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ロシアとトルコがシリアに駐留する米軍を狙うかのように攻撃を激化:具体的な対抗策を講じない米国

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリア国内に違法に駐留する米国の拠点を狙うかのような攻撃が相次いでいる。

筆者作成
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シリアに駐留する米軍

米国は2014年8月、有志連合を主導し、イスラーム国への「テロとの戦い」の一環としてシリアでの爆撃を開始した。翌年10月頃から、地上戦を担う「協力部隊」の人民防衛隊(YPG、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵)、そして同隊を主体とするシリア民主軍を支援するかたちで地上部隊を派遣、シリア領内に駐留させるようになった。そして、2019年10月には、「テロとの戦い」に加えて、油田防衛という理由を持ち出して、部隊駐留を継続している。

米国の駐留は、シリア政府はおろか、シリアのいかなる政治主体の承諾も得ておらず、また国連安保理決議などを通じた国際社会のいかなるコンセンサスも得ていない一方的なものである。2021年現在、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局が実効支配するシリア北東部、イラク、ヨルダン国境に面するタンフ国境通行所(ヒムス県)一帯のいわゆる55キロ地帯に27カ所(ハサカ県15カ所、ダイル・ザウル県9カ所、ラッカ県1カ所、ヒムス県2カ所)の基地を設置、600~3,000人の将兵が展開しているとされる。

筆者作成
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ロシアの爆撃

こうした米国の展開地域(あるいはその隣接地域)に対して、ロシア国防省は8月5日、爆撃を実施したと発表し、その映像を公開した。

ロシア国防省の声明の骨子は以下の通りである。

ロシア軍戦闘機複数機は8月4日、偵察任務の後、テロ組織のカルヤタイン殉教者旅団の武装グループを殲滅した。

このテロ・グループは、シリア東部の砂漠地帯に設置された避難所複数カ所で潜伏していた…。この武装グループの本拠地は、(シリア)東部のタンフ地域内にあり、米軍特殊部隊によってメンバーへの教練が行われている。

彼ら砂漠地帯で住民に対して犯罪行為を繰り返す一方、55キロ地帯内にあるルクバーン・キャンプの惨状から目を背けている。

RT Arabic、2022年8月5日
RT Arabic、2022年8月5日

カルヤタイン殉教者旅団は、バラク・オマバ政権下の米国から支援を受けていた「穏健な反体制派」の一つで、55キロ地帯を拠点に活動を続ける革命特殊任務軍などとシリア南東部で共闘し、シリア政府の打倒を目指していた組織。だが、ドナルド・トランプ政権下の2017年7月、有志連合は、この組織が米国との事前の調整なしに、シリア国内での偶発的衝突を回避することを目的として米国とロシアとの間で2015年10月に設置合意された非紛争地帯(de-confliction zone)、すなわち55キロ地帯に侵入し、イスラーム国ではなく、シリア政府を支援する勢力との戦闘を開始したとして、断交を宣言していた。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、カルヤタイン殉教者旅団の本拠地は、ルクバーン・キャンプから6キロの距離に位置し、メンバーの数は20人ほどだという。

ロシア軍の爆撃が、米国が自らの勢力圏だと主張する55キロ地帯内にある拠点を狙ったのか否かは定かでないが、米国に対するあからさまな挑発であることは言うまでもない。

ロシアの爆撃に関して、米中央軍(CENTCOM)の報道官は5日、『ニューズウィーク』誌に対して、「CENTOMは爆撃を承知しているが、これに関して提供し得る情報を有していない」と述べるにとどめ、挑発に乗る気配はない。

激化するトルコの攻撃

米軍を狙うかのような攻撃を行うのは、ロシアでだけではない。トルコも8月9日、シリア北東部の米国の拠点近くを砲撃した。

トルコの砲撃は8月8日、シリア政府と北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ県タッル・リフアト市一帯地域からの砲撃で、トルコ占領下のいわゆる「オリーブの枝」地域内にあるカルジャブリーン村に設置されているトルコ軍基地が被弾し、トルコ軍兵士2人が死亡、4人が負傷したことへの報復だった。

シリア軍とシリア民主軍のどちらがトルコ軍基地を狙ったのは定かではない。だが、トルコ軍は8日と9日、ハサカ県、ラッカ県、アレッポ県の各所に、無人航空機(ドローン)を投入するなどして激しい攻撃を加えた。シリア人権監視団によると、このうち9日の攻撃では、ハサカ県のカーミシュリー市郊外にある、国連が新型コロナウイルス感染症の治療のために使用している病院一帯周辺で塹壕の掘削に従事していた作業員4人、タッル・タムル町のサルマーサ村に身を寄せていた国内避難民(IDPs)の男性1人、カフターニーヤ市近郊のカルキー・ザイラー村で子供1人が死亡した。

ANHA、2022年8月9日
ANHA、2022年8月9日

そして、この砲撃の際、トルコ軍は、米軍が拠点を設置しているマズカフト・ダム(マズカフト村)一帯(カフターニーヤ市近郊)に対しても砲撃を行ったのだ。

揺さぶりをかけられる米国

トルコ軍の砲撃が米軍の拠点を意図的に狙ったものか否かではない。だが、7月19日のテヘランでのロシア、トルコ、イランの三ヵ国首脳会談(アスタナ会議保障国首脳会談)と8月6日のソチでのロシア、トルコの首脳会談によって、ロシアとトルコ(そしてイラン)が、シリアで米国の封じ込めに向けて連携はこれまで以上に強まりを見せているようである。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は7月20日、テヘランでの三ヵ国首脳会談の成果に関して、「米国はシリア北部から撤退すべきたというのが、ロシア、イランとの首脳会談の成果だ」と述べ、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすPYDへの支援を続ける米国に対する不快感を露わにした。

トルコの憤りは、2011年以降断交しているシリアのバッシャール・アサド政権との関係改善を画策する動きさえ後押ししている。

エルドアン大統領は8月6日、次のように述べて、PYD排除に向けてシリア政府とさえも協力する可能性を示唆した。

トルコがテロ組織と対決するためにシリアの体制と協力する道を辿るのであれば、それが可能である限りにおいて、正しいものとなるだろう。

トルコ日刊紙『テュルキイェ』が8月8日に伝えたところによると、エルドアン大統領は、テヘランとソチでの首脳会談で、トルコがロシアとイランに対して、シリア政府も含めたかたちでのPYDに対する「合同作戦」の実施を提案したという。

同紙はまた、アラブ湾岸の「某国」と、これとは別のアフリカの「イスラーム教徒の国」がトルコとシリアを結ぶための仲介外交を行っており、エルドアン大統領とアサド大統領が近く電話会談を行うだろうと指摘している。

シリアで起ころうとしている均衡再編を前に、7月13日から16日の中東歴訪で、シリアへの関心の低さを露呈したジョー・バイデン米政権は具体的な動きには出ていない。

ロシアのウクライナ侵攻に対処するための国際協調に注力すればするほど、中東、とりわけシリアをめぐって、(仮想)敵国であるロシアやイランだけでなく、同盟国・友好国であるトルコ、アラブ湾岸諸国、アフリカ諸国に揺さぶりをかけられる、というのが米国の外交が直面している困難な現実だと言える。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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