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嫌われ百合子が狙うのはガラガラポンの政界再編ではないか

田中良紹ジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

フーテン老人世直し録(756)

水無月某日

 都議会最終日の6月12日、小池百合子東京都知事が都知事選への3選出馬表明を行った。当初は都議会初日の5月29日に行うとみられていたが、27日に立憲民主党の蓮舫参議院議員が出馬表明したため小池氏は取りやめた。

 蓮舫氏に続いて出馬を表明すれば、小池氏は蓮舫氏の後を追う形になり、蓮舫氏のペースに巻き込まれる恐れがあった。それを避けるため小池氏は都政に専念する姿を見せ、蓮舫氏と無関係の立ち位置を作り、それから出馬表明に踏み切った。

 それによって小池氏は都知事選の主役は自分で、蓮舫氏は自分に戦いを挑む挑戦者の一人にすぎないこと、つまり同格ではないことを見せつけた。それを見てフーテンは小池氏の勝負師の勘は鈍っていないと感じた。同じ出馬表明でも29日と12日とでは天と地の違いがあることを小池氏は読み切っている。

 一方の蓮舫氏はこの都知事選を国政レベルに引き上げたい。「東京から日本を変える」というのは都知事選立候補者の常套句だが、裏金問題で国民の怒りが自民党に向けられている時、都知事選を政権交代実現の方法と位置づけ、自公が支援する小池氏に勝てば、次の国政選挙での政権交代も夢ではないと考えている。

 これに対し小池氏はあくまでも都政を選挙争点に、少子高齢化や人口減少、防災対策などの課題に力を入れる方針を示し、さらに自民党と公明党には推薦を求めず、都民ファーストの会も含め自主的な支援を受ける形にした。

 国民の逆風を受ける自民党との距離感について、東京15区の衆議院補欠選挙の時から小池氏が意識的に策をめぐらせた可能性をフーテンは感じている。あの選挙は謎が多い。公職選挙法違反で特捜部に逮捕・起訴された柿沢未途前衆議院議員は容疑を否認していたのが一転認めて議員を辞職した。誰かと何らかの取引をした可能性がある。

 するとにわかに小池氏の国政への転出が注目され、しかし小池氏が乙武洋匡氏を擁立したことで一件落着した。謎はなぜ小池氏が自民党と公明党から支持を得られない乙武氏を擁立したかである。その結果、乙武氏は4位と惨敗し、小池氏の影響力に赤信号がともった。

 フーテンはあの3つの補欠選挙をメディアが「自民全敗、立民全勝」と騒ぎ立てることに違和感を持った。自民全敗はその通りだが、立民全勝と評価して良いのかという疑問だ。投票率が過去最低だったことを見れば、自民党に投票してきた有権者が投票に行かなかった結果で、立民が積極的に支持されたわけではない。それを自分の勝利と錯覚すれば足元をすくわれる可能性がある。

 あの選挙で「完敗」したのは維新と小池百合子だとフーテンはブログに書いた。維新は「立民を叩き潰す」と豪語したが、長崎でも東京でも立民の後塵を拝した。そして小池氏には乙武氏惨敗で赤信号がともった。しかし今になれば、小池氏は「完敗」のふりをしただけだという気がする。

 何のためのふりか。選挙で力がなくなったと思わせ、蓮舫氏を選挙に出馬させて、その選挙が共産党の支配下に置かれることを周知させ、自公がすり寄ってでも小池氏を支援する形にする。さらに立民の後ろ盾である連合を取り込んでその間にくさびを打ち込めば、連合を取り込みたい岸田政権にも恩が売れる。

 一方、小池氏と違って維新の「完敗」はますますひどくなった。政治資金規正法改正の動きの中で、岸田政権は旧文通費の改革に前向きな姿勢を見せ、維新と合意書を交わすことで衆議院では維新が賛成に回った。ところが浜田自民党国対委員長は今国会での法改正を「日程的に難しい」と発言した。

 それは国会延長をやらないという意味だが、これに維新は「騙された。嘘つき」と岸田政権を批判し、参議院では政治資金規正法改正案に反対する可能性をちらつかせている。政治の世界では騙すより騙される方が悪い。特に国際政治は騙しのオンパレードだ。そんなことを言っていたら地方議員は務まるかもしれないが、国会議員は務まらない。その程度の議員の集まりであることを維新は世間に知らしめた。

 自民と立民の国対委員長は17,18日の両日に参議院政治改革特別委員会を開いて採決を行い、今国会中に改正案の成立を図ることを決めた。その時、維新は反対に回るのか、反対に回っても法案は成立する。そうなると19日に行われる党首討論が与野党攻防の最後の山場で最大の見せ場になる。そこで岸田総理と対峙する泉健太、馬場伸幸両代表の力量が問われる。

 翌20日には都知事選挙が告示され、7月7日まで政治は都知事選一色となる。国会を舞台にした裏金追及はなくなり、裏金追及を続けたい野党は選挙の場で訴え続ける。それと都政を争点とする小池都知事の訴えのどちらが説得力を持つか、それが選挙の注目点だ。

 そしてフーテンが気になるのは最初の都知事選の時から小池氏を応援してきた若狭勝弁護士の存在である。今度の選挙でどうするのか知らないが、彼は元特捜部検事である。特捜部の情報に詳しいことから政治家と政治資金の関係についていろいろな情報を持っている可能性がある。それが選挙を左右するかもしれないと思う。

 そして蓮舫氏に厳しい見方を示せば、フーテンはもっと早く、補欠選挙で乙武氏が4位になり小池氏が選挙に負けた時点で、追い打ちをかけるように出馬表明すべきだったと思う。「鉄は熱いうちに打て」でその時点なら小池氏にはマイナスイメージがついていた。

 ところが蓮舫氏は静岡市長選挙と目黒区議会議員補欠選挙で立民が自民に勝つまで待った。そこにフーテンは保身を感ずる。国政レベルの政権交代を目指し、そのための捨て石になる覚悟を示せば、それは有権者を揺り動かす力になったと思う。

 小池氏が最初の都知事選に出馬した時、周囲は敵だらけだった。身を捨てる覚悟で挑んだことが都民の支持を得て、自民党や民進党の推薦候補を破る原動力になった。それと比べると蓮舫氏の出馬は衆議院への鞍替えを狙う手段に見えてしまうところがある。

 蓮舫氏が最初に参議院東京選挙区から出馬した2004年、獲得票は92万票で第3位だった。それが2010年には171万票で第1位、2016年も112万票で1位だったが、2年前の2020年には67万票で4位と激減した。

 1位は自民党の朝日健太郎92万票、2位は公明党の竹谷とし子74万票、3位は共産党の山添拓68万5千票、そして蓮舫氏は67万票の4位である。その落ち目になった頃から衆議院への鞍替えがしばしばニュースになった。だから蓮舫氏が衆議院への鞍替えを狙っていることは知られた話である。

 22年の選挙で共産党候補が蓮舫氏を上回る票を獲得したのを見ると、共産党の支援を受けることが衆議院への鞍替えの際に必要であると考えられる。そのため今回の都知事選を鞍替えに利用しようとみられても仕方がない。

 4月28日の補欠選挙で小池氏が躓いた直後、蓮舫氏が出馬を表明していれば、それは自民党から政権を奪還するため好機を逃がさず、強力な敵を倒すために身を捨てる覚悟で立候補したというストーリーを作れた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:7月28日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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