茹で時間0秒も? 博多ラーメンの麺はなぜ細いのか
ラーメンの麺は太さや形状が多種多様
ラーメンの麺には様々な種類があるが、その分類は主に「太さ」「形状」「加水率」で分けられる。麺の太さは太いのか細いのか、形状はストレートなのか縮れているのか、水分をどのくらい含んでいるのか。さらには切る刃の形状によって丸いのか四角いのか平打ちなのかの違いもある。ラーメンの麺はうどんや蕎麦と比べるとかなり多種多様なのだ。
麺の細さは製麺機の切り刃の「番手(ばんて)」で決まる。これは、JIS(日本工業規格)で定められている基準で、幅30mmの麺帯から何本の麺を切り出すかによって、切り刃に番号がつけられている。1番ならば太さ30mmの麺で、逆に30番ならば太さ1mmの麺になり、数字が小さいほど太麺、数字が大きいほど細麺であることを表している。
例えばきしめんは4番(7.5mm)で、うどんの場合は10番(3mm)。ラーメンの場合は一般的に14番(2.14mm)から28番(1.07mm)が使われることが多い。つけ麺の麺が10番(3mm)前後、札幌ラーメンの麺は20番(1.5mm)前後と言われる中で、博多ラーメンの麺は26番(1.15mm)前後とかなりの極細だ。中にはそうめんと同じ30番(1mm)というものもある。
スピーディーに提供するために生まれた極細麺
元々、博多ラーメンの麺は現在ほど細くはなかった。1940(昭和15)年に創業した「三馬路」が博多初のラーメン屋台と言われているが麺は平打ち麺だった。また、戦後の1946(昭和21)年には、博多で豚骨ラーメンが誕生し、屋台で人気を博したのちに『博龍軒』と『赤のれん』となるが、いずれも麺は今よりも太めで形状も平打ちだ。
博多ラーメンの細麺のルーツは長浜ラーメンにある。長浜ラーメンとは博多漁港に面する長浜で生まれたラーメンのこと。1952(昭和27年)に開業した屋台「元祖長浜屋」がその発祥と言われている。競りなどで忙しく時間がない魚市場の人たちのために、素早く提供出来るように麺を細麺にして茹で時間を短縮。細麺は伸びやすいため、麺の量は少なくしてお替わりが出来る「替玉」のシステムも長浜で生まれた。
細麺で替玉という長浜ラーメンのスタイルは、いつしか同じ福岡市内の博多ラーメンにも採り入れられるようになり、現在では長浜ラーメンと博多ラーメンの境界線は曖昧になっている。古くからの博多ラーメンのスタイルを守っている店では、いまだ麺は平打ちで替玉ではなく大盛りという店もあるが、現在ではかなりの少数派であり、博多ラーメンは細麺で替玉が基本と言って良いだろう。
茹で時間0秒も?日本一多い麺の茹で加減
博多ラーメンの麺は細麺な上に加水率も低い「低加水麺」だ。加水率とは小麦粉の分量に対する水の割合のことで、一般的に中華麺の場合は30~35%が標準値となる。加水率30%以下の麺を「低加水麺」と呼び、加水率35%以上の麺を「多加水麺」と呼ぶ。
「低加水麺」は麺が含有する水分量が少ないため、スープをよく吸収して伸びやすい傾向にある。しかも博多ラーメンや長浜ラーメンの麺は細いので、さらに茹で伸びするのが早い。そのために麺の量も一般的なラーメンの量(130g〜160g)よりも少なめ(100g程度)で、大盛りではなく麺をお代わりする替玉が生まれたとも言われている。
博多ラーメンの麺は細くて水分を吸収しやすいため、茹で時間も他のラーメンの麺と比べると格段に短い。一般的なラーメンの麺は少なくとも3分前後は茹でるのに対して、博多ラーメンの場合は30〜45秒程度でサッと硬めに茹で上げるのが基本。さらに硬めが好みであれば「カタ」「バリカタ」などと注文すれば、博多ラーメンならではのザクッとした食感を楽しむことが出来るだろう。
「バリカタ」よりもさらに茹でる時間が短い「ハリガネ」「粉落とし」「湯気通し」なども一部の店では存在するが、一般的とは言い難い。究極は「ナマ」で、茹で時間は1秒未満だが、当然火が麺に入っていない状態なので消化不良を起こすため、あまりおすすめは出来ない。逆に地元のラーメン好事家には、1分以上かけてしっかりと茹でる「ヤワ」「ズンダレ」好きも少なくない。
ラーメンの麺は同じ小麦粉でありながら、形状や茹で加減で驚くほどに違いをみせる。ぜひラーメンを食べる時にはその麺の形や茹で加減にも注目して欲しい。そして博多ラーメン店に足を運んだ際には、自分好みの茹で加減を見つけて欲しい。ラーメンの楽しみ方がもっと広がることだろう。
※写真は筆者の撮影によるものです。
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