フランス議会選挙で極右政党が第一党を狙う位置に――ヨーロッパはどうなるか…基礎知識5選
6月30日に行われたフランス議会選挙で極右政党“国民連合”が過去最高の得票数で第一党を狙う位置につけたことは、フランスだけでなくヨーロッパ全体にとって無視できないインパクトを持つ。この選挙を5点に絞って解説する。
1.マクロンはなぜ議会を解散したか
今回の選挙は6月9日、マクロン大統領が議会を解散したことで行われた。
そのきっかけは同日に行われた欧州議会選挙で極右政党が躍進したことにあった。欧州連合(EU)の立法機関にあたる欧州議会の選挙で、各国の極右政党は合計でそれまでにない規模の150議席を獲得したのだ。
とはいえ、極右政党の獲得議席は欧州議会全体の約20%にとどまる。
しかし、反移民、反環境規制、反EUといった主張を掲げる極右の躍進は各国に緊張を呼び、とりわけマクロンの拒絶反応は強かった。
マクロンは過去2回の大統領選挙で国民連合のマリーヌ・ルペン候補と直接対決し、どちらの場合も僅差での勝利だった。つまり、他のヨーロッパ各国のリーダーと比べてもマクロンは極右政党の台頭に危機感を抱かざるを得ない立場にある。
議会解散に先立ってマクロンは「明白な多数派を示す必要がある」と強調した。
ただし、マクロンの解散は政敵から歓迎された一方、“崖っぷちのギャンブル” といった懸念も招いた。第1ラウンドの結果は、こうした警戒をさらに高めるものといえる。
2.国民連合は何を目指すか
今回、国民連合の得票数は全体の33.2%を占め、左翼連合“新人民戦線”(28.1%)、マクロン政権を支える中道右派連合“アンサンブル連合”(21%)を上回った。
国民連合が第一党を狙う位置につけたのは初めてのことだ。
そもそも国民連合とはどんな政党か。
国民連合は1972年に発足した政党で、その頃は国民戦線と名乗っていた。当初から外国人嫌悪(xenophobia)が鮮明で、「移民を排除することで失業問題は全て解決する」といった主張が掲げられていた。
もっとも、すでに定住している移民を理由もなく排除することは国際法的に不可能で、現状に不満を抱く一部の人々のガス抜き以上の存在感はなかった。
しかし、国民連合は2000年代以降、時代の変化に応じて主張をマイルドにすることで、支持者拡大を目指すソフト路線に転じた。
現在のジョルダン・バルデラ党首は2021年からその座にある。ルペン元党首の庇護のもと、若くして党首になったバルデラ(現在28歳)は旧世代と一線を画していて、いわば合法的に排外主義を目指す方針といえる。例えば、
・犯罪歴のある外国人の国外退去
・5年以上定住した未成年(11~18歳)に国籍を付与する現在の制度の廃止
・社会保障をフランス市民に限定
・二重国籍者を警察、軍隊などから排除
いずれも、いわゆる極右でない市民、とりわけ差別に敏感な若者からも、それなりに支持を得られる範囲のものといえる。
もっとも、その関連団体や支持者には外国人襲撃などに関わる者も少なくないため、ムスリムやユダヤ人、人権団体などから“差別主義者”の批判は絶えない。
3. なぜ極右は台頭したか
それでは、なぜ国民連合は第一党を狙うにまで台頭したのか。
その最大の要因は生活不安だ。
フランスではマクロン政権発足の翌2018年、燃料税引き上げをきっかけに30万人が参加する抗議活動(イエローベスト)がパリ中心地を覆うにまで至った。
燃料税引き上げの理由は「電気自動車を普及させるため」だったが、生活不安を抱く多くの人々から拒絶反応を招いた。
成功したビジネスパーソンとしての経歴をもつマクロンの、いかにもエリート然とした態度が、これに拍車をかけた。
その結果、燃料税引き上げは持ち越しになったが、その後のコロナ感染拡大とウクライナ侵攻をきっかけにする経済停滞を背景に、マクロン政権の不人気は続いた。
