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教員採用試験の前倒し、意味あるの? #専門家のまとめ

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:イメージマート)

この時期、教員採用試験のまっただなかですが、志願者減少や倍率低下のニュースがここ数年よく出てきています。この背景には何が?対策は?文科省は採用試験の早期化を呼びかけていますが、効果はあるのでしょうか?

ココがポイント

▼学力テスト上位で有名な秋田県、来春採用予定の小学校教員の倍率は1.0倍。採用増も影響か。

秋田県 来春採用の小学校教員試験 志願倍率が最低の1.0倍(NHK)

▼文科省は、従来7月が多かった一次試験の実施を、今年は6月に、来年は5月にするよう呼びかけている。

教員採用試験 実施日の目安「標準日」 来年度は5月に前倒しへ(NHK)

▼実習と重なる場合の学生の負担や、大学側の調整労力が増えており、「学生の心情や大学側の事情を考えていない」との声も。

「教育実習と重なったら…」全国で進む教員採用試験前倒し、学生に広がる不安 「5月実施」への対応は「簡単ではない」 大学側も困惑(信濃毎日新聞)

▼民間の就活と教員採用を同時に準備するのは大変、1カ月程度の前倒しは意味がない、との指摘も。

教員採用試験の前倒し、意味のない理由(前屋毅、Yahoo!ニュース個人)

エキスパートの補足・見解

採用試験の倍率だけで、質が下がっていると即断するのは、やや乱暴です。倍率=受験者数÷採用者数なので、採用者数が多めの時期は、倍率は下がる傾向にあります。秋田県をはじめ、東北や九州などで低倍率が多いのは、定年前後の教員が多い(そのため採用者数が多い)ことも影響しています。

とはいえ、教員志望者を増やすことや、優秀な人材の獲得はとても重要です。各地で欠員(講師不足)も起きていて、授業が自習になる、専門外の先生に教わるというケースも一部に起きています。

教員の質と量の確保は、子どもの学びを支える根幹、基本条件です。

教員志望者を増やす対策のひとつとして、文科省は、採用試験の1~2カ月の前倒しを教育委員会に呼びかけていますが、効果は疑問、という声は多いです。教員採用試験は日程がかぶらない限り、併願可能なので、時期を早めても、本命ではない「お試し受験」の人が増えるだけで、内定辞退者が続出、といった弊害も起きています。

採用試験の早期化は、「早期化すること」が目的ではなかったはず。教育改革は、いつの間にか手段が目的化することはよくあります。走り出したとはいえ、採用試験のあり方や方法について、一度立ち止まって、功罪を検証し、より意味のある政策を打ち出すべきだと思います。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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