ベイスターズ日本一の年に生まれた“僕らの代”が頑張らないと!山本祐大、正捕手獲りを誓う
■自分をコントロールする
「今年は自分をコントロールしたい」―。
横浜DeNAベイスターズの山本祐大選手が年初に誓った。そこには、思うようにできなかった昨年の悔しさや反省がある。
試合をコントロールするポジションともいえるキャッチャーだが、そうするには まず自身をコントロールせねばならない。
一昨年は自分が打てなくても守備で貢献し、チームが勝つことが嬉しかった。しかし昨年は「正捕手を獲りたいと思いすぎて、打たないとっていう気持ちが強くなりすぎた」と、打撃に関して自身にプレッシャーをかけすぎたことで悪循環に陥り、それが起用数の激減や途中交代させられることになったと自省する。
そこで今年は力みを捨て、常に俯瞰で見ながら自身をコントロールすることに努める。とはいえ、そもそもが“熱い男”だと自負しているがゆえ、ときには制御しきれないこともあるだろう。それを押し殺すつもりはないが、あくまで冷静にフラットに、守備も打撃も意識のバランスを保っていく。
■昨シーズン
昨年は開幕2カード目のアタマ、3月29日の中日ドラゴンズ戦で先発マスクをかぶってフル出場し、ロメロ投手をリードしてチームに初勝利をもたらした。2日後には濵口遥大投手と組んで、またもや白星を刻んだ。
そして4月16日には上茶谷大河投手とのバッテリーで東京ヤクルトスワローズに完封勝ちし、上茶谷投手は91球でマダックス(100球未満での完封)を達成した。その後も続けて上茶谷投手と組んだ。
一昨年はロメロ投手と名コンビを結成したが、昨年はさらに“相方”が増え、キャリアアップが望めるかと思われた。しかし、なかなか順風満帆にはいかず、6月20日に登録を抹消され、その後はファームで研鑽を積むこととなった。
結局、1軍では12試合に先発出場をしながら、7試合で代打を出され、最後までマスクをかぶったのはわずかに3試合。「1年を通して1軍の力になりたかったのに、なれなかったのはすごく悔しい気持ちでいっぱいです」と唇を噛んだ。
■三振が激減
自身の第一の課題は打撃だとわかっている。17試合で残した打率は.103。チャンスでの交代には忸怩たる思いがある。だが、収穫もあった。
昨年は1月の自主トレから“厚みのある打球”を求め(関連記事)、シーズンを通して試行錯誤した。そんな中、「ボールに当てることは増えたんで、三振が少なくなった」という点では前進した。一昨年は1軍で.243だった三振率(三振数÷打席数)が、昨年は1軍で.125、ファームで.075と格段に良化した。
「今さらって感じではあるけど、一度初心に戻ったときにまずバットに当てないとと思った。前に飛ばすことによって可能性が生まれる。でも、前に飛ばすだけにならないようにって考えていた中で三振が減ったので、自分が考えたところにバットは出ているんだと思う。打ち方どうこうよりも、アジャストしていきながら自分の力を伝えることができれば、自ずと結果は出てくるはず。これを徐々にヒットにつなげていけるか、いい当たりにしていけるかっていうのを、今年さらにやっていきたい」。
“当て感”は確実に上がっている。あとは打球の質を上げていくことだ。今年こそ自らが求める“分厚い打球”に仕上げていく。
「守備を疎かにすることはまったくないけど、打てるようになればチームは勝てるというのは自分の中で諦めることなく、こだわっていきたい」。
守備はもちろん、打撃にも注力していくのは当然のこととして取り組んでいくつもりだ。
■上茶谷投手からの言葉
一方、守備では手応えがより深まった年でもあった。先述した上茶谷投手がマダックスを成し遂げたとき、実は試合前にこう告げられていた。「俺、今日は首をいっこも(一つも)振らへんから」と。試合直前、キャッチャーにわざわざそんなことを宣言するピッチャーも珍しいのではないか。
「かみちゃさんと、そんなに多く組んだこともなかったし、組んでやられたこともあったけど、その言葉だけで『あ、信用してくれてるんかな』っていう気持ちになったし、そんなふうに言われたのは初めてだったんで、衝撃やったというか、嬉しかった」。
意気に感じ、「バッターのことは任せてください。かみちゃさんはサインに思いきって投げてきてください」と懸命にリードした。
