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「胸やけ」しやすい人は「脳卒中」にもご用心。因果関係の存在が明らかに。でも予防法も分かりました。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

日本人の5〜7人に1人が「胃食道逆流症」

「胸やけ」で困っている方はいらっしゃいませんか?

それ「胃食道逆流症」かもしれません。英語の略語ではGERD(ガード)。日本人ではおよそ5〜7人に1人はこの病気を持っていると言われています [日本消化器内視鏡学会HP] 。

食道に逆流した胃酸が食道を傷つける、その痛みを私たちは「胸やけ」と感じているのです。食道は傷害され続けると「がん」になるおそれがあるので、慢性的に感じるようであれば消化器のドクターに診てもらった方が良いと言われています。

ここまではどこにでも書いてある内容です。

今回お伝えしたいのはこの「胃食道逆流症のある人は脳卒中にも注意が必要」という最新論文です。研究したのは中国・浙江(せっこう)大学のシクアン・チェン氏たち。「脳卒中・脳血管障害雑誌」という国際学術誌に2月1日、掲載されました [文末文献1] 。

「胸やけの原因となる疾患」と「脳卒中」の因果関係を研究

チェン氏たちの研究はちょっとユニークです(面倒ならこのコーナーは飛ばしてください)。

まずデータベースを調べ、「胃食道逆流症」を超しやすいと考えられる「遺伝子」を調べ上げました。その上でその遺伝子を「持っている」人たちと「持っていない」人たちの間で、脳卒中の発症リスクを比べたのです。

こうすれば「胃食道逆流症」を起こしやすい「遺伝子」以外の条件は変わらないので、「胃食道逆流症」そのものが「脳卒中」に与えている影響が分かるというわけです。

医学研究の世界では「メンデル・ランダム化解析」などと呼ばれています。ここ数年、流行っています。

「胃食道逆流症」になりやすいと「脳卒中」も起こしやすい。

その結果、「胃食道逆流症」を起こしやすい遺伝子を「持っている」人たちでは「持っていない」人たちに比べ、脳卒中になる危険性が相対的に22%高くなっていました(1.22倍)。

大した増加率ではないと思うかもしれません。しかし脳卒中は日本人が「要介護」となる最大の要因です。特に男性では要介護の4人に1人は脳卒中が引き金でした [内閣府「平成29年版高齢社会白書」] 。脳卒中になるリスクは少しでも低い方がいいですよね。

では「胃食道逆流症」の人たちが脳卒中の危険性を減らすにはどうしたら良いでしょう?チェン氏たちはその点も調べていました。

でも「血圧」と「糖尿病」に気をつければリスクは減らせる

それらの「遺伝子」と「脳卒中」を媒介する要因を解析したところ「高血圧」が最大の要因でした。次が「糖尿病」です。

当たり前すぎて「な〜んだ」と力が抜けてしまいましたか?でも「未知の要因」で脳卒中リスクが上がっているよりはずっと良いと思いますよ。そもそも「未知の要因」だったら不気味ですし、「予防」もできません。

というわけで、「胸やけ」のある人は胸の不快感だけでなく、脳卒中になりやすい。この隠れたリスクに気をつけましょう

血圧については次のような論文紹介記事も書いています。よろしければご覧ください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 胸やけしやすい遺伝子を持つ人は脳卒中にもなりやすい(英語)

ぜひDeepLなどの無料翻訳を使い、ご自身でも読んでみてくださいね。

【注意】本記事は医学論文の紹介です。研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる場合もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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