思っていなかった。センターへの長打って、僕の中で一番いい打撃。いい打ち方をしながら長打も増えていけば、率も上がる。それに長打が増えれば、相手も警戒する。僕もキャッチャーとして、ホームランがあると怖いんで」。
率も上がり、ツボにくれば飛ばせる力があることも誇示できた。今後、相手の攻めも変わってくるだろうし、警戒は逆に甘い球を誘発もする。しかるべきときに一発で仕留めることも重要だと理解している。
■さらに進化する打撃に期待
捕手としての評価を年々上げていく一方で、打撃に苦しんだ数年があった。ファンの間でも「バッティングさえよければ正捕手になれる」などと期待値はどんどん高まっていた。
そして昨年、いよいよ打撃でも結果を出した。代打で出場したプロ初打席でホームランを放ってから、紆余曲折あって今にたどり着いた。三振が増えたことも、それをまた減らしたことも、成長の過程として必要なことだった。
そして今年、自己最高成績を記録した昨年を超えるために、さらに進化する。正捕手の座に就くであろう山本祐大は、「打てる捕手」として打撃でもきっと楽しませてくれるに違いない。
(撮影:筆者)
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