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嫌われ百合子と嫌われ蓮舫の天下分け目の関ケ原の戦い

田中良紹ジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

フーテン老人世直し録(754)

皐月某日

 立憲民主党の蓮舫参議院議員が東京都知事選挙への立候補を表明した。これで小池百合子東京都知事との「女性対決」の激戦の幕が切って落とされた。2人の対決は8年前に起きてもおかしくなかったが、ようやくここにきて実現したのは自民党に逆風が吹いているからである。

 先月末の衆議院補欠選挙の自民党「全敗」と立憲民主党「全勝」をフーテンは全く驚かなかった。「政治と金」の話となると目の色を変えるのが日本人で、ロッキード事件以来その姿を半世紀近く見続けてきた経験から言えば、自民党の「全敗」は当然だ。

 むしろ奇妙なのは、それが岸田総理の責任であるかのように言われ、「岸田おろし」と絡めて報道されるところに政局のにおいを感じる。つまり現下の政争は与党と野党が戦っているように見えるが、後ろから鉄砲玉が飛んでくる自民党の内部抗争でもあるのだ。

 したがって立憲民主党が「全勝」を過大評価し、自分たちの勝利であるかのように考えると、いずれ足元をすくわれるとフーテンは思った。立憲民主党の全勝は、投票率がどの選挙区でも過去最低だから実現した。つまり自民党に投票する有権者が投票しなかったことで実現した勝利である。次の選挙では今回の当選者が全員落選する可能性もある。

 補選で特筆すべきは、維新と小池都知事の「完敗」だ。維新の馬場代表は選挙前に「立憲民主党を叩き潰す」と豪語したが、長崎3区でも東京15区でも立憲民主党に大きく水をあけられ、野党第一党になるどころではない。関西以外に手を出すのはまだ早いという印象を国民に植え付ける結果になった。

 そして東京15区で小池都知事が担いだ乙武候補は惨敗した。それも4位に沈んだのだから小池都知事は完敗である。その瞬間をとらえて強力な対抗馬が現れれば、小池都知事の完敗が都民に印象付けられ、出馬表明までに「負け犬百合子」のレッテルが貼られ、出馬を躊躇させることもできるとフーテンは思った。

 ところが誰も名乗りを上げず、そのうち一時騒がれた小池氏の「学歴詐称問題」も下火になり、代わって東京の区市長の一部が出馬を要請する儀式が用意され、小池都知事は29日に出馬表明すると報道された。しかし本人は出馬するとは決して言わない。

 そこに蓮舫参議院議員の出馬表明があったのである。蓮舫氏は会見で自民党の裏金問題を厳しく批判し、その自民党や公明党と連携している小池氏を断罪、「小池都政をリセットする」と戦闘宣言を発した。

 これまで勝負師として人並外れた能力を見せつけてきた小池氏に蓮舫氏は真っ向から戦いを挑んだ。勝負師が売られた喧嘩を買わないはずはない。戦いは自民、公明を中心とする勢力と立民、共産を中心とする勢力に、他の諸政党がどう加勢するか、今後の政治動向を左右する天下分け目の関ケ原がいよいよ始まることになる。

 ところで蓮舫氏は8年前に周囲から都知事選に立候補するよう勧められたにもかかわらず、「国政で頑張りたい」と断ったことがある。2016年6月、公私混同が激しいと批判され辞任した舛添要一都知事の後任を決める選挙の時だった。

 当時、第二次安倍政権の復活を許した民主党は、もはや政権を担った時代の面影はなく、維新と合流して民進党を結成したが、代表代行だった蓮舫氏は代表の座を狙っていた。フーテンは蓮舫氏にその資質はないとみて、都知事に転出することが本人にも党のためにも最善だと思い、ブログにそう書いたことがある。

 しかし蓮舫氏はそうしなかった。この時、自民党の了解を得ないまま都知事選に立候補したのが小池氏だった。安倍総理の下で不遇だった小池氏は捨て身の勝負に出て、増田寛也氏や鳥越俊太郎氏など自民党や民進党の推薦候補を抑え、290万票を超える得票数で都知事に就任した。もし蓮舫氏が出馬していたらどうなったか、想像をめぐらすと興味深い。

 蓮舫氏は念願の民進党代表になったが、フーテンの見立ての通り発言が二転三転して1年しか持たず、その後は参議院から衆議院の鞍替えを狙っていることがニュースになるくらいで、泉健太氏が立憲民主党代表になると執行部から外れた。NHKの「国会中継」で政府攻撃の鋭い追及を時々見せるだけの存在になった。

 それが「政治と金」の裏金問題で自民党への逆風は続くと見たのだろう。出馬を決断したのは、26日の静岡県知事選挙と目黒区の区議補欠選挙で、自民党が推薦した候補が敗れたのを見届けてからだと言われる。

 しかし一方で小池氏は蓮舫氏が出馬するのを予想していたという情報もある。周囲が小池氏の国政復帰を予想する中で、東京15区の補欠選挙に自分が出るのをやめ、都政を蓮舫氏に渡さないため、自分は都知事選に立候補すると言ったというのだ。それなら最初から蓮舫氏を打ち負かす作戦を立てていたことになる。

 そこで小池氏の最近の動向を検討してみる。フーテンが不思議に思ったのは、東京15区選出の柿沢未途前衆議院議員の公職選挙法違反事件である。当初は否認していた柿沢氏が一転して検察と争う姿勢をやめた。秘書はそれに不服で今も裁判で無罪を主張している。柿沢氏は誰かと何らかの取引をした可能性がある。

 この事件がなければ東京15区の補欠選挙が島根1区、長崎3区と同じ日に行われることはなかった。それが行われることになると、すぐに岸田総理と小池都知事が会談した。そのため小池氏の国政復帰がにわかに取りざたされ、補欠選挙に小池氏が出て衆議院議員になり、秋の自民党総裁選挙で総理を目指すという噂が流れた。

 自民党に後ろ足で砂をかけた小池氏が自民党総裁になることはあり得ないとフーテンは思い、岸田総理が3選挙区での全敗を避けるため協力を依頼しただけだと見ていた。すると小池氏は自民党や公明党が嫌がる乙武氏を15区の候補者にした。これが謎の始まりだ。

 そして昵懇の仲である二階俊博氏と会食した際、同席者が国政復帰を促したのに対し、蓮舫氏から都政を守るため都知事選挙に出馬する意思を示したというのだ。石原慎太郎氏は都知事をやめるつもりだったが、東京五輪をやりたい森喜朗氏に頼まれて4期目の都知事選挙に出た。

 しかし1年で都知事を辞め、それから国政に復帰した。それでも自民党には戻らず新党を立ち上げて代表になった。石原氏も後ろ足で自民党に砂をかけたことがあるからだ。小池氏が考えているとすればこのシナリオだとフーテンは思う。

 もう野党はどうしようもなく力を失い、自民党の「政治と金」で一瞬息を吹き返したが、それはいつまでも続かない。そこでタイミングを見て都知事を辞め、新党を立ち上げそれを政界再編の起爆剤にし、ガラガラポンの先頭に立つのが小池氏の頭の中にあるように思う。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:7月28日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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