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「他人の不幸で今日もメシがうまい」というメシウマ心理で人は幸福になるか?不幸になるか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

他人の不幸は蜜の味

「シャーデンフロイデ」という言葉をご存じだろうか。

「Schaden(損害)」と「Freude(喜び)」を合体させたドイツ語だが、ここでいう「損害」とは自分の損害ではなく他人の損害を意味する。つまり、「他人の損害を見聞きする喜び」ということである。

要するに「他人の不幸は蜜の味」とか「他人の不幸で今日もメシがうまい(メシウマ)」の心理である。

普段偉そうな政治家や売れているけど自分としては別にファンでもない芸能人が、何か不祥事を起こして謝罪会見などすることがある。それらを見て「ざまあみろ」とすっきりした気分になってしまうことがあるだろうと思う。それが「シャーデンフロイデ」である。

誰もが持っている心理

この感情というか心理は、特殊なものではなく、多くの人が持っているものである。

男性より女性の方が強いが、未婚男性で6割に対して未婚女性は8割、既婚男性5割に対して既婚女性は7割が感じているもので、全体的に圧倒的多数派を占める。

なぜ、未既婚ともに女性の方が高いのかと思うかもしれないが、この「シャーデンフロイデ」は向社会性と密接に結びついているもので、集団の空気を読めない人間に対する不快感とも連動する。

たとえば、他人の迷惑を考えずに好き勝手する人がいれば不快にもなるし、一人だけ得する人がいれば妬み心も抱くはず。集団での協調性や公平性を重視する傾向は女性の方が高いため、この男女差も生まれるのだろう。

しかし、協調性を大事にするからといって、それを守らない人間に対して面と向かって対決姿勢を取ることはしたくない。それでは「あの人は好戦的な人だ」と自分の社会性を疑われてしまう。かといって、自ら裏で陰謀を巡らし、相手の足を引っ張ることをして、かえって恨みも買いたくない。

たとえば、行列に横入りするような人に対してどういう態度を取るかということである。

そういう人間に対して直接行動はとらずとも、心の中では「いつか罰が下るはず」と思い込むことで、ある種心の安定を保つという効果がある。そして、本当に罰が下ると「すっきり」するのである。

シャーデンフロイデと幸福感

以前、幸福度の調査の件で、男性より女性の方が幸福度が高く、未婚より既婚の方が幸福度が高いという話を紹介した。女性の幸福度の高さというのは、こうしたシャーデンフロイデの強弱の影響があるのだろうか。

未既婚年代別幸福度グラフはこちら→なぜ男性は不幸なのか。なぜ40~50代は不幸なのか。なぜ未婚の中年男性は不幸なのか

このシャーデンフロイデを感じる人間と感じない人間とで幸福度に違いはあるかどうかを検証する。

以下のグラフは、シャーデンフロイデを感じる群と感じない群とで、幸福または不幸を感じる割合が全体平均と比較してどれくらい差分があるかを示したものである。グラフの上側に伸びているほど差分が大きい(幸福差分の場合は幸福度が高く、不幸差分の場合は不幸度が高い)ことを意味する。

これを見ると、まずシャーデンフロイデを男性より強く感じている女性の方は、未既婚ともに年代別にみてもそれほど平均差分はない。つまり、シャーデンフロイデを感じていようといまいと、幸福度や不幸度にたいして影響はないということになる。

ただし、40代の場合、未婚女性は「ざまあみろ」や「メシウマ」の感情に浸っているほど幸福だが、既婚女性は反対に浸っているほど不幸という真逆の反応になっているところは少し興味深い。

一方で、男性を見ると、未婚では20代のみ、既婚でも20-30代の男性は、シャーデンフロイデを感じている方の幸福度が圧倒的に高いのである。40代未婚女性と同じだが、その幸福度差分は突き抜けている。

若い男性の置かれた環境

未既婚問わず若い男性にこの特徴が出るのはなぜだろうか。

それは、これまで若い男性は常に競争社会の中に組み込まれて、勝った、負けた、の繰り返しを余儀なくされているという一面もある。勉強にしても、部活にしても、勝者がいれば必ず敗者が生まれる。恋愛においても常にモテる強者がいれば、いつもモテない弱者がいる。学校を卒業して社会に出ても、業務成績や出世でまた別の競争に組み込まれる。

写真:イメージマート

社会に出れば、今まで同級生相手に負け知らずだった強者も、上司や先輩からうちのめされてしまうこともある。自分に自信があればなおさら、自分より優秀な人間がいることで劣等感を強く感じてしまうこともあるだろう。

そうした挫折経験が多ければ多いほど、逆にシャーデンフロイデの感情を持つことで心の平静を保てるという一面もある。でなければ、すべてを自責化して自己肯定感が崩壊してしまうだろう。

若いうちに「メシウマ」の心理に傾倒するのは決して悪いことではない。むしろ、若いうちにこそそういう挫折経験を積み重ねるからこそ、幸福を感じやすくなれるという部分もある。何も起こらない人生は、幸福も不幸も感じない。

中毒にならないように…

ただし、ことわっておくが、それはあくまで若いうちだけの話である。

いつまでも「メシウマ」だけに浸っていると、グラフの40代以降の中年未婚男性のように、不幸度があがり続けてしまう。

不幸度の高い中年未婚男性は、自分が無意識に他人の不幸を追い求める「シャーデンフロイデ中毒」になっていやしないか、自己診断した方がいいかもしれない。

中毒になった「メシウマ」はルサンチマンにしかならない。それは不幸感の解消どころか再生産にしかならない。

写真:アフロ

勝ち負けに固執して、誰かを妬み、その不幸を願うばかりの人生より、誰かの幸福や成功を自分のことのように喜べるようになることが、実は幸福への一歩なのだろう。既婚者は、その誰かが配偶者だったり子どもだったりするのかもしれない。だから既婚は未婚より幸福度が高いともいえる。

既婚者の家族に代わる「誰か」や「何か」を見つけられた未婚者は多分幸福なのだろう。そして、それは結婚には限らない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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