日本国民はこの選挙で初めて増税に賛成の意思を示すことになる
フーテン老人世直し録(333)
神無月某日
公示前に劇的な展開を予想させた総選挙は、小池百合子希望の党代表が「政権選択選挙」と言いながら選挙に出馬しないために期待は裏切られ、民進党分裂だけが注目されて自公優勢の選挙情勢が作り出された。
さらに公示前とは裏腹に公示後には何のドラマも起こることなく、このままでは「消費増税の使い道」と「北朝鮮危機から国を守る」の二つを選挙争点に掲げた安倍政権の勝利に終わりそうである。
そもそも臨時国会の冒頭で安倍総理が衆議院を解散したのは「森友・加計問題」の追及とトリプル補選の取りこぼしから逃げるためで、2年先の消費増税の使い道と北朝鮮危機を解散の理由とするには無理があった。
そのためか選挙戦では野党が「森友・加計問題」を取り上げ追及するのに対し安倍総理はほとんどその問題に触れないですれ違いに終わらせ、アベノミクスの成果を力説することに終始する。野党はアベノミクスが暮らしに反映されていないと反論するが安倍総理の言う成果の一々を覆し論争する形になっていない。
憲法問題では社民、共産が相変わらず「護憲」を訴え、立憲民主はそれと近いように見せているがしかし枝野幸男代表はれっきとした「9条改憲派」である。これまでのメディアの報道に問題があるが、与党が「改憲」で野党が「護憲」という図式はもはやない。社民、共産以外の政党は少なからず「改憲」を認め、「改憲」の中身に違いがあるだけである。
従ってこの選挙は与野党の主張ががっちりと組み合うことがない。すれ違いとあいまいさが浮き彫りになるだけの選挙である。有権者は何を選んでよいのか分からないのではと思うが、しかしただ一つ、2年後の「消費増税」を巡ってだけは対立がはっきりしている。
自公は2年後の消費増税を前提に教育費の無償化を訴えている。つまり2年後に消費税を10%にすることに賛成である。これに対し野党は「凍結」または「反対」を訴える。景気に悪影響を与えるとして「凍結」をいうのは希望の党、立憲民主党、日本維新の会、日本のこころであり、消費税そのものに反対するのが共産党と社民党だ。
自公がこの選挙に勝利すれば、消費増税賛成を訴えて反対勢力に勝つ画期的な選挙になる。消費税増税を国民に問うて選挙に勝利した政権はこれまでない。そのためこれまでは選挙の争点とせずに消費税を導入し税率も上げられてきた。今回は「増税の追認」ではあるがそれが初めて選挙で勝利することになる。
初めて消費税導入を掲げて総選挙を行ったのは大平正芳元総理である。1973年の第一次石油ショックで日本の高度経済成長は終わりを告げ、75年に三木内閣の大蔵大臣となった大平氏は初めて赤字国債を発行した。それ以来日本の財政は借金に頼る国債依存体質になる。
「将来の子孫に借金のツケを回してはならない」と責任を感じていた大平氏は総理になると直接税中心の税制を間接税中心にし、借金のない健全財政に戻すため、79年の総選挙で「一般消費税の導入」を公約する。しかしその選挙で自民党は過半数を割る大惨敗に見舞われた。
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