菅原一秀経産大臣の辞任は政局の始まりとなるか
フーテン老人世直し録(472)
神無月某日
菅原一秀経産大臣が初入閣から1か月余りで辞任に追い込まれた。経産省は財務省、外務省と並ぶ内閣の主要な柱で、第四次安倍再改造内閣はスタート直後に主要人事で躓いたことになる。
かつては大蔵(今の財務)、外務、通産(今の経産)で大臣を務めることが総理への登竜門と言われた。三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の「三角大福中」はいずれも通産大臣を経験してから総理になった。
ところが現在ではいささか趣が異なる。第二次安倍政権は経産省出身者が総理秘書官や補佐官として官邸を固め、財務や外務より経産が主導する内閣になった。そのため経産大臣ポストの意味が変わる。官邸の意向通りに忠実に動くことが求められ、前任者の世耕弘成氏は総理の「お友達」としてその役割を果たした。
経産省出身の今井尚哉秘書官兼補佐官の進言を入れ、安倍政権は外務省が主導してきた北方領土交渉を経産省が主導する日ロ経済協力に力点を移し、また経産省が主導する原発輸出と原発再稼働を政策の重要な柱とした。
しかしそれらはことごとく失敗する。北方領土でロシアは日米安保条約を解消しない限り2島返還も認めない姿勢で交渉は平行線をたどり、英国、トルコ、ベトナムなどに向けた原発輸出も総崩れとなる。
そうした中で世耕前大臣は留任を希望したが、安倍総理は経産大臣ポストに菅官房長官の側近と言われる菅原一秀氏を就けた。この人事を見てフーテンは2つのことを考えた。1つはこれが菅官房長官の意向を受けた人事とすれば、今回の組閣における菅官房長官の影響力は半端ではない。
最大の焦点であった幹事長人事で、菅官房長官が安倍総理の望みであった岸田幹事長誕生を断念させ、二階幹事長留任に導いたことは、安倍総理より力が上向いたとみてもおかしくない。それは河井法務大臣や小泉環境大臣など菅官房長官の人脈が続々初入閣を果たしたことにも表れている。
その結果、幹事長から次期総理になろうとしていた岸田氏には不満が残る。政調会長留任の見返りに派閥の大臣願望組を閣内に押し込んで「在庫一掃」を図り、安倍総理もそれを受け入れざるを得なかった。9月11日の組閣は安倍総理より菅官房長官による人事の色彩が強かったことになる。
もう1つの考えは、北方領土交渉と原発輸出で成果を挙げられず、さらに日産のゴーン元会長の裁判や韓国に対する輸出規制強化の行方に於いて、経産省の対応はこれからますます難しくなる。安倍総理はそれで経産大臣ポストを菅官房長官の側近に明け渡し、政治力を強める菅氏のけん制に利用するというものだ。
そのため経産大臣には軽量級の人材が良い。その眼鏡にかなったのが安倍総理に「ロイヤルゼリー大」を贈って出世工作した菅原一秀氏だ。上司に付け届けして出世しようとする人間は究極の「イエスマン」である。ポストに就ければ黙っていても安倍総理の言うことを聞くようになる。そして難しい仕事で行き詰まれば菅官房長官のせいにできる。
この2つのどちらなのだろうと考えていると、まず飛び出したのが関西電力の金品受領問題だった。9月27日に関西電力幹部が行った記者会見は驚きの内容である。菅原経産大臣は「言語道断」と批判したが、軽量級の大臣にとっては荷の重い事件の勃発である。
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