■6、7割の学校で新学期がスタートしているが、6割以上の教員らは再開に反対
都市部を除いて、学校再開の動きが広がっている。「文部科学省は7日、全国の公立小学校の64%、公立中学校の56%が、新学期から授業を再開する見込みだとの調査結果を発表した。緊急事態宣言の対象となる東京、大阪などの7都府県を除けば、公立小の89%、公立中の78%が再開に踏み切る見通し」、「私立は小学校の69%、中学校の74%、高校の79%が再開する予定だ」(毎日新聞2020年4月7日。6日午後9時現在の結果)。
前々回の記事で、「教職員の7割以上が学校再開に反対している」という、わたしの調査結果を紹介したが、そのときよりも回答数はさらに増えたので(1,896の回答)、再集計した結果をお知らせしたい。4月のほぼ例年と同じ時期に新学期をスタートした(する)学校と、4月ないし5月に休校措置をとる学校の別に、先生たちが4月中の学校再開にどう感じているのか、次のデータをご覧いただきたい。
注)中等教育学校は回答数が少ないため、高等学校に含めた。
出所)妹尾昌俊「学校再開または休校に関する緊急調査」をもとに作成
※調査の概要と留意事項は前回と前々回の記事を参照。https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/
例年通り開始する小学校、中学校は、新型コロナウイルスの感染拡大が都市部等と比べてマシな地域ではあるが(4月上旬時点)、教職員の65%近くが再開に反対している。再開している高校と特別支援学校でも、約8割の教職員が反対という意見だ。
それだけ不安が大きいままの、見切り発車での学校再開と言えよう。
■学校再開によって「死」がとても身近になる
前々回の記事で申し上げたように、教室等では3密(とりわけ、密集と密接)を完全に避けるのは困難である。マスクの問題だけではない。消毒液さえ十分にないまま学校再開の地域もある。文科省の学校再開ガイドラインは、徹底的な感染症対策を求めているが、徹底できない現実がある(根拠、データは過去記事を参照いただきたい)。
もう少し詳しい実情は、自由記入欄にたくさん寄せられた。約1,000の意見が寄せれたが、その一部を紹介しよう(さすがに1人で千のコメントを読むのは疲れたが、すべて拝読した)。(以下、「学校再開または休校に関する緊急調査」をもとに作成。一部の表現は文意を変えない範囲で修正している。)
以下は妹尾のコメント。学校には、児童生徒も、教職員もさまざまな人が集まる。とりわけ病気をもっている人や妊娠中の方には、この新型コロナの中で大変危険と不安ななかである。「死」の恐怖を感じながら開くのが教育現場として、果たして適当と言えるのか、という事態である。(もちろん、休校にしても児童生徒の学びを止めないなどの課題は山積みだが。)
文科省も少ない人員と時間のなか、がんばってくれているとは思うが、国のガイドラインにはこうした配慮と想像力が欠けている、と思われるふしもある。たとえば、国の学校再開ガイドラインには、基礎疾患をもつ職員や妊娠中の職員に関する記述は一言もない。
■学校再開は恐怖でしかない、という声も
児童生徒の様子を熟知している先生たちの声だからこそ、よく実態を伝えてくれているように思う。次の声もある。
以下、妹尾コメント。学校再開しても、不十分な設備と人員のなかで、感染予防対策などに翻弄されて、(対策はもちろん重要だが)本来業務である、教育活動にエネルギーが割けていないという話や、管理強化の影響でむしろ児童らは不安定になるという指摘など、心配だ。
大勢の先生たちは、本当は授業はしたい気持ちでいっぱいだし、子どもたちと会いたいのだ。だが、いまの状況は、子どもたちの命を守ることが最優先、という声が多かった。
こうした現実を受けて、高校生らも休校を求める署名活動をしていることが報道されているが、養護教諭(保健室の先生)の有志も休校を求める電子署名を実施している。
出所)change.orgのサイト
また、新型コロナウイルスは自覚症状がないケースも多いので、よけい現場としては感染拡大に不安が募るのだろうと思う。自分が感染して、児童生徒の命、健康を危険にさらすのが一番怖い、という声はとても多かった。
なお、現実として、教職員や児童生徒が感染している事例もいくつか報告されている。そうしたときに、教員バッシング、学校批判一辺倒にならないか、という点も警戒しておくべきだろう。
関連記事:学校再開にともなう保護者の責任と役割
■さらにハードルが高い、特別支援学校の実情
重度な障害をもつ児童生徒等が通う特別支援学校(以前は養護学校などと呼んでいた)では、事態はより深刻だ。通常の小中学校などと比べて、メディアなどで報道されることは少ないが、自由記入欄からは、通常の学校以上に、非常に難易度の高い対策と配慮が求められていることが、わかった。
特別支援学校の児童生徒は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱に区分されるが、複数をもつ子もいる。約14万人のこどもたちが通っていて(2018年)、近年増加傾向である。
(以下、妹尾コメント)病院や福祉施設とも近い、配慮、ケアが平時でも求められているのに、この新型コロナのことで、さらに難易度の高いケアが求められている。
ちなみに、文科省の学校再開ガイドラインにはスクール・バスについての記述は皆無だ。この問題は、特別支援学校のみならず、地方でバス通学の学校の場合にも言える。
また、学校再開ガイドラインは医療的ケアが必要な子や基礎疾患等のある児童生徒についての記述はあるが、「主治医らとよく相談せよ、教職員は感染リスクの高い場所に行くな」といった記述の程度であり、ほとんど、中身があるようには思えない(書かれなくても、わかり切っていること)。特別支援学校等の実情を踏まえたうえで、現実的かつ効果的なことを、もっとガイドライン等では示していくべきでないだろうか。
以上のほかにもたくさんのコメントが寄せられているが、次回以降の記事でまた紹介したい。
教職員の多くは、最前線で、児童生徒のことを思いやり、最大限の努力をしている。なかなか、不満や問題を大っぴらに言うことはできにくい職でもある。だが、そうした現場からの声には、政策を考えるうえでも、わたしたち保護者や社会の行動を考えるうえでも、しっかり耳を傾けたい実態や知見があるように思う。
今回紹介したものは、ほんの一部ではあるが、少しでも参考になればという思いで記事をアップした。
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