9回を91球で完封。マダックス勝利のあとはすぐ、次のカープ戦に向けて話をした。そこでもやはり上茶谷投手は「考えてサインを出してくれて、俺の特徴も掴んでくれてるなら、それを信じたい」と言ってくれ、1軍にいる間は5試合でバッテリーを組んだ。
「かみちゃさんが良かったっていうのがすべてだけど、ああいうことを言ってくれたのは自信になったし、そういうピッチャーを一人でも増やせれば、僕のキャッチャーとしてのステータスも上がると思う」。
いかにピッチャーに信頼されるか。また、そういうピッチャーをいかに増やすことができるか。正捕手奪取に向けての大きな鍵になる。
■梅野捕手と相川コーチの教え
ファームにおいても、キャッチャーとしての技術を磨いた。「ブロッキング、スローイングに関して、不安要素が徐々に潰されていった」との実感が深まっている。
「止めることに関しては、意識して止めると反応が遅れる。練習をして無意識に止めることだと、梅野さんから話をしてもらった。それこそ無意識に手が出るようになったというか、やばいっていうときに足が動くようになって、そういうブロッキングも増えた」。
2年連続で阪神タイガース・梅野隆太郎捕手の自主トレに参加し、極意を伝授してもらっているが、それが少しずつ自分のものになりつつあるようだ。
一昨年は1軍で51試合に出場し、緊張する場面でのブロッキングには体が固まって足が動かないことがあった。そこを昨年の自主トレで梅野捕手からアドバイスをもらい、昨季は「体が固まらず、足が動くことで手も動くようになった」と、しっかりとモノにした。
また、昨年入閣した相川亮二チーフ作戦兼バッテリーコーチの指導も、新たな引き出しとなった。
「握り替えの話とか、ブロッキングも梅野さんとの応用で『全部捕らなくていい。捕れないと思ったら当てればいい』と教わった。たしかにミットの面を当てるだけのほうが簡単な場合もある。足が動きながら手が動くことで、当てることも簡単になったのかなと思う」。
二人からの教えを融合させることによって、よりスキルアップすることができ、自信を深められた。
大きくキャリアハイを達成した一昨年から比べて、昨年は数字上、大きく落ちた。しかし「決して無駄な一年ではなかった」と言いきれるのは、たしかな手応えを得られたからだ。それは間違いなく今年につながるものである。
■体もアップグレード
体の使い方にもフォーカスしてきた。鶴岡一成ファームバッテリーコーチから「お腹の力が抜ける」と指摘された。疲労が重なると体の軸が折れるのだ。「どんな状況でも腹圧が抜けないように」と現在もトレーニングに力を入れている。
体幹を鍛えたり、練習でも常に腹圧を入れながら行うなど、軸に意識を向けてやっている。
そして、さらに「体を大きくしようとしている段階」だという。143試合戦い抜くとなると、体にも相当なストレスがかかる。ケガをしない体をしっかりと作るつもりだ。
現在86~7キロの体重から90キロ超えを目指す。かつて88キロまでは経験はあるが、「90キロの先で今くらい動けるんだったら、さらなる自分を見出せるんじゃないかなと思って頑張っている」と語る。
もちろん急激に増やすのではなく徐々にであるが、「動ける」というのは絶対条件だ。そしてそれがまた、“打球の厚み”にもつながると信じている。
■他のポジションを経験
昨季は、チーム事情からイースタンでファースト(4試合)と外野(2試合)も守った。プロ入り初だ。
「おもしろかったですね。内野や外野から見た景色って、全然違って。試合の入り方もキャッチャーとは全然違う。キャッチャーはブルペンに行くから、ほんと時間ないなって思った」。
顕著だと感じたのは試合の中での思考だ。野手は状況によってあらゆるパターンを想定しながら守るが、捕手は1球ごとに考え、何手も先を読みながら組み立てる。さらにピッチャーの状態、バッターの調子、状況や展開…あらゆるところに目を配って読み取る。
「野手も楽しかったし、一つのミスが命取りになるので本当に難しいと思った。キャッチャーとは違うプレッシャーがあった。でも、試合に関わってない感じがして、早くキャッチャーにいって関わりたいって思った(笑)。キャッチャーは1試合出たら頭痛くなるし、頭のエネルギーもなくなるけど、早くやりたいってなりました」。
