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【独自調査(2)】休校になって教師は何をする?なぜオンライン交流を始めないのか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 休校(臨時休業)になった学校は多いが、日本の小学校や中学校、高校などでオンライン授業(遠隔授業)または交流(例:朝の会をウェブ会議で)を行っている例はごく少数にとどまる。わたしの調査では、小中学校では5%もいかない。欧米や韓国では進んでいると報道されているが、日本は周回遅れどころではない印象をもつ(もちろん、各国にも問題はあろうが)。

 児童生徒や保護者から見れば、「新型コロナウイルスの感染防止上、休校になるのは理解できるが、じゃあ、学校はなにかしてくれるのか?宿題プリントを配る以外、なにもやってくれないのか?」という意見をもつ方もいるだろうし、今後こうした世論は強まる、とわたしは予想する。「休校中も、先生たちは給料もらえているのに」という声も、もっと出てくるだろう。

写真素材:photo AC
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■9割以上の小中学校は、3月の休校中、オンラインはナシ

 以下では、前回の記事に続いて、わたしが今週実施した教職員向けの調査をもとに、現状や課題を解説する。(昨日の記事の時よりも集計数はさらに増えて、約1900の回答があった。)

  • 2020年4月5日(日)~7日(火)に実施。
  • 回答数は1896で、多くは教諭が回答。なお、中等教育学校は回答数が少ないので、高校に含めて集計した。
  • わたしのSNSを通じて協力依頼したので、回答者に一定の偏りがある可能性がある。たとえば、関心の高い人が回答しやすい傾向はあると思う。また、本人確認できないかたちの簡易なネット調査(Googleフォーム)である点でも限界はある(なりすまし防止はできないなど)が、即時に調査・集計できることを優先させた。

※前回記事:【独自調査(1) 教職員の7割以上が4月中の学校再開に反対】見切り発車な再開でいいのか?

 まず、全国的な休校が実施された3月は、どうだったのだろうか。休校または春休みの間、各学校で実施したことをたずねた(次のデータ)。

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出所)妹尾昌俊「学校再開または休校に関する緊急調査」をもとに作成(以下、断りがないかぎり同様)

 オンライン授業やオンラインでの交流(朝の会など)は、ごく少数である。小中学校は、5%に満たないし、高校でも1割に満たない。「いずれも実施していない」という回答は、小中学校と特別支援学校で約9割、高校で約6割に上る。なお、高校で宿題等の実施率が多少高いのは、スタディサプリなどオンラインサービスを生徒のスマホで利用しているところも多いことが影響していると推測する。

 急な一斉休校の要請でドタバタとしていたし、年度末という事情もあろうかとは思う。だが、海外の学校では数日のうちにオンライン上でやりとりを始めた例も多数報告されている。日本は、なぜ、できなかったのか、できないのか、検証していく必要があると思う。

■7、8割の小中学校は、今後も行う予定はない

 では、この4月、5月はどうか。首都圏や関西、愛知などを中心に休校を決定しているところもあるが、通常通り新学期のところも多い。両者では事情は全然異なるから、分けて集計したのが次のデータだ。

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 小学校、中学校、特別支援学校については、休校措置がとられる学校でも、オンラインでの授業や交流は「実施予定はない」が7割以上を占める。実施予定(実施済を含む)は1割前後に過ぎない。高校は、小中や特別支援学校よりもかなり様相は異なる。休校中の高校で、オンライン授業等を予定している(実施済を含む)のは、約1/4だし、検討中も他校種よりも多いが、「予定はない」、「わからない」学校も約4割ある。

 もっとも、この調査はSNSを通じて呼びかけたネット調査なので、もともとICTに好意的な教員らが回答している傾向が強いと思う。それでも、小中学校などは、上記のような実態である。

■学びをストップさせたままで、学校、教師はいいのか?

