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新型コロナ「都市封鎖」で起こるデータ不信。致死率、感染者数、死亡者数は実態離れ…スペインに学ぶな!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
スペインは聖週間の最中。バルコニーで小さく祭事を祝う姿は数少ない明るいニュース(写真:ロイター/アフロ)

4月8日・全土封鎖26日目・午前11時半現在

感染者数:14万6690人(前日比6180人増)

死者:1万4555人(前日比757人増)

※数字はいずれも公式発表

前回の記事(4月6日)で下がりつつあるかに見えた死亡者数の伸びが再び上昇、また先行きが暗くなってきた――と言いたいところだが、今回は、政府や我われを一喜一憂させるそのデータが実は当てにならない、という話だ。

「都市封鎖」で次々と起こる12のことの6番目、感染キット不足とデータへの疑問である。

(過去の記事はここ、1回目:12のこと2回目:封鎖の遅れ3回目:大移動が招く感染4回目:医療崩壊

6:感染キット不足とデータへの疑問

スペインの致死率は異常な高さだ。

今日時点の「死亡者数÷感染者数」で計算すると、0.0992。約10%で感染者の10人に1人が死亡する計算だ。一方、日本の場合はNHKが報じている4月8日午前10時半時点の数字で計算すると、98÷4472=0.0219で約2%。スペインの致死率は日本の5倍近い。

なぜか?

ラテン民族は弱い、などいくつかの説があるが、有力なのは次の2つである。

1つは「医療崩壊」の結果だ、というもの。

前回の記事で書いたように、感染爆発のリズムについていけず、この国では人(医者)と物(防護服)と施設(集中治療室)がすべて不足した。助かる命を助けられなかった、というのは事実で、それで致死率が押し上がったことは間違いない。

2つ目は、そもそも分母(感染者数)が小さい、というものだ。

スペイン政府発表の感染者数とは「検査を受けて陽性とされた者」の数のこと。現状、検査を受けられるのは、症状を訴えて病院に行った者と陽性者の濃厚接触者だけ。私のように症状が無い者や、たとえ症状が出たとしても家に籠っている者は検査対象外。

検査キットが不足し、膨大にいるとされる無症状者(政府見解では16人中15人が無症状)を検査する術が無かったのだ。

つまり、「感染者数=感染把握者数」というわけで、感染未把握者がその数倍から数十倍いる、というのは常識化している。

3月13日に非常事態宣言を出した根拠が、この実態離れした数字で、今我われがその増減に一喜一憂している、というのは滑稽ですらある(もちろん、他に方法は無かったのだが)。

6万人調査で感染者の実数を知る試み

そこで、政府は画期的な方法を採用しようとしている。

それは全国で6万2400人のサンプルを作為(巨大感染源となっている老人ホーム)・無作為に抽出して一斉検査し、感染の実態を把握しよう、というものだ。

検査は2段構え。まずは手軽だが精度の低い抗体検査。これで陰性となった者にはさらに高精度だが時間がかかるPCR検査を実施する。この6万人調査の結果で全人口4700万人分の実感染者数を推測。その数字によって全土封鎖解除の判断がなされる、という。

感染死亡者数の過小評価の仕組み

さて、これはこれで素晴らしいことだが、実は死亡者数の方も同じ仕組みで過小評価されているのだ。

話を致死率に戻す。

政府発表の死亡者数とは「検査を受け陽性とされた後死亡した者」。そのほとんどが病院で亡くなった者であり、老人ホームや家で亡くなった者はよほど疑わしくなければ検査はされていない。

根本的な理由は同じ、検査キット不足。それに、治療の方が大事で死者にまで手が回らなかった、という当然の理由も加わる。

つまり、「死亡者=感染把握者数のうちの死亡者」というわけで、実態はもっと多いと推測できる。

死亡届数は感染死亡者の倍近く

データの裏付けもある。

例えば、マドリッド州の昨年3月の死亡届の数は4125。1日当たり133。これを3月14日(全土封鎖発効の日)から31日の18日間分に換算すると2394となる。今年の同時期の死亡届の数は9007だから6600以上増えている計算だ。

にもかかわらず、政府発表の同時期の感染による死亡者は3439人に過ぎない。差し引き3000人以上の死因は何だったのか? 感染による死亡と考えるのが、普通だろう。

まとめると、感染者数、死亡者数とも「把握数」に過ぎない。実際の感染者数は十数倍になる可能性があり、実際の死亡者数は倍化する可能性がある。その結果、スペインの致死率は下がる……ということだ。

検査不足による実態とのかい離、これは日本でも必ず議論となるはずだ(もう一部ではなっているようだが)。

スペイン政府は死亡者数の定義はWHO(世界保健機関)のもの、と主張している。であれば、日本も共通の定義を使用している可能性もあり、死亡届の数と比較して検証されるべきだろう。

封鎖下での必然的な情報不信

緊急事態宣言下の日本にしても、非常事態宣言下のスペインにしても、不十分な情報、不確かな情報がまるで事実のように語られることになる。そして、それを検証するメディアも取材を制限され弱体化せざるを得ない。

明日のスペインに学ぶな!は、「7:報道の空洞化とデマ」について書くつもりだ。

(明日に続く)

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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