嫌われ百合子の「完勝」と嫌われ蓮舫の「完敗」がもたらすもの
フーテン老人世直し録(760)
文月某日
東京都知事選挙は自民党と公明党が陰で支援した現職の小池百合子氏の「完勝」、立憲民主党、共産党、社民党が表で支援した蓮舫氏の「完敗」だった。支持政党を持たない無党派層は前広島県安芸高田市長の石丸信二氏に希望を見出し、それが旋風となって無名の新人を2位に押し上げた。
5月27日に蓮舫参議院議員が都知事選に出馬を表明した時、フーテンは「嫌われ百合子と嫌われ蓮舫の天下分け目の関ケ原の戦い」と題するブログを書いた。この都知事選を「小池対蓮舫」の女性対決になると見たからだ。
それは同時に自民、公明と立民、共産、社民の2大陣営の戦いの構図になり、維新、国民、れいわなどその他の政党、そして無党派層がどちらの陣営に加勢するかで勝負が決まる「天下分け目の関ケ原」になると予想した。
また「嫌われ」と書いたのは、2人ともが他人から好かれるタイプの女性政治家ではない。典型的な嫌われキャラで、その嫌われの度合いの少ない方が無党派層の支持を獲得し、その優劣で勝敗が決まると予想した。
そしてブログの中では、立民が4月末に行われた衆院補欠選挙で3戦全勝したことを自分たちの勝利だと勘違いしていることを批判した。自民党全敗となった選挙結果は、投票率が軒並み過去最低だったことから分かるように、自民党支持者が選挙に行かなかったためで、立民が支持されたわけではない。それを立民は分かっていない。
そのうえで補欠選挙で「完敗」したのは維新と小池都知事だと書いた。維新の馬場代表は「立民を叩き潰す」と豪語したが、長崎3区でも東京15区でも立民に全く歯が立たなかった。もっとひどかったのは東京15区で小池氏の担いだ乙武洋匡候補が4位になり惨敗したことである。
この時こそ蓮舫氏が都知事選に名乗りを上げるチャンスだった。小池氏に「負け犬百合子」のレッテルを貼り、「自分は退路を断って都知事選に出馬し、自公政権を国政レベルで打倒するための捨て石になる」と訴えれば、政治状況が動いたと思う。しかし蓮舫氏はそれをしなかった。
5月26日の静岡県知事選と目黒区議補選で立民の推す候補が自民党に勝つまでの1か月間、じっと待っていたため小池氏に「完敗」イメージからの脱却を許し、蓮舫氏には捨て身になれない「保身」のイメージが付いた。
蓮舫氏は本気で都知事選に勝とうとしておらず、衆議院への鞍替えを狙っていてそのための事前運動として都知事選を利用していると言われた。小池氏は最初の都知事選ですべてを敵に回して捨て身の勝負に出た。それが勝負師としての資質を感じさせ、一躍評価を高めたが、蓮舫氏にはそれがなかった。
そう考えると、小池氏が東京15区の補欠選挙に自民党も公明党も難色を示す乙武氏を擁立した目的が、選挙に勝つためではなく、わざと「完敗」して蓮舫氏を出馬に誘い出す策略だったのかもしれない。誘い出して2度と都知事選に出られないように大敗させる気だったのだ。
メディアは小池氏が東京15区の補欠選挙に自身が立候補して衆議院議員になると見ていた。中には自民党に戻った小池氏が、秋の自民党総裁選に出馬して総理になるつもりだと書いたバカもいたが、小池氏が自民党に戻ることなどありえない。
6月12日に小池氏が出馬表明した直後、フーテンは「嫌われ百合子が狙うのはガラガラポンの政界再編ではないか」とブログに書いた。石原慎太郎氏が都知事を辞めた後で新党を立ち上げ政界再編を試みたように、小池氏も自民党に戻ることなど考えていないと思うからだ。
その中でフーテンは小池氏が蓮舫氏に続いて出馬表明せず、一定の時間を置いたことを「小池氏の勝負師としての勘は鈍っていない」と評価した。蓮舫氏の直後に出馬表明すれば、すべてが蓮舫氏の後追いになり、選挙戦の主導権を奪われかねない。しかし小池氏は流れを断ち切り主導権を渡さなかった。
そして裏金事件を追い風にしようとする蓮舫氏に対し、小池氏は当たり前の話だが都政が争点の選挙公約を打ち出した。これが見事に蓮舫氏の弱点を突いた。蓮舫氏の狙いは都政より国政にあり、国政を材料に自民党批判を展開しようとしたが、小池氏はそれを争点化させなかったのだ。
この時点でフーテンは「天下分け目」どころか蓮舫氏には勝ち目がないことを確信した。しかしその時点で石丸氏という新人が2着になるとは考えていなかった。そのためフーテンは歴代都知事で3期目以上をやった過去の事例から、全員が2回目選挙の獲得票数が最高で3回目は必ず票を減らすことを計算し、小池氏が290万票なら大勝利だと書いた。
そこで2年前の参議院東京選挙区の選挙結果を見てみた。自民、公明、都民ファーストの得票数は257万票、これに乙武氏が獲得した票を加えると290万票になる。つまり裏金事件を影響させなければ勝利できる。それを意識して小池氏は選挙戦を組み立てたと思う。
一方の蓮舫氏は22年の参議院選挙が過去最低だった。蓮舫氏の初出馬は2004年、獲得票数は92万票で3位である。それが10年は171万票の1位、16年も112万票で1位だが、22年は半減の65万票で4位に沈んだ。そこから蓮舫氏は衆議院への鞍替えを考え始めたと思う。
22年の共産党と社民党の得票数を加えると178万票、これにれいわと維新の得票数を足すと285万票で小池氏と互角になる。つまり蓮舫氏は立民、共産、社民の支援だけでは小池氏と互角になれない。
しかし4月の東京15区の補欠選挙で、れいわは立民と異なる候補を支援した。蓮舫氏はれいわと維新を味方にしなければならないのにそれができない。つまり蓮舫氏に都知事になる目はなかった。だから無党派層に期待し盛んに若者にアピールしたが、嫌われキャラがその効果を失わせ、爽やかキャラの石丸氏に無党派票を持っていかれた。
今度の選挙で小池氏は291万票獲得した。前回366万票から減ってはいるが、歴代の都知事はみな3回目は減っている。美濃部知事など95万票も減らした。そして小池氏の減り方よりひどいのは蓮舫氏の票の減り方だ。
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