欧州でこれまでになく躍進する極右政党が日本の保守派にとって“味方”といえない理由
- ヨーロッパではこれまでになく極右政党が勢力を拡大していて、日本の保守派にはこれを“追い風”と捉える見解もある。
- ヨーロッパ極右と日本の保守派は外国人への不信感や国家としての独立の尊重などで一致するといえる。
- ただし、その外交方針には大きな違いがあり、ヨーロッパ極右には中ロへの融和的な態度が目立つ。
日本の保守派にとっての“追い風”?
ヨーロッパでは極右政党がかつてなく勢力を広げている。
フランスでは6月30日、議会選挙の第1ラウンドが行われ、極右政党“国民連合”が33.2%を獲得して暫定1位に躍り出た。これは初めてのことだ。
それに先立つ6月9日には、EUの立法機関にあたる欧州議会の選挙で、やはり極右政党がかつてなく支持を集めた。
これを受けて日本では「ヨーロッパでの極右政党の躍進は日本の保守派にとっても追い風になる」といった論調も見受けられる。
ただし、そこには疑問もある。
国民連合をはじめヨーロッパ各国の極右政党のほとんどは移民・外国人への警戒、国家として独立した立場や国防・治安を重視する立場などで共通し、この点で日本の保守派にも通じる。
しかし、少なくとも外交・安全保障に関して、ヨーロッパ極右は日本の保守派と全く相容れない部分もある。
それはとりわけロシアや中国への態度に鮮明だ。日本の保守派と異なり、ヨーロッパ極右は中ロに対して必ずしも対抗的ではないからだ。
ウクライナ支援に後ろ向き
基本的にヨーロッパ極右のほとんどはロシアや中国との対決に消極的で、とりわけプーチン政権に対する微温的な態度が目立つ。
たとえばフランスの国民連合は2014年、プーチン政権から選挙資金を調達していたことが発覚した。
前党首マリーヌ・ルペンはウクライナ侵攻以前、プーチン政権を公式には批判しながらも、ロシアに対する天然ガス輸入制限が「フランス国民の生活を脅かしかねない」として、経済制裁に消極的な態度をみせた。
現党首ジョルダン・バルデラもウクライナ支持を明言する一方、長距離ミサイルの提供や(マクロン大統領が示唆する)地上部隊派遣などには反対している。
フランスに限らず、ヨーロッパ各国でウクライナでの即時停戦を求める意見は表面化しているが、その論調は極右に目立つ。
たとえばドイツでは6月14日、訪独したゼレンスキー大統領が連邦議会でウクライナ支援を求めたが、その演説を極左政党BSW(ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟)の議員とともにボイコットしたのは極右政党AfD(ドイツのための選択肢)の議員だった。
TikTokユーザーの極右政党党首
一方の中国に関して、国民連合はフランスに対する膨大な貿易黒字を批判し、中国製品への関税を選択的に引き上げることを主張しているだけでなく、“一帯一路”がヨーロッパに及ぶことに拒絶反応をみせている。
しかし、ヨーロッパ極右にはロシアほどでなくても、中国に対してもやはり融和的な態度が目立つ。
国民連合のバルデラ党首が130万人以上のフォロワーを抱えるTikTokユーザーであることは、その象徴だ。
また、中国における人権問題についてはほとんど語られない。それどころかドイツAfDのマクシミリアン・クラフ議員のように、チベット併合70周年記念式典に出席した極右議員さえいる。
それは結果的に中国政府の方針を黙認することにもなる。
“アメリカは同盟国だが友人ではない”
ウルトラナショナリストの多い極右に中ロと融和的な態度が目立つと聞いて意外に思う人もあるかもしれない。
しかし、実はあまり不思議でもない。その最大の要因はヨーロッパ極右がアメリカとの同盟関係にいわば冷めた視線をもっていることだ。
たとえば国民連合の年配議員には、EUだけでなくアメリカ主導の軍事同盟NATOからも撤退すべきと主張する者も珍しくない。
NATO脱退まで口にしなくても、たとえばルペン前代表は過去にアメリカを「友人ではない同盟国、時には競争相手、そして対抗者にさえなる」と表現し、フランスがアメリカに引っ張られることを拒絶した。
ヨーロッパ極右は国家としての独立を重視し、そのためにアメリカ以外の大国とのバランスを意識しているといえる。それが中ロへの対抗一辺倒でない態度を生むとみてよい。
そのため、場合によってはアメリカの方針に批判的な論調を展開することもある。
国民連合のドミニク・ビルデ欧州委員は党の公式ウェブサイトで、台湾問題がアメリカの“植民地主義者”によって利用されていると発信したことがある。この主張は中国政府の言い分にかなり近い。
似て非なる者同士、あるいは水と油
アメリカとの距離感で、ヨーロッパ極右は日本の保守派のほとんどと大きく異なる。
日本の保守派にはアメリカが時には強引な手法を用いても、その主張にダブルスタンダードが鮮明であっても、これを黙認する傾向が強い。それだけ中ロ、とりわけ中国への反感と警戒心が強く、アメリカの力への期待感が大きいともいえる。
これに対して、ヨーロッパ極右にはむしろアメリカとのこれまでの関係を見直す方針が鮮明だ。イラク侵攻(2003)など多くの批判が噴出したアメリカの戦略に、これまで日本以上に深くかかわってきたことが、この反動を生んだ一因といえる。
アメリカと中ロの間でバランスを重視し、自国の独立性を担保しようとする点では、ウクライナ侵攻後に鮮明になった新興国・途上国の態度にも通じるものがある。
ともあれ、その極右政党がこれまでになく勢力を広げたことは、単に移民や外国人への不信感が高まっていることだけでなく、ヨーロッパがこれまでのようにアメリカと歩調を合わせてグローバルな役割を果たすことに懐疑的な市民が増えていることも示唆する。
その意味でヨーロッパ極右と日本の保守派は似て非なる者同士といえる。むしろ、アメリカ主導の秩序や、そのなかで存在感を増す中ロに対する態度に限っていえば、水と油とさえ呼べる。
そうだとすると、パートナーが減ったアメリカがこれまで以上に日本に協力を求めやすくなることも、日本の保守派が率先して肩入れすることも容易に想像がつく。
ヨーロッパにおける極右の台頭は、日本が今後どこまでアメリカにつきあうかを問うものでもあるといえる。