Yahoo!ニュース

年末年始ドラマ映画に明暗か 対照的な『グランメゾン・パリ』と『劇映画 孤独のグルメ』

武井保之ライター, 編集者
『グランメゾン・パリ』公式X(gurame_tbs/media)より

テレビ局が連続ドラマを映画化するドラマ映画から、かつてのような大ヒットが生まれなくなって久しい。

そんななか昨年は『ミステリと言う勿れ』(48億円)と『劇場版 TOKYO MER~走る緊急救命室~』(45.3億円)の大ヒットがあったが、今年はかつての名作ドラマの劇場版やスピンオフとなる『帰ってきた あぶない刑事』『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』が10億円台のヒットになっているほか、目立った作品がない。そもそも、秋まではドラマ映画の作品数が少なかった印象だ。

一方、邦画実写では『ラストマイル』(59.3億円)、『変な家』(50.5億円)などが50億円を超える大ヒットになっている。元ネタに連続ドラマのような知名度がなくても、作品さえおもしろければヒットする。逆に言えば、ドラマの知名度やキャスト人気だけでは、ドラマ視聴者は映画館へ足を向けない。

そこに映画として見る意味があるのか、忙しいなか時間を作ってお金を払って見る価値があるのか、といった高いハードルを超えなければ、見てはもらえないことがわかる。

それは観客にとって作品性本位の選択であり、本来の映画を見に行くモチベーションとしては自然なこと。いい映画がヒットする健全な市場と言えるだろう。一方、連続ドラマの映画化というフォーマットがヒット方程式だった時代は過ぎ去ったことが、明確に示された年になるかもしれない。

■2024年の年間映画興収ランキングTOP10(各作品の興収も記載)

期待通り『グランメゾン・パリ』と想定外の連続『劇映画 孤独のグルメ』

この年末年始には、ビッグタイトルの人気ドラマの劇場版が続く。その目玉の1本となる、大人気高視聴率ドラマ『ドクターX』のシリーズ完結編『劇場版ドクターX FINAL』が12月6日より公開され、初週の興行は動員44.1万人、興収6.3億円。ヒットスタートであることは間違いないのだが、タイトルの大きさからして物足りない気がする。興行関係者の期待値はもっと高かったかもしれない。

(関連記事:『ドクターX』が大差で『モアナ2』に敗れた衝撃 ヒット縮小するドラマ映画と勢い取り戻すディズニー

これから公開される年末年始映画の大本命の期待作ドラマ映画2本『グランメゾン・パリ』(12月30日公開)と『劇映画 孤独のグルメ』(25年1月10日公開)にとっては、暗雲が立ち込める状況かもしれない。ただ、両作ともに内容は悪くなかった。

『グランメゾン・パリ』は、2019年に放送された連続ドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)の続編となる劇場版。フランス料理の本場・パリに新店舗「グランメゾン・パリ」をオープンし、アジア人初となるミシュラン三つ星獲得を目指して奮闘する、ドラマでおなじみの登場人物たちの姿を描く。

演出は『ラストマイル』の塚原あゆ子監督、脚本は今期ドラマ『全領域異常解決室』(フジテレビ系)の黒岩勉氏。それぞれ今年の話題作を手がけているクリエイターであり、いまのシーンのトップ・ヒットメイカー2人による物語は、ドラマファンの期待を裏切らない。

ただ、その内容は期待に応えるおもしろさなのだが、予想通りでもある。舞台がパリになるだけで、ドラマ版と同じことをやっているから想定内に収まる。そこからの逸脱や驚きはなかった。ならテレビのスペシャルドラマでやって、という声も出てくるかもしれない。

しかし、ドラマファンにとっては、あのカタルシスを存分に楽しめる、見応えのあるストーリーになっており、それは映画館という環境で増幅される気もする。映画館で確かめてほしい。

一方、『劇映画 孤独のグルメ』は、シリーズ放送開始から12年目を迎えた大人気深夜ドラマ『孤独のグルメ』初の劇場版であり、主演の松重豊が自ら監督と脚本を手がけている。

安定のマンネリが人気の深夜ドラマの劇場版になるが、その内容は想定外の連続。シリーズのコアファンにとっては、これまでのドラマシリーズともスペシャルドラマとも異なる、これは『孤独のグルメ』なのか?という映画になっている。

ただ、放送中のシーズン11作目となる今期ドラマ『それぞれの孤独のグルメ』(テレビ東京系)でも、制作陣はこれまでのフォーマットを打ち破る新規性を打ち出そうとしていることがわかる。劇場版もその流れを汲むものであるから、これまでのシリーズとはまったく違うものにすることこそが狙いだったのだろう。

それをファンはどう受け止めるか。シリーズのどこに楽しみを見出しているかによって、ファンの間でも評価は分かれるかもしれない。

そんな『グランメゾン・パリ』と『劇映画 孤独のグルメ』を映画館に見に行くべきかと聞かれたら、両作ともそれぞれのファンなら見たほうがいいと伝えたい。

映画の感じ方、楽しみ方は人それぞれ。ファンならそれぞれの解釈があるはず。シリーズの投げかけをどう受け止めるか。そこから感じることと考えることがあるだろう。

心に余裕を持てる年末年始の楽しみのひとつにしてほしい。

【関連記事】

『踊る大捜査線』は令和に引き継がれるか 懐かしかったねで終わるのか #専門家のまとめ

『モアナ2』『インサイド・ヘッド2』続編の記録的世界ヒット連発の背景にディズニー地殻変動か

是枝裕和監督が映画業界に投じた一石 第一人者によるワークショップの意義

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

武井保之の最近の記事