安倍政権は奇襲戦法でしか国会を閉じることが出来なかった
フーテン老人世直し録(308)
水無月某日
野党が成立を阻止するため徹底抗戦してきた「組織犯罪処罰法(共謀罪)」は、委員会採決を飛び越し本会議で採決するという異例のやり方で15日早朝に成立した。これは委員会中心主義からの逸脱である。
戦前の日本政治はイギリスに倣って議院内閣制を採り、また議会も本会議で議論し採決する本会議中心主義であった。ところが戦後の日本は議院内閣制でありながら大統領制のアメリカの影響を受け国会は委員会中心主義を採用した。
すべての議案は本会議から委員会に付託され、委員会所属の議員による議論と採決が行われたのち本会議に戻され、本会議では委員会の報告を聞いてからすべての議員による採決が行われるのである。
それを今回は委員会審議の途中で本会議に「中間報告」し、そこで採決を行う異例の形をとった。これまで異例が認められたのは緊急避難的な事態に陥った場合のみである。例えば野党の議員が委員長となり法案の採決をいつまでも行わなければ、本会議は機能不全に陥る。そうした場合に「中間報告」で委員会の採決を飛ばすことはあった。
しかし今回の委員長は与党議員であり、委員会採決が出来なかった訳ではない。問題は別のところにあった。23日に告示される東京都議会議員選挙と国会の会期延長を絡めた判断が、委員会中心主義の原則を逸脱する強権的な国会運営を生み出した。
このやり方を「奇襲戦法」と呼ぶメディアもあるが、奇襲戦法を編み出したのは誰か。それが安倍政権にどのような影響を与えるか。そこにフーテンは関心がある。戦法を編み出したのは安倍総理自身か、総理を背後で操る今井秘書官か、菅官房長官か、それとも二階幹事長なのか。
この国会は安倍官邸の強権ぶりが次々露呈した異様な国会である。2月半ばに「森友問題」が浮上すると安倍総理は異常に気色ばみ「妻や私や事務所が関係していたら総理も国会議員も辞める」と口走る。配下の財務省や国土交通省は交渉経過の隠蔽に狂奔した。
そして森友学園前理事長一人を「しっぽ切り」にして逃げ切りを図ろうとするが、「窮鼠猫を噛む」反撃に遭うと、国会に証人喚問して刑事事件の対象であることを印象づけようとした。しかし証人喚問は逆に昭恵夫人と経産省出身秘書官の前例のない関係をあぶり出し、経産省出身の総理秘書官今井尚哉氏の関与を露呈させた。
「森友問題」に国民の関心が集まると安倍政権は急きょ「共謀罪」の国会提出に踏み切る。危機に陥った時には国民の対立を煽る争点をどんどん打ち上げて強行突破を図る。それが最も痛いところを目くらましにする方法なのだ。
3月末に「共謀罪」法案を国会に提出したのも、その後5月に入り「加計学園」追及に熱が入ると安倍総理が「憲法改正」に言及し、年内に自民党案をまとめるよう急がせたのも、すべては権力者が使う目くらましである。提出の時点で「共謀罪」はどんな方法を使ってでも成立させることが決まっていた。
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