野手へのリスペクトを強くするとともに、試合の中で毎球関わるキャッチャーに、あらためてやりがいを感じた。そして己の生きる道はキャッチャーしかないと再認識した。
だからこそ、なんとしても正捕手を獲りたいのだ。嶺井博希選手がFA移籍したが、山本選手にとってそれほどのアドバンテージだとは捉えていない。
「嶺井さんが抜けて3人の枠に入れたとして、3番手でいいのかって言ったらそうじゃない。(伊藤)光さん、トバ(戸柱恭孝)さんたちを越せるくらいやらないといけないなってずっと思ってたんで、自分にとってめちゃくちゃチャンスだなっていうのは、正直ないですね」。
あくまでも目指すのは正捕手だ。となると、人は関係なく、自分の力次第なのだ。期待のルーキー・松尾汐恩選手も入団したが、刺激にこそすれ、そこまで意識はしない。それよりも、求めるのは己のスキルアップだ。
■ベイスターズ日本一の年に生まれた世代
現在、ベイスターズには山本選手と同学年の選手が8人(入江大生、吉野光樹、京山将弥、石川達也、スターリン、牧秀悟、知野直人、村川凪)いるが、奇しくもベイスターズが日本一に輝いた1998年度に生まれている。9人というのは、チーム内でも最も多い世代だ。
「僕らの代がやらないとなっていう気持ちがある。牧がチームの代表として、しっかりやってくれている中で、大生が去年頑張って、将弥は毎年結果を残している。でもほかのメンバーを見たときに、だいぶ見劣りしてるなっていうのがあるし、悔しいなって思うところもみんなあると思う。やっぱり僕らの代がしっかりやらないと優勝できないと思っているし、来年以降も強いチームであり続けるためにもって思うんですよね」。
今、チームの主軸を張ってくれている先輩たちに続けるように、いずれは自分たちが核となって活躍しなければならないという思いは、98年世代の誰もが抱いているという。
オフに入って、サウナ好きの山本選手は入江投手、京山投手とともに念願だった長野県の「The Sauna」に出かけ、サウナや食事を満喫した。
ともに過ごす中、話すのはやはり野球のことだった。二人からは「祐大と組みたい」と言われた。「お世辞だと思うんですけど」と謙遜しつつも、嬉しくてたまらなかった。
“僕らの代”のバッテリーで一つでも多くの勝ち星を挙げることは、今年の目標でもある。
■自主トレで吸収
今年も1月の自主トレは梅野捕手の元へ赴く。新たに北海道日本ハムファイターズの清水優心捕手も参加することになっており、二人からは「レギュラーになるにはどうすればいいかっていう話を深く聞きたい」と、さまざまなものを吸収するつもりだ。
「それをいかに自分の行動に、今年のシーズンにつなげていけるかっていうところを考えながらやっていきたい」。
25歳になるシーズン。扇の要の位置には、常に自分が座っていたい。
【山本祐大*プチ情報】
一人暮らしをする山本選手の食と住
《食》
痩せないためにしっかり食べることが一番で、とくに意識はしてないです。シーズン中は球場で作ってもらえるんで、そこに甘えたりはしてましたけど、休みの日には作ったりはしてました。
めちゃ簡単なものですよ。カレーとか肉じゃがとか…あと、炒め物はいっぱい作りました。凝って作ったものって何かなぁ…(ひとしきり考えたあと)とくに凝って作ってないですね(笑)。
ホットケーキとかは昼によく作りました。甘いのが好きなんで、ホイップを泡立ててつけて。
写真は撮らないですね。お腹すいたらすぐ食べちゃうんで(笑)。
《住》
僕、全然キチッとできなくて、部屋とかすぐ汚くなる。帰ってきて掃除するのもしんどいし、帰ってきても野球のことをやらないといけないですし。だったら朝ちょっと早起きすれば20分もかからん程度で掃除できるなと思って、毎朝掃除をしています。
全部じゃなくて1日1か所、前の日の夜に『明日はトイレ』『明日は水回り』って決めてやりました。1年間通してできた、よかった習慣です。
でも、用事とか遠征の準備とかはギリギリにならないとできないんで…あ、遅刻とかはしないですよ。今年はもっと計画性をもちたいなと思います。
(撮影はすべて筆者)
【山本祐大*関連記事】
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