英国総選挙の保守党敗北は「安倍一強」の隠蔽体質政治を変える
フーテン老人世直し録(307)
水無月某日
政権基盤を強めEU離脱を強硬姿勢で行おうとしたテリーザ・メイ英国首相の賭けは全くの裏目に出た。高い支持率を背景に保守党の圧勝を狙ったが、選挙結果はどの政党も単独過半数に達しない「ハング・パーラメント(宙づり議会)」になった。英国政治の先行きには不安定さと不透明さが付きまとう。
「政治はスイングする」を持論とするフーテンは「高い支持率と選挙大勝は直結しない」と考え、うすうす予想はしていたが、しかし現実になるとやはり「あなおそろしや」と思う。そして「驕れる者は久しからず盛者必衰」という「平家物語」の一節を思い出す。
この結果は英国の進路のみならず「ロシアゲート疑惑」に揺れる米国トランプ大統領の政権運営にも影響を及ぼす。英国のメイ首相と組んでEUに圧力をかけようとしていたトランプの外交戦略は修正を迫られる。
一方でG7でのトランプ大統領を見てドイツのメルケル首相が「同盟国に欧州の運命を委ねることはできない」と演説したことから分かるように、EUの米国離れと仏独の連携強化に拍車がかかる可能性がある。
冷戦後に「唯一の超大国」となった米国は欧州の英国とアジアの日本を左右に従え、世界の「一極支配」を目指したが、米国の価値観の押しつけがイスラム原理主義のテロを生み、「テロとの戦い」は米国を泥沼に陥れた。オバマもトランプもその泥沼から抜け出すための政権である。そして世界は「一極支配」からEU、中国、米国の三極構造に移りつつある。
英国の選挙結果は先月のG7に加え世界が新たな時代に入ったことを印象づけたが、ドイツと異なり冷戦後ますます米国に追随することになった日本にも選挙結果は影響を及ぼすことになりそうだ。
支持率の高かったメイ政権の敗北が報道されると、加計学園を巡る文科省内の文書について一貫して「再調査の必要はない」と野党の要求を撥ねつけてきた安倍政権が「再調査を行う」と態度を一転させたのである。2週間後に告示される東京都議会選挙への影響を考えたからに違いない。
森友学園問題から始まる安倍政権の異様な対応は、問題の背景に深刻な事態が隠されていることを伺わせ、同時に国会での圧倒的な議席数の差がかつて見たこともない議会無視を貫く態度を許してきた。
安倍政権の異様な対応とは、森友学園の国有地払い下げで財務省が交渉記録をすべて廃棄したという公文書管理の精神に反する態度、籠池前理事長を国会に証人喚問しながら安倍昭恵夫人や秘書官の喚問を認めない理屈の通らない与党の態度である。
また加計学園問題でも内閣府が文科省に圧力をかけたことが分かる文書を「確認できなかった」と幕引きを図り、前川前事務次官が「あるものをなかったことにはできない」と告発すると、読売新聞を動員して前川氏の人格攻撃を行い、菅官房長官が記者会見で誹謗中傷を繰り返す前代未聞の態度である。
さらに文科省の複数の職員がメディアに文書の存在を認めても菅官房長官は「再調査はしない」の一点張りだった。つまり森友・加計問題とは権力機構が情報を隠蔽し国民に対する透明性を阻害したところに最大の問題がある。
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