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11月29日だから考えたい「いい肉」とは何かということ

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
特産松阪牛のすき焼き肉(筆者撮影)

何年か前の11月29日、「イイニクの日だからって、そんなに一生懸命肉を食べなくてもいいのでは。商売の人がPR手法として使うのはともかく、食べる側が『肉の日だから肉食べた』みたいなことばかり言ってたら、バカみたいに見えちゃうよ。それよりもっと肉の背景を知り、大切に食べようよ」というような内容の記事を書きました。

すると、とある知人から(僕の知らないうちに)SNSで「アクセス狙いの逆張り」と罵倒され、そこそこ拡散して記事は軽度に炎上しました。いま思えば、その人はあれこれ仕掛ける側の人だったので「こっちが盛り上げてるのに水を差すな」とお腹立ちだったのでしょう。

まあ、どっちもどっちというところでしょうか。

「29日だから肉を食べるって何?」「それよりもっと肉について考えよう」というのは、ただの素直な意見なので「アクセス狙いの逆張り」と言われる覚えはありませんでしたが、当時のブーム消費的なお祭り騒ぎに「うーん」と思うところがあったのが、記事の端々に出てしまっていたのかもしれません。今にしてみればもう少し書きようはあったかな、という気もします。

比べると最近では、遠近問わず最近は肉を大切に食べる人が増えました。「おいしい肉を出す店の予約が取れたから」「通販でいいお肉を手に入れたから」という、とてもまっとうな理由で肉を楽しむ人が増えている印象があります

4~5年前の肉バブル当時は「予約半年待ち」とか「行列2時間待ち」という店が雨後のタケノコのように生えてきていました。ブームは必ずまがい物や劣化版を生み出します。「肉業態を出せば当たる」といった風情で、戦略なき肉専門店が増えていきましたが、流行れば競争は激化します。その後は単なる肉業態というだけでは客入りは厳しくなり、素材の仕入れや調理などを含め「いい肉」を提供する必要に迫られるようになりました。

しかしそもそも「いい肉」とは何でしょうか。

「いい肉」とは何か。定義の百花繚乱

世の中にはさまざまな「いい肉」があります。正確に言うと「いい肉」だと認識されるための要件がいくつかあり、その要件を複数備えた店が「いい肉を出す店」だと認識されるようになっていきます。そして重要なのは「いい肉」は生産者だけでも消費者だけでも成り立ちません。生産者がいて問屋や精肉店がいて、外食ならば飲食店、家庭でも調理する人がいて、ようやく食べる人の胃袋に届く。生産者から始まるこのリレーは、バトンが正しく次の人に手渡されてこそ、食べる人に「いい肉」が届くのです。

例えば、国内でもっとも多くの人から「いい肉」だと思われているのは黒毛和牛でしょう。一般流通する畜産物のなかでは、圧倒的なごちそう感があり、少し前まで日本における肉食と言えば、黒毛和牛のサーロインなどのロース肉をすき焼きやしゃぶしゃぶにするのが、最高のごちそうでした。そりゃあそうです。すき焼きやしゃぶしゃぶといった調理法は、やわらかい肉質とキメの細かいサシを特徴とする黒毛和牛の「いい肉」を最高においしく食べる方法なのです。

黒毛和牛における「いい肉」の要件

1.甘く、口溶けのいい脂身

そもそも食肉を調理する時には、豚や鶏は言うに及ばず、牛肉だろうと脂肪を溶かす程度まで温度を上げるのが鉄則です。ステーキのレアでも内部温度は50℃超まで上げる。つまり牛肉の脂肪の融点よりも高い温度を通過させる。薄切り肉のすき焼きやしゃぶしゃぶなら、短時間調理でも肉は芯まで温まり、脂肪が溶け出します。近年の等級の高い黒毛和牛は脂質の比率が高い傾向がありますが、薄切りなら鍋のなかにサシが落ち、赤身部分とのバランスもいい感じに着地しやすい。しかも卵やポン酢で冷やすことでいったん脂質を締め、口内の温度で再度脂質を溶かすという儀式も、非常によくできています。この工程は口に入る直前で、脂質を溶ける手前ぎりぎりまで温度を下げて、口に入れた瞬間とろけさせる深謀遠慮に違いありません(おそらく)。先人の知恵、恐るべしです。

実は「脂肪の融点」については

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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