「調査・研究」を目的とする自衛隊の中東派遣とはなんだ
フーテン老人世直し録(471)
神無月某日
日本中がラグビーワールドカップや新天皇の即位式典に目を奪われている裏側で、中東では複雑な戦争ゲームが繰り広げられ、先が見通せない情勢になってきた。
この複雑な情勢は日本の将来に重大な影響を与える。日本が外交安全保障の基軸と据える米国の力が衰え、世界に対する抑えが効かなくなったことがはっきりしてきたからだ。つまり米国の抑止力に頼ってきた日本は考えを改めなければならない。
そうした時に日本政府は18日、米国から要請されたホルムズ海峡の安全を確保する有志連合構想には参加せず、オマーン湾やイエメン沖での「調査・研究」のために日本の自衛隊を中東に派遣する検討に入った。
同盟関係にある米国と友好関係にあるイランとの間で、一時は「橋渡し役を務める」と意気込んだ安倍総理だが、5月にイランを訪れハメネイ最高指導者と会談している最中に、日本のタンカーがホルムズ海峡で何者かに攻撃され、それどころではなくなった。
それを見て米国のトランプ大統領は「中国や日本はホルムズ海峡を通過する自国のタンカーを自国で守れ」とツイッターに書き込み、7月にダンフォード統合参謀本部議長がホルムズ海峡の安全を守る有志連合構想を打ち出した。
この構想には英国、豪州、バーレーン、サウジアラビアなどが参加を表明、韓国も参加を検討しているが、日本はイランとの友好関係を考えれば参加する訳にはいかず、一方で参加しなければ米国からバッシングされる恐れもある。悩ましい問題の答えが「調査・研究」のための自衛隊派遣だった。
有志連合は国連に承認された多国籍軍と異なり、米国の呼びかけに賛同する国だけが米国の指揮下で軍事活動を行う。湾岸戦争は国連の承認の下に多国籍軍がイラクと戦う戦争だった。一方、大量破壊兵器を理由に米国が始めたイラク戦争は、国連が承認しない有志連合の戦争である。
不思議なことだが、日本は国連が認めた湾岸戦争に自衛隊を派遣せず、後に戦争の大義が嘘だったことが分かるイラク戦争には「非戦闘地域に行くのだから」という理由で自衛隊を派遣した。
戦争の理由が嘘だったことが分かると、有志連合の各国では政治家の責任が追及され、英国ではブレア首相が辞任、他の国も政治家は謝罪を迫られた。しかし日本だけは政治家の責任が追及されず、さらに派遣地が「非戦闘地域」でなかったことが分かる自衛隊の「日報」も役所が隠蔽を図った。
そして安倍政権は2015年、米国の要求通りに自衛隊を世界のどこにでも派遣できる集団的自衛権の行使容認を憲法改正することなく法制化した。米国のトランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱し、イランとの対立を激化させると、ホルムズ海峡を巡る軍事的緊張が高まり、フーテンは日本が巻き込まれる恐れを感じた。
大統領選挙で再選を目指すトランプに戦争する気はないようだが、ネオコンと軍需産業の影響を受けた政治家が力を増せば、中東危機は日本に集団的自衛権の行使を迫る格好の試金石になる。米国の有志連合構想は日本に踏み絵を迫るものだった。
しかしここで有志連合に参加すればイランとの関係悪化だけでなく世論の支持も得られない。安倍政権は当初から有志連合ではない形で自衛隊を派遣する計画を練っていた。それが「調査・研究」を名目とするホルムズ海峡ではない地域への自衛隊派遣である。
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