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権力による政治とメディアの私物化の入り口

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(310)

水無月某日

23日に前川喜平前文科事務次官が日本記者クラブで会見を行い、「加計学園の獣医学部新設問題」について「岩盤規制に穴を開けるのは良いが、穴の開け方に不明朗で不公正なものがある」と語った。

大学の設置を国が認可すればその大学は補助金や助成金を受け取ることが出来る。加計学園の場合、政府の国家戦略特区で獣医学部の新設は決まったが、まだ文科省の認可が下りていない段階から、愛媛県今治市が37億円分の土地を無償で提供し、さらに96億円の建設補助金を支給することにしている。

前川氏が会見で語ったのは初めから「加計ありき」で岩盤に穴が開けられたということだ。前川氏は昨年9月上旬に官邸に呼ばれ和泉洋人総理補佐官から「総理は自分の口から言えないので私が言うんだが」として、獣医学部の新設を早く行うよう求められたという。

医学部や獣医学部の新設を検討するには医師の国家試験を所管する厚労省や農水省と協議し需給予測を参考にするのが普通だが、そうした時間的余裕が与えられないまま、文科省は総理直属の内閣府から「平成30年4月開学」を「官邸の最高レベルが言っている」とか「総理のご意向」と押し付けられた。

困った文科省は文教族の一人である萩生田官房副長官に調整を依頼し時間的余裕を与えてもらうよう頼んだ。萩生田副長官は10月7日までは「4月開学は無理」と文科省の側に立っていた。それが10月21日には態度が一変する。内閣府同様「4月開学」を求めるようになった。その間に何があったのか、今回の問題のポイントの一つは10月中旬の出来事にある。

加計学園以外に獣医学部新設に手を挙げた京都産業大学が断念した理由は、申請の条件に「広域的に獣医学部が存在しない」、「平成30年4月開学」、「1校に限る」が付け加えられたことによる。3条件は京都産業大学を排除するための「規制」だった。安倍政権は「規制緩和」を行うのに規制を3つも重ねたのである。

一方で国家戦略特区諮問会議の民間議員は記者会見を行い、加計学園に決まったプロセスには「一点の曇りもない」と胸を張る。前川氏は「曇りが見えなかったのではないか」と批判し、そのうえで民間議員が「1校に限る」との前提に立ったからだと指摘した。これから他の地域にも獣医学部を作る考えで今回は加計学園にしたという理屈である。それなら加計学園を優遇したことにならない。。

すると24日に安倍総理が神戸市で講演を行い、「加計学園1校だけを認めたから疑惑をもたれた。これから獣医学部をどんどん全国に展開する」と獣医学部増設方針を打ち出した。国会終了後の記者会見で「国民に丁寧に説明する」と反省の姿勢を見せたのがどこへ消えたか。獣医学部を「速やかに全国展開」する方針に国民の目をひきつけようとした。

しかしである。獣医師の需要がないのに獣医学部を増設すれば、それでなくとも少子化時代に学生を集められる保証はない。学生が集まらなければ大学経営は苦しくなり、大学が倒産すれば目的をもって入学した学生は将来を見失う。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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