【韓国の新型コロナ】ソウル梨泰院の集団感染者は119人に。「想定外」食い止める戦いは「スピード勝負」
6日に発覚し、日本でも連日報じられる「ソウル梨泰院クラブ集団感染」。13日午後の韓国政府疾病管理本部の会見では、その数が「119人」に達したと報告された。筆者は発覚直後の5月10日には「それほど慌てていない」という視点で記事を記した。しかしその後、事態が少し変わってきた。今回は「想定内」と「想定外」のポイントの整理を。
「制限緩和と追跡可、全員検査」はセット
まずは13日午後に疾病管理本部から発表となった統計から。今回の話の基本となる数字はこの点だ。
関連集団感染者合計 119人
梨泰院エリアでの1次感染 76人
それ以外の地域での2次感染 43人(エリア別ではソウル69, 京畿道23, 仁川15, 忠清北道5, 釜山4, 全羅北道、慶尚南道, 済州道それぞれ1)
本件関連ですでに行った検査数 2万2000件(対象者は4月24日から5月6日までに梨泰院の全クラブを訪れた人/自己申告含む)
既報の通り、韓国は5月6日から社会の中での行動規制要請を「第2段階」から「第1段階」に緩めた。
「緩めたのなら、何か問題は起きる」という想定があった点は10日に記した通りだ。
【韓国の新型コロナ】ソウル梨泰院の新たな集団感染にも「それほど慌てず」。背景にある日韓の事情の違い。
連日2回ずつ行われる韓国の政府を閲覧しているが、「制限緩和」は「たとえ感染が起きても追跡可能な制度」とセットになっていると感じる。また「追跡の後にとにかく全員にPCR検査要請」という点も。現に5月13日午前のソウル市の会見では「今、一番必要なことは検査」と言い切っている。政府の疾病管理本部側からは連日「プライバシーは出来る限り守るので名乗り出て、検査を受けてほしい」という通達が出ている。
当然のごとく、行動規制を緩めれば新たな感染は生じうる。今回のような「気の緩み」であれ、不可抗力であれ。ここは日本でも同じく考えなくてはならないところだ。
いまだ2000人と連絡取れず。”隠蔽性”が「想定外」を生んだ
ただし、6日の集団感染発覚以外、想定外の出来事が起きている。
その象徴として、高校3年生の優先的な学校再開」が延期になった。本来は13日からの予定だったが、23日からとなったのだ。10日の時点でも政府側が「自治体がまだ協議中」と話していた。
原因は「感染発生現場の思った以上の入り組んだ情報」にある。つまり、「感染が起きてしまった以上、追跡する」「全員にPCR検査を要請する」という原則が適応できないのだ。
集団感染は5月2日の0時過ぎから未明にかけて起きた。まだ行動規制が緩和される前だったが、連休中の韓国は行楽ムードに湧いた。そこで2つの「想定外」が起きた。
・同業界の営業に義務付けられていた「出入した客の名簿作成がずさんだった」
・出入りした客が名乗り出ない状況にある。
前者は政府疾病管理本部の発表によるものだ。ちなみに「マスク着用の義務」が守られていなかった点も明らかにされており、現場の態勢や当事者の心がけが世論の怒りを買っている。
後者は国内メディアの取材によって明らかになった。LGBTとも関わりがある点を「世界日報」が最初に報じた。日本でも文春オンラインがこの点を掘り下げている。「当日そこにいたことを名乗り出にくい状況」にある。
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また、もともと梨泰院地域にウィルスが存在していたという可能性も否定できず、韓国政府側は今回の行動追跡・検査の日付を4月24日(クラブの条件付き営業が解禁となった日)から5月6日まで拡大した。このため、追跡対象も同期間の梨泰院地域全体のクラブ訪問者5500人となった。
現地メディアは11日の時点で「政府は3000人と連絡不通」とし、13日の時点でもいまだ「2000人」と報じている。若者が多く訪れる街だけあって、無症状なことも多く申し出を避ける傾向にもあり、話を難しくしている。
「隠蔽性」へのアレルギー
この「隠蔽性」という大きな問題に対して、韓国社会では痛恨の経験とアレルギーがある。
2月に起きた宗教団体「新天地」に関する集団感染でのことだ。この際にも「隠蔽」「追跡が困難」が問題になった。
・最初の感染者となった「31番患者(60代の女性)」が、発熱があったにも関わらず「中国に行ったことがない」として当局からの検査の勧告を拒否。
・複数の礼拝を訪れていた。
・教団側が信者の名簿提出を拒否。
・教団信者がSNSで「教団とは関係ないと言え」というように指示
・実際に着信を拒否する信者が相次ぐ
この点から、「また“追跡不可の問題”がぶり返したのか」という点が重大なポイントになっている。そして世論の怒りの多くは「この問題のだけのために、他が上手く進めていた点を台無しにした」という点だ。2月もそうだった。20日に宗教団体の集団感染が発覚する直前まで、文在寅大統領が「もうすぐ終息に向かう」とまで発言していたのだ。
想定外を防ぐため、政府は「スピードが命」と強調
「想定外」がどこまで広がっていくか。この点が今後の見方だ。13日午後に再びSNS上で韓国の国内の”温度感”を聞いてみた。京畿道在住の40代男性がこんな答えをくれた。
「連休中に厳しい規制を続けなかった以上、どこかでこういった問題が起きるのは時間の問題とも見ていました。じきにソウル市内の他地域でも今回の集団感染に端を発する感染事例が出てくるのではないかと思っています。ご存知の通りソウルは地下鉄で交通網がしっかりと繋がっていますから。感染者が他の場所に行かなかったわけがない」
現に13日には「ヘラルド経済」が「連休中(4月30日-6日)にソウル市内の小学校の先生計158人が梨泰院を訪れていた」という自己申告での調査結果を速報で報じた。これは学校の本格再開に向けても緊張感が走ったニュースだった。また15日15時過ぎには「ソウルの(別の繁華街)ホンデを訪れた女性ひとりが感染」とのニュースも報じられた。
政府中央室病管理本部は今回のような事態では「スピードが命」とし、最善・最悪のシナリオまで発表している。
最善のケース:「限定された流行が初期に発見される状況」
最悪のケース:「地域社会にすでに多くの伝播が起きた後、遅い時期に発見されてしまうこと」
さらに「当事者は近くの保健所などに連絡いただきたい。誰でも感染しうるもの。罪ではない。差別や批難は防疫の助けとはならない」とも。13日にはソウル市が匿名での検査も始めた。
今回の梨泰院クラブ集団感染では「追跡できないことが最大の問題」。この点が発覚し始めるや、国内は2月のトラウマがぶり返しているというところだ。
<参考記事>
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