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新型コロナ「都市封鎖」で起こる報道不信。取材不可能で大本営化、動画とデマの洪水…スペインに学ぶな!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
応援の拍手に応えるマドリッドの病院スタッフ。感動的な場面だがその裏で情報不足が…(写真:ロイター/アフロ)

4月9日・全土封鎖27日目・午前11時半現在

感染者数:15万2466人(前日比5756人増)

死者:1万5238人(前日比683人増)

※数字はいずれも公式発表

朝から国会中継が生放送されている。

非常事態宣言の再々延長の採択前に野党の意見表明があるからだ。普段350議席がある国会で出席者は20数人。感染者数、死者数ともに世界2位という数字に政府の失策が凝縮されているが、それでも野党は、国難を前に一致団結を訴える首相に反対票を投じることができない。再々延長の可決は規定路線なのだ。

「都市封鎖」は民主主義を変え、報道も変える。

今日は「都市封鎖」で次々と起こる12のことの7番目、報道の空洞化とデマについて書きたい。

(過去の記事はここ、1回目:12のこと2回目:封鎖の遅れ3回目:大移動が招く感染4回目:医療崩壊5回目:データ不信

7:報道の空洞化とデマ

「都市封鎖」で文字通り“目に見えて変わる”のはテレビだ。

まずバラエティ番組が報道番組化する。

番組観覧席は空席となり、“ソーシャルディスタンス”(なぜ英語?)のせいでスタジオ参加者が減り、そのうちスタッフも減って出演者は自分でメーキャップをすることになる。

その分スカイプ参加者が増える。感染症の専門家、現場の医師、自治体の長、元政治家、医療品メーカーの担当者らが次々と登場して持論を語る。日本のように芸能人が報道番組に呼ばれることはそもそもないので、ひたすら硬派路線を走ることになる。

方向転換できない番組は再放送や映画に差し替わる。

日本の場合だと、最初に番組欄から消えるのは悪条件をみんな満たしている、ひな壇形式のバラエティではないか。

映像も変わる。

外出禁止でもメディアは活動できるが、だからと言って感染と無縁なわけではない。戦場化している病院や老人ホーム、埋葬の現場にはカメラは入っていけない。よって、そうした最前線を遠巻きにしてレポートするか、空っぽの街などの無難な映像で誤魔化すことになるのだが、それには限界がある。

代わって生中継の主役となるのは、毎朝定例の保健省のスポークスマンによる、感染者数や死亡者数などのデータの公式発表である。経済対策には労働大臣が、全土封鎖の延長など重要案件では首相が登場。非常事態宣言以降は、政府の直接指揮下に入った軍隊と警察の代表者もマイクの前に立つ。

感染対策としての記者会見中止

もちろん、彼ら政府関係者は最重要の情報源なのだが、問題なのは報道が公式見解の垂れ流し、つまり、大本営発表化してしまうことだ。

全土封鎖の直前から記者会見が中止された。政府が事前にメディアに質問を募り、スポークスマンがそれをまとめて質疑応答する形になった。情報操作のためではなく、感染防止のためなのだが、これでは政府に都合の悪い質問はカットされるし、事前に答えを用意できるため、生でしどろもどろになって対応する、みっともない場面も回避できるし、質問をはぐらかしても記者に追い打ちをかけられることもない。要は、質疑応答の形を採られてはいるが、実際には一方通行なのだ。

こうした取材困難によって空洞化したメディアの穴を埋める形で流れ込んでくるのが、個人が撮影してSNSに上げた動画である。

これには主に2タイプある。

感動と怒りの動画が情報不在を埋める

1つは、応援もの。

退院する人を医療関係者が祝福して送り出す様子や、医療関係者への拍手やエールをカメラに収めたもの。こういう感動的な映像に、番組もすかさずメロディアスな音楽を被せて涙を誘う。みんなで頑張って国難を乗り切ろう、という気持ちが盛り上がってくる。

だが、こういう感動コーナーがニュース番組の半分で、おまけにCMがまた利に敏い企業の応援CMだったりすると、さすがにこれは報道ではない、と思えてくる。

2つ目は、内部告発もの。

医療崩壊の現場を最初にスクープしたのはメディアではなく、医者や看護師本人だった。防護服代わりにあてがわれたゴミ袋、ベッドが足りず床に横たわる患者たち。人工呼吸器が回ってこないで亡くなった人の家族や、死に目に会えなかったり、葬式をできなかった人からビデオが報道機関に送られてくる。それをニュースで取り上げて告発者の声を流す。

告発の動画は、全土封鎖下で政府の言いなりとならず報道の公正さと中立性を保つための貴重な情報源となった。

コロナ禍のデマ、5つのタイプ

もっとも、個人の発信に頼りっぱなしだとメディアがデマ流布の片棒を担ぐことになりかねない。ご存じの通りSNSはまた、フェイクニュース誕生と拡散の温床である。

全土封鎖下のデマは以下のように大別される。

1:発生源がらみ

コロナウイルスを作り出し中国に売った男がアメリカで逮捕されたとか、ウイルス輸送中の貨物車両の写真が撮られたとか、高齢者人口を減らすために開発されたとかは、もちろん嘘。

2:治療法がらみ

息を止め15分ごとに水を飲む、にんにく、玉ねぎ、レモン、生姜、熱湯……は感染の予防にも治療にもならない。ヘアドライヤーでは殺菌できない。二酸化塩素(MMS)はむしろ害である。

3:支援がらみ

スーパーマーケットが買物券を、通信会社がデータ量を、映像配信会社が会費を、慈善団体が現金を、電力会社が電気代を、それぞれプレゼントする、というようなうまい話には必ずと言っていいほど裏(詐欺)がある。

4:政治家がらみ

政治家が外出禁止を無視し別荘に逃げたとか、集中治療室を自宅に設置したとか、「老人は死んでも良い」と発言したとか、はフェイク。陽性や死亡の噂が出た政治家も多数。

5:愉快犯

スーパーで暴動が起きたとか、ライオンが放たれたとか、ワニが逃げたとか、休校中の学生は全員合格だとか、逆に全員留年してやり直しだとかは、事実ではない。

以上のようなデマの拡散に使われたWhatApp(ラインのようなメッセージアプリ)は、再送の数を制限する対策に乗り出した。

最後に日本について言うと、感染予防を理由にいずれ記者会見に制限がかかるのではないか。そうして、国難を前に挙国一致の必要性を説き、政権批判をかわそうともするだろう。

スペインのメディアは意外に硬派で、取材困難な中でもよくやっている。主要メディアが団結して抗議書を突き付け、来週月曜(13日)から記者が出席可能な会見に戻すことを約束させた。感染爆発にブレーキがかかり患者の減少した病院に、カメラを持ち込むことに成功したテレビ局もあるようだ。また、この国にはフェイクニュースをチェックする民間組織があり日々嘘を暴いてくれて助かっている(ホームページはここ。残念ながらスペイン語のみ)。

封鎖を口実にしたメディアコントロールに日本のメディアがどう立ち向かうのか、注目したい。

(次回に続く)

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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