2023年には年金受給年齢引き上げ問題をめぐって大規模な抗議活動が広がり、あまりの治安悪化に英チャールズ国王の訪仏が延期されたほどだった。
マクロン不支持がとりわけ目立つのは、40代以下の若い世代だ。そのため、2022年大統領選挙でマクロンは辛くも逃げ切ったが、その主な支持基盤は中高年だった。
これに対して、若いバルデラ党首のもと国民連合はSNSなどを通じて、30歳以下を対象にした減税など、生活不安をとりわけ抱きやすい若者に受け入れやすいメッセージを集中的に発信してきた。バルデラはTikTokに130万人のフォロワーを抱えている。
そのため今回の選挙における国民連合の躍進は経済的な理由も大きく、その支持者のすべてがいわゆる極右とは限らないとみた方がいいだろう。
4.フランス特有の仕組みとは何か
ただし、国民連合はまだ第一党になったわけではない。
フランスの国政選挙は2回投票制で、第1ラウンドで過半数の票を獲得する候補が出なかった選挙区では第2ラウンドが行われるからだ。
面倒といえば面倒だが、これは大統領や議員が有権者の過半数から支持されることを重視する制度といえる。
今回、第2ラウンドは7月7日に行われる予定だ。
それまでにマクロン陣営と左翼連合の間に選挙協力で合意すれば、第1ラウンドの結果がひっくり返る可能性は否定できない。
ただし、マクロンはこれまで左翼連合とも対立してきたため、「国民連合に過半数を握らせない」という共通目標で両者が妥協できる公算は高くない。
仮に国民連合が第2ラウンドも制して第一党の座を確実なものにすれば、その方針がフランスを大きく変える公算が高い。
フランス第五共和制憲法によると、国家元首である大統領は非常事態宣言や議会の解散、首相の任命などを行う権限をもつが、日常的な行政権は首相が握る。首相は議会多数派によって選出される。
そのため大統領と首相で所属政党が異なる場合もあり得る。これはコアビタシオン(双頭制)と呼ばれる。
コアビタシオンでは首相のリーダーシップを大統領も認めざるを得なくなりやすい。そうしないと議会運営がスムーズにいかず、政治が空転しやすくなるからだ。
第2ラウンドの結果次第では、今世紀になって初めてフランスでコアビタシオンが誕生し、バルデラ党首の国民連合が実権を握ることになり得る。
5.国民連合が議会を握るとどうなるか
国民連合が第一党となり、さらに過半数を握った場合、その影響はフランスにとどまらない。
とりわけポイントになるのはEUやNATOとの距離感だ。
バルデラは「フランスの独立」を何より重視する旧世代の国民連合の政治家と異なり、EUやNATOからの脱退を叫んでいない。
しかし、EU離脱(FREXIT)は主張していないものの、加盟国への規制が強いことへの不満は再三口にしている。そのため、バルデラ内閣が発足すれば、EUの方針と異なる政策が実施される公算は高い。
例えば、国民連合は減税や年金支給の拡大を掲げている。しかし、その財源については定かでなく、財政赤字が拡大する懸念も大きい。
EUのルールではGDPに占める財政赤字の割合は60%以下と定められているが、フランスはすでに110%を超えている。国民連合が議会を握れば、これがさらに加速する公算も高く、ひいてはユーロの信用問題に発展する可能性も指摘されている。
また、ウクライナに射程距離の長い兵器を提供することには反対しており、(どこまで本気かはともかく)マクロンが「“ウクライナへの地上部隊の派遣”という選択肢を排除しない」と述べていることにも反対している。
とすると、フランス議会選挙の行方はヨーロッパ全体にも大きなインパクトをおよぼすと想定される。
それはイギリスにおける2015年のEU離脱の賛否を問う国民投票や、アメリカにおける2016年大統領選挙におけるトランプ勝利と同じような衝撃を呼ぶこともあり得るのだ。