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東京オリンピックを「アベノミクス4本目の矢」と言うから呪いがかかる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(470)

神無月某日

 IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は17日、東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌に移すことを決めたと発表した。選手の健康を第一に考え、暑い東京より涼しい札幌で行うのが望ましいということだ。さらにバッハ会長は、マラソンの発着点を札幌ドームにすることを考えていると森喜朗東京オリンピック組織委会長が明らかにした。

 マラソンは近代オリンピックの華であり象徴である。そもそものオリンピックは古代ギリシアのオリンピアで4年に1度行われ、各都市から集まった選手たちが競技に参加し、それが行われる期間は都市間の戦争は休戦になるという宗教的祭典だった。

 その古代オリンピックを復活させたのがフランスの教育学者クーベルタン男爵で、1896年に第1回オリンピックをギリシアのアテネで開催するが、その時に古代ギリシアが「マラトンの戦い」でペルシャに勝利したことを伝えるため、約40キロを走りぬいた伝令の故事からマラソンが競技に加えられた。

 つまり近代オリンピックによってマラソンは始まった。そのためかオリンピックの最終競技は男子マラソンで、それが終わると閉会式が始まる。その男子マラソンのゴールが東京の新国立競技場ではなく札幌ドームと聞くと、もしかして閉会式も札幌ドームかと邪推したくなる。

 まさかとは思うが、もしそんなことになれば、つまり開会式は新国立競技場だが閉会式が札幌ドームになれば、これは「2020東京・札幌オリンピック」と呼ぶべきで「2020東京オリンピック」の名は幻と消える。

 そうならなくとも東京はこの季節にオリンピックを開くのにはふさわしくないということをIOCは表明したわけだ。それは2013年に東京オリンピック招致が決まった時からフーテンが言い続けてきたことである。

 7,8月の東京の暑さは尋常ではない。フーテンは気温40度を超す中東の砂漠を取材したこともあるが、その暑さとは違う息苦しさが東京の暑さにはある。湿度が高く、さらにコンクリートジャングルのため夜になっても暑さが消えない。フーテンにとっては中東の砂漠以上に東京の夏は耐えられない。

 そんなところでオリンピックを開くなど狂気の沙汰だとフーテンは思ったが、オリンピック招致が決まった瞬間から歓喜する国民が多いのに驚いた。何でそんなにオリンピックをやりたいのか。純粋にスポーツを楽しみたいという気持ちからではないだろう。

 その前年に誕生した安倍政権は「アベノミクス3本の矢」の経済政策で、円安と株高を実現した。それは一時的には経済好調の錯覚を抱かせるが、3年経てばそうでないことが分かるとフーテンは主張していた。諸外国の例がそれを示しているからである。

 ところが多くの国民は「アベノミクス」に幻惑され、東京オリンピック招致が決まると、それを「アベノミクス4本目の矢」と持ち上げ、「景気が上向く」とか「未来が開ける」とかの思考に陥った。

 2011年の東日本大震災からの復興を急ぎ、原発事故を収束させ、さらに少子高齢化という現実に政治が全力を上げなければならない時に、狂気の沙汰としか思えない東京オリンピックになぜそれほど歓喜するのか、フーテンは絶望的な気持ちになった。

 東京オリンピック招致委員会は立候補ファイルに日本の7,8月を「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」と書いていた。その季節には毎年熱中症で死ぬ人間がいるのに「ウソ」を書いたのではないかと問題になっているが、「ウソ」はそれだけではない。

 国際社会が最も懸念していたのは福島の原発施設から出る汚染水の問題である。現実に汚染水は海に流れ出ているが、港湾の外で測定した数値にこれまでのところ異常値はない。それを安倍総理は「汚染水は完全にブロックされている」、「コントロールされている」と言った。この言い方は「ウソ」である。

 オリンピック招致を勝ち取るために「気候」と同じく「汚染水」でも日本は事実を捏造した。そして東京オリンピック招致を巡り様々な事件が起きて潰されていった人間がいる。その第一は猪瀬直樹元東京都知事である。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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