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恐ろしいほどセンスがない人にマーケティングを一年間任せた会社に起きた異変 【法人営業大学】

横山信弘経営コラムニスト
(提供:shutterstock)

マーケティングはスポーツと似ている。センスがない人が実践しても、成果など絶対に出ない。

なぜか? 

変数が多すぎるからだ。製造や営業と比べてみよう。

製造にかかわる人は、「モノ」を扱う。対象が「モノ」である以上、想定外のことはそれほど多く起こらないだろう。いっぽう営業にかかわる人は、対象が「ヒト」である。相手が人間だと想定外のことが多く起こる。よく知っている相手ならともかく、新規のお客様が相手だと、仮説を立ててもなかなか当たらない。

では、マーケティングはどうか?

マーケティングにかかわる人は、対象が「不特定多数のヒト」である。基本的に想定することなどできない。意識すべき変数が多すぎるからだ。

にもかかわらず、マーケティングなんて誰でもできる。未経験でも成果を出せると思い込んでいる人が実に多い。

■マーケティングを軽視する企業の特徴

「うちのマーケティング担当に任せておけば、大丈夫です」

「そんなアドバイスは要りません。わかってますから」

マーケティングのプロとして忠告(アドバイスではない)したくても、だいたいの企業はこのように受け入れようとしない。

知識や経験が足りない人ほど自信過剰になる心理現象を「ダニングクルーガー効果」と呼ぶ。まさにこれだ。自信があるため謙虚さがない。日々勉強しようとしないし、プロからの忠告・アドバイスも受け入れない。

「私たちの会社のことですので、私たちが一番よくわかってます」

といって拒絶する。

とくに技術力が高く、歴史のある会社ほどマーケティングを軽視する傾向が強い。勉強不足だから、次のように勘違いしているケースが多い。主な特徴をざっと書き出してみよう。

・B2CマーケティングとB2Bマーケティングの違いが分からない

・SNSやWEBサイト等、デジタルマーケティングしか考えない

・目立つこと(フォロワー数を増やす、再生回数など)に焦点を合わせすぎる

・顧客ターゲットを明確にせず、マーケティング媒体を選ぶ

・営業力が弱いのにマーケティングに力を入れる

最もやってはいけないのは、最後の「営業力が弱いのにマーケティングに力を入れる」である。いわゆる

「バケツに穴が空いているのに、水を入れ続ける」

という行為だ。マーケティングという手段を目的にしていると、時間とお金、そして従業員のやりがいを浪費することになってしまう。

■恐ろしいほどセンスがない人に、マーケティングを一年任せた結果

恐ろしいほどセンスがない人に、マーケティング担当を一年間任せた会社がある。結果は散々であった。

60年以上の歴史がある、技術力も高く、安定した顧客基盤もある会社だった。事業承継も成功し、右肩上がりに事業は成長していた。しかし近年は10年ほど横ばいが続いていた。従業員の平均年齢が上がったこと、賃上げをしていること、社員数も微増していることなど、いろいろな要因が重なり、売上が現状維持だと利益が出ない体質に陥っていた。

そこで売上アップのためにマーケティング部を新設したのだ。マーケティング経験のない企画部の2人と、新入社員1人を担当に据えた。しかも多くのマーケティング施策を実行するため、さらに人材を募集して1人増やした(しかも未経験の!)。

マーケティングなど、誰でもできると判断したのだろう。これが大きな間違いだったのである。税務や法務の業務だったら、はたして素人に任せただろうか。

このマーケティング部が実施したことは、次の3つである。

(1)展示会への参加(年6回)
(2)ウェブサイトのSEO対策とネット広告
(3)SNSを活用した情報発信(Xとインスタグラム)

実施案を見る限りでは、十分すぎると思われるかもしれない。実際に一年後、新規のお客様は増え、売上も微増となった。マーケティング部長は

「成果は十分ではなかったが、それなりに実績を残せた」

と胸を張った。社長や経営陣も納得していたようだが、私は強烈なダメ出しをした。確かにWEBサイトからの問い合わせは増えたし、展示会を通じて商談も増えた。しかし、お金と時間をかけすぎた。最終決算で、大幅な赤字となったのだ。

原価計算的に考えたら、理解できるだろうか? 「顧客獲得コスト」を試算するために、

(1)営業の労務費
(2)マーケティング活動のコスト
(3)マーケティング担当の労務費

を考慮すると、(2)と(3)の増加分が大きすぎたのである。この経験が次に活かせるのならいいが、そうでないから悲劇だった。

その証拠に、1年間マーケティングを経験した4人には、正しい知識と技術がほとんど残っていなかった。会話をすればすぐに分かる。いろいろなマーケティング施策を繰り返したのに、何も学んでいないのだ。

なぜ、こんなことになってしまったのか?