 休校中は、教室での授業はストップ、部活動もない。それでいて、オンラインやウェブを通じた教育にも消極的。もちろん、先生たちはなにもやっていないわけではない。各種行事の練りなおしは大変で、たとえば、修学旅行の延期、変更などはハードワークだ。授業準備、教材研究、事務作業などもやっている。学校によっては、電話や家庭訪問を通じて、子どもたちの様子をケアしている先生たちもいるし、学校を一部開放して自習などで面倒を見ている例もある。

 だが、「大勢の子どもたちの学びをストップさせたまま放置で、なんのための学校か」が問われる事態であろう。

 もちろん、これは学校や先生たちばかりのせいにはできない。児童生徒本人の意欲・関心にもよるし、家庭の影響、役割も大きいのは確かだ。とはいえ、わたしたちは教師を学びのプロ、教育のプロとして、雇ているわけだ。先月も含めて、2か月あるいは今後もっと長期的に休校が続くかもしれないなか、冒頭で述べたとおり、「先生たちは何をしているんだ?」という声は、強くなるのではないか。

 オンライン授業等が唯一の代替案、手段ではない。地域の感染リスクや児童生徒数等にもよるので、一概には言えないが、たとえば、月曜は1年生だけ登校する、火曜は2年生だけといった分散登校を行い、登校しない学年の教室を使えば、かなり教室の3密は緩和される。そこで(何時間も授業はしなくてよくて)短時間でいいから、自宅学習等のフォローを入れたり、児童生徒同士で少しでも遊んで交流したりする時間が設けられると、励みになる子どもたち、ストレス、コロナ鬱がマシになる子どもたちも多いだろう。または、晴れ予報の日には、分散登校的に校庭に児童らを集めて、ちょっとした遊びをしてもいいかもしれない。

参考:<休校か、学校再開か>悩む教育現場、メリット、デメリットを比較

■オンライン授業、交流をはばむもの

 さて、この調査では、ウェブを活用した授業や自宅学習に関連する課題についても聞いている。ちょっと細かい表になるが、次のものをご覧いただきたい。「実施済、実施予定」とは、4月、5月でのオンライン授業やオンライン朝の会などを予定している学校のこと。「検討中」、「実施予定なし、わからない」はそう回答した学校だ。

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 こうした区分により回答割合に多少の差はあるものの、どの校種、区分で見ても、やはり、児童生徒にパソコンやスマホがないという問題、家庭にネット環境がないという問題は「半数以上の児童生徒に当てはまる」もしくは「一部(半数以下)の児童生徒に当てはまる」という回答は多い。

 注目してほしいのは、「実施済、実施予定」の学校でも、こうした問題を抱えているところは少なくないという事実だ。詳細は個別にヒアリングしないとわからないが、おそらく、そうした制約があるなかでも、できることから始めていたり、タブレットやポケットWi-Fiを貸し出したりしている事例もあるのだろう。

 今日にも緊急事態宣言が出されようとしているので、保護者のなかにも在宅率は高まっている。子どもたち専用のデバイスがなくても、保護者のスマホやPCを短時間だけ使わせてもらって、オンライン朝の会などをやってみる、といった試みもあっていいと思う。

■教師側のスキルや時間の問題も

 問題は、家庭のパソコン、通信環境だけではない。次のデータによると、教職員の意識やICTスキルの問題、また時間の問題も非常に大きいことがわかる。

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 だが、これも先ほどと同じで、「実施済、実施予定」の学校でも、似た問題はある。やれることから始めていくうちに、慣れてきてだんだんうまくなる側面もあるだろう。

 以上のような課題、阻害要因に対処する方策を考えつつ、休校が続く地域では、前述のとおり、オンライン、オフライン組み合わせて、もっと幅広い選択肢から、子どもたちの学びとケアを考えていくべきだろう。

 いきなりオンライン授業に行くのはハードルが高い。教員の側も、児童生徒の側も。授業動画は教育委員会などが主導して、動画が得意な(そして授業がうまい)先生のを撮りためておくのがいいかもしれない。個々の先生たちには、1日15分とか、週に何回かでいいので、児童生徒にウェブ等を通じて声をかけたり、励ましたりすることができないか、検討していくといいと思う。家庭訪問というアナログも、あたたかみはあるが、教員が感染していた場合のリスクや要する時間・負担を考えると、あまり賢明とは言えない、と思う。

 また、現状、学校が通常通り再開している地域であっても、新型コロナウイルスの状況次第では、今後、再休校になる可能性もある。本稿で申し上げたことは、そうした学校の準備としても参考になればと思う。

★調査にご協力いただいた方々、ありがとうございました。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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