イスラエル軍戦闘機がまたもやシリアを爆撃:平和の尊さを学び取ることができる「好材料」への無関心
国際法、そして国際世論は非情だ。
2月に始まったウクライナ侵攻におけるロシアの暴挙を告発し、戦火に喘ぐ市民と寄り添おうとする報道を多く目にする一方、世界のそれ以外の場所で続いている不義についての関心はあまりに低い。
日本では、8月6日と9日の広島、長崎での原爆の日、そして今日15日の終戦の日が、ロシアによる核兵器使用や核施設攻撃の可能性、ウクライナでの戦闘長期化への懸念を枕詞としたこじつけのような報道が繰り返されているが、現在進行形のそれ以外の国際紛争や人道危機を77年前に日本で起きた悲劇や過ちと結びつける発想も想像力もないかのようである。
イスラエル軍戦闘機がまたもやシリアを爆撃
イスラエル軍戦闘機は8月14日、シリアに対してまたもや爆撃を行った。
イスラエル軍がシリアに対して爆撃・ミサイル攻撃、砲撃を行うのは2022年に入ってからは30回目。8月に入ってからは、12日にクナイトラ県ハミーディーヤ村に対して占領下のゴラン高原から戦車で砲撃を行っていた。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)がシリア軍筋の話として伝えたところによると、14日午後8時50分頃、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルート東の上空に領空侵犯し、ダマスカス郊外県とタルトゥース県南部の複数カ所に対してミサイル攻撃を行った。シリア軍防空部隊がミサイルのほとんどを撃破したが、攻撃によって兵士3人が死亡、3人が負傷、若干の物的被害が出た。
SNS上では、レバノン領空を通過するイスラエル軍戦闘機2機の機影や攻撃によって発生した爆発(あるいは火災)を撮影した映像や写真が多数アップされた。
複数の反体制系メディアや英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ミサイル攻撃の主要な標的はタルトゥース県南部で、タルトゥース市の南約5キロの距離に位置するアブー・アフサ村にあるシリア軍防空部隊の基地とレーダーが被弾し、兵士が死傷したという。
また、ダマスカス郊外県クタイファ市近郊にあるシリア軍拠点にミサイル2発が着弾したほか、シリア駐留ロシア軍の司令部が設置されているラタキア県のフマイミーム航空基地から8キロほどの距離に位置する拠点複数カ所も狙われた。
シリア軍防空部隊が迎撃のために発射した対空砲弾複数発もクタイファ市近郊とカラムーン山地一帯に着弾した。
反体制系メディアやシリア人権監視団は、「イランの民兵」が駐留するシリア軍の拠点を狙ったとの見方を示しているが、事実は明らかではない。
国際社会の無反応
シリアでは、5月以降、トルコ軍による砲撃や無人航空機(ドローン)での攻撃がにわかに激しさを増している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、「分離主義テロリスト」であるクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)をトルコに面する国境地帯から排除し、幅30キロの「安全地帯」を設置したうえで、同地にシリア難民100万人を「自発的」帰国させるための新たな軍事作戦を実施する意思を表明したことを受けた動きだ。7月19日のテヘランでのトルコ、ロシア、イランの三ヵ国首脳会談(アスタナ会議保障国首脳会談)と8月6日のソチでのロシア、トルコの首脳会談以降は、ドローンによる攻撃がさらに激化している。
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だが、シリアに対して繰り返されるイスラエル軍の侵犯行為も、シリア北部を不法に占拠(占領)するトルコ軍のこうした攻撃も、国連、あるいは国際社会の場で非難されることはほとんどない。
8月5日から7日にかけて、イスラーム聖戦機構の軍事部門であるクドス連隊による攻撃への報復として、イスラエル軍がガザ地区(パレスチナ)に対して激しい爆撃を実施し、3日間で子供6人を含む31人が死亡、260人以上が負傷した。だがこれに対する反応も同じだ。
7日にシリアのファイサル・ミクダード外務在外居住者大臣との電話会談に応じた国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、シリアやパレスチナでの事態悪化を回避するため関係当事者とともに取り組む意思を示した。だが、ウクライナ侵攻が始まる以前から、国連はこうした事態に対処し得ない機能不全に陥っている。
戦争の悲惨さ、平和の尊さを学び取る「好材料」はここかしこに存在する。だが、それに目を向けることができなければ、活かすこともできない。