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「都市封鎖」のスペイン、「緩和」で揺らぐ人命最優先と、トイレットペーパーの次に消えたもの

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
この散歩は罰金!なぜだかわかりますか?(答えは真ん中の家族が大人2人同伴だから)(写真:ロイター/アフロ)

4月27日・全土封鎖45日目・午前11時半現在

感染者数:20万9465人

死者:2万3521人(前日比331人増)

※数字はすべて政府

感染者数はスペイン政府発表のもので、ジョンズ・ホプキンズ大学発表の数字22万6629人(27日スペイン12時半現在)に比べ1万7000人以上少ない。これは26日から政府が感染者数を「PCR検査のみの陽性」に絞り、「抗体検査による陽性」を除外したため。データなんていかようにも操作できることの証明である。前日比は無意味になったので省いた。

都市封鎖解除の危ういスタート

昨日26日から14歳以下の子供の大人同伴での散歩が可能になった。5月2日からは大人の散歩や運動も可能になる。世界で最も厳しい、買い物と銀行と病院と必要不可欠の仕事以外、外出禁止の非常事態宣言が緩み始めているわけだ。

だが、この緩和が医学的なデータだけに基づくものでないことは明らかだ。

確かに1日の死者が900人以上だった今月初めに比べれば減少傾向だが、今だって1日に300人以上亡くなっているのだ。

緩和は国民の不満も考慮している。

大人は買い物で外に出られたが、子供は40日以上も家に閉じ込められた。これで感染爆発が止まれば納得行くが、感染者数世界2位で死者は3位では説得力がない。感染者を把握できなかったことによる初動の遅れは明らかなのだが、それへの謝罪もなく挙国一致を訴えて乗り切ろうとしている政府への不信は、閉じ籠りのストレスとともに間違いなく加速している。

封鎖の緩和に医学的根拠以外のことを加味するのは悪くない。それが政治的判断というものであることは、以前の記事に述べた。

だが、それゆえに散歩の許可で感染が拡大するリスクは、みんなで負わないといけない。予定通りなら5月10日非常事態宣言が解除され、商店などが開いてさらに高まるリスクも、みんなで負わないといけない。

自動運転車はお年寄りを轢くべきか?

人命が最優先ならば「緩和」も「解除」も駄目に決まっている。

だが、人は生きるために生きるのか?

この間、人工知能に関するドキュメンタリーを見ていたら、自動運転のプログラムはモラルの領域に踏み込まざるを得ない、という話をしていた。

自動運転車が赤信号を渡るお年寄りを見つける。ブレーキは間に合わない。ハンドルを切ると乗車者が死ぬ。運転免許の教習では犬猫は轢け、と教えられた。だが、交通ルールを守らないお年寄りは轢くべきなのか?

さらに、赤信号を渡るのが若い女性だったらどうか? その女性が子供の手を引いていたらどうか? 乗車者がお年寄り1人だったらどうか?

お年寄りが2人の孫の手を引いていたらどうか? 車に4人乗っていたらどうか?……

と問いは続いていく。

都市封鎖の解除は、どこまで人命を優先するか、というモラルに踏み込まざるを得ない。だから科学的な議論だけでなく、必ずやモラル的な議論が起こる。

コロナ禍を「戦争」にたとえた政治家がいた。

家に閉じ籠っているだけで勝てる戦争があるわけないから、このたとえは適切でないと思っているが、人命の軽重が問われるという意味では戦争に近い。 医療従事者が迫られる“トリアージ”(どの命を助けるかという選択)が話題になっているが、封鎖緩和や封鎖解除は私たちが直面するトリアージなのかもしれない。

バルコニーポリスが子供の散歩を監視

子供の散歩解禁に対する反応を少し。

昨日午前9時、子供を連れた大人たちが一斉に外に出た。と、やっぱりバルコニーから見張っている者たちがいた(この現象についてはここに書いた)。

マスクをしていない、社会的距離が守られていない、大人が2人以上出ている(許されている同伴者は1人のみ)、サッカーをしている……等々の苦情が、証拠写真やビデオとともにSNSにアップされた。「あなたたちのような人が人命を奪うのだ」という怒りの決まり文句もあった。

だが、マスクはまだ全国民に行き渡っているわけではない。確かに最低1メートル半が守られていないようにも見えるが、望遠レンズの圧縮効果も考慮すべきだ。それと、同じ家に住む家族はいくら近づいても感染の危険は増大しない。

実際、2日に許可される大人の散歩では同居する者が一緒に歩くのは許されている。私が同居する彼女と手を繋いで散歩しても何ら問題はない。サッカーだって距離を保ってのロンド(鳥かご)であれば感染の危険は最小限だ。ボールによる媒介を心配するなら、道端のベンチや縁石に座ることも警戒すべきだろう。

もちろん、緩和を利用してルール違反をする者はたくさんいただろう。

というか、散歩を許した時点で、違反を取り締まる術を警察は持たないのだ。

最低1メートル半だが同居者はくっついてもOK、自宅から1キロ以内で1時間以内というのをどう証明すると言うのか? 2日以降、大人たちが歩くようになったら個々の良識に任せるしかなくなる。そうなると実質的に「外出禁止」ではなく「外出自粛」である。

10:意外な封鎖下の需要

ここからは「都市封鎖」で次々と起こる12のことの10番目、意外な封鎖下の需要について書く。

トイレットペーパーの次にスーパーから消えたのは、ベーキングパウダーだった。家で時間もあるし子供もいるし買い物にも自由に行けないしとなると、人はケーキ作りに励むものなのだろう。入荷しては消え、という状態がもう3週間近く続いている。代用品の重曹も消え、小麦粉も手に入りにくくなった。

グーグルの検索回数では非常事態宣言が発効した3月14日以来、「スポンジケーキ」が常に上位候補の「セックス」を上回り続けており、必需品で品不足の「マスク」とも抜きつ抜かれつの大接戦を演じている。

アルコールも人気だ。スーパーの売り上げは6割増。酒の販売に厳しい(夜10時以降は対面であっても販売禁止)この国の主な供給元だったバルが閉まり、誰もがビール、ワインを買い置きするようになった。

農業漁業食糧省の調査を見ると、非常事態宣言前後は米、パスタ、穀物、野菜、缶詰、油、牛乳などが爆発的に伸びたが、宣言が長引くに連れてナッツ、スナック、チョコレート、アルコール飲料が売れていく傾向がはっきり表れている。生活必需品はトイレットペーパーも含めすぐに供給が確保されたので買い溜めする必要がなくなり、ストレス解消のためにも嗜好品が伸びた、ということだろう。

ただし、ビールだけを買いに行き罰金を受けた例があった。必需品ではないビールだけはまずい、ということらしい。買い物回数が増えるからだ。

よって、うちはビールやワインの他に食料品も買い物かごに放り込んだ。勢いおつまみの消費も増えざるを得ない。

この45日間で痩せた者などいるのだろうか?

(過去の記事は以下のリンクに。1回目:12のこと2回目:封鎖の遅れ3回目:大移動が招く感染4回目:医療崩壊5回目:データ不信6回目:報道の大本営化7回目: 高まる同調圧力8回目:失業者救済スタート

'''(次回に続く)'''

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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