マーケティング部のトップに、センスがなかったからだ。それに尽きる。そこで、私が考えるマーケティングセンスがある人の特徴を紹介していこう。

■マーケティングセンスがある人3つの特徴

それでは、私が考えるマーケティングセンスがある人3つの特徴について解説していく。それが次の3つである。

(1)強い好奇心
(2)前提知識の習得
(3)絶対達成マインド

(1)強い好奇心

マーケティングに対する強い興味と好奇心は、センスがある人に共通する重要な特徴だ。単に興味があるだけでは不十分。

他社の成功事例を常にウォッチし、研究しているか? 有名なマーケッターのSNSアカウントをフォローし、その動向を追いかけ続けているか? 最新のマーケティングトレンドや技術を常に把握しようとしているか?

他の職種と異なり、マーケティングは「絶対的な方程式」がない。あまりにもフワッとしていて、なぜそれでうまくいくのか、うまくいかないのかを言語化できないことがとても多い。冒頭に紹介した通り、変数が多すぎるからだ。

(2)前提知識の習得

好奇心を持つだけではなく、日々勉強を続ける姿勢が重要だ。特にB2Bマーケティングの分野は日進月歩。日頃から最新の情報をキャッチアップする必要がある。古典的なマーケティングの書籍に加え、最新のマーケティング本も定期的にチェックすることが求められる。

研修での知識や情報の収集も重要だ。しかし研修では、ごく基礎的なことしか教えてもらえないことが多い。最低でも月に1~2冊のペースでマーケティング関連の書籍を読み続けることを目安にしよう。

そして、その著者の発信内容(たとえ有料でも)を追いかけ続けるのだ。一度身につけても、磨き続けなければマーケティングセンスを維持することはできないのだから。

(3)絶対達成マインド

マーケティングセンスがある人は、目標達成に対する強い意欲を持っている。絶対達成マインドがあるからこそセンスが磨かれる。

見込み客獲得などの目標(KGI)を設定し、そこから逆算してKSF(成功の鍵となる要因)やKPI(重要業績評価指標)を定める。その数字を常にウォッチする習慣を持とう。

たとえば展示会やセミナー、ポスティングといったアナログな手法を使っても、数字を常に意識し、目標を絶対達成するために粘り強く改善を続ける。

デジタルマーケティングであればなおさらだ。

SNSやWEBサイトを使ったマーケティング活動では、アナリティクスを日々ウォッチし、データをもとにした改善を続けることが基本。

「ブログを書いた」「メルマガを出した」「SNSで毎日配信している」という、「やった/やっていない」というデータだけでは、仮説検証はできない。

何をどれぐらいやって、どれぐらいのリターンがあったか。すべてを数字で把握し、その結果に基づいて仮説検証サイクルを回し続けられない人はセンスがあるとは言えない。

■マーケティングで成果を出せないと命とりになる

先述した企業は、一所懸命に展示会を企画・運営していた。不慣れでも毎日のようにSNSで情報発信を続けていた。WEBサイトのSEO対策のみならず、ネット広告も積極的に活用してサイトへのアクセス数を増やそうと尽力していた。

ただ、誰も展示会について研究している者はいなかった。展示会の導線、展示ブースの配置、アンケートや名刺交換後のフォローの方法まで、細かく決めていなかった。

SEO対策やネット広告は専門業者の言いなりで、自分たちでアナリティクスをチェックしながら日々仮説検証をすることもしていなかった。SNSにいたっては毎日の配信ネタを考えるばかりで、完全に目的を見失った活動になっていた。

マーケティング活動の目標もなければ、そのためのKSFもKPIもない。ただひたすらに、いろいろな施策をやり続けていただけなのだ。

やりがいを感じられたのは最初だけだ。経営陣からは

「一所懸命にやってるな。頑張れよ」

とは声をかけられるが、営業部門からは

「忙しくやってる割には、まったく見込み客が増えていない」

総務部門からも、

「経費使いすぎだろ。SEO対策やネット広告で成果出てるの?」

と嫌味を言われる。結果、マーケティング担当4人のうち2人が退職し、残った2人は企画部に戻って別の仕事に従事することになった。

その後、どうなったか?

新規の見込み客は、毎月50万円ほどの注文をいただける企業を10社ほど増やせば十分だった。そのポテンシャルのある企業のリストは社内に80社ほどあり、あと20社を社長や会長の人脈から集めて、営業に1年間接触してもらった。すると、11社の新規契約をいただくことができたのだ。

この会社においては、展示会も、WEBサイトも、SNSも必要なかったのである。マーケティングコスト(担当の労務費含む)を増やすことなく、営業の行動を変えるだけで成果を出すことができた。

営業にはそれほどセンスなど必要はない。センスに頼ると、個人によって営業成績がばらつく。大事なことはルールに沿って愚直にやることだ。ただし営業の場合、それなりに人数も必要だ。

いっぽうマーケティングは営業に比べて人数は必要ない。しかし絶対的なセンスが必要だ(もちろん愚直さも兼ね揃えていないといけないが)。だからこそマーケティング活動を任せるときは、慎重に人選しよう。先述した3つのポイントができるかどうか、である。

「マーケティングなんて、誰でもできる」

そんな風に勘違いしたら、企業にとって命とりになる。知らない間に、ドンドン経費が垂れ流されるからだ。

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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