それでも国民民主党が与党と連立できない訳を選挙区事情から拝察。主敵は自公で立憲が暗黙の味方
今日から特別国会が始まります。これまで与党(自民党と公明党)が総選挙で過半数割れして足らざる分を躍進した国民民主党で補う「自公国連立」がささやかれました。玉木雄一郎国民代表は否定するも甘い誘惑に駆られて今後、与党入りするのではないかとの観測が絶えません。
ただし選挙区事情を個別に観察すると連立したくてもできない状況です。仮にそうしたら後述する「よほどの厚遇」がない限り分裂か次の総選挙で壊滅するから。以下にその理由を順に述べます。
仮に執行部が連立へ突っ走っても大分裂必至
現時点で国民の立ち位置は国会開催前の政策協議に政務調査会長レベルで参加するというあたり。看板政策の「『103万円の壁』引き上げ」などを与党に飲ませる代わりに法案に賛成する。拒否されたら敵に回って多数派となった野党の一員として政府と対峙するという方向です。内閣の構成員(国務大臣など)を得ての「連立」や包括的な合意文書締結に基づく「閣外協力」もしないと。
今回の総選挙で野党として戦ったから与党入りが裏切り行為と有権者に映るという理由ももちろんあるでしょうが、そうした建て前より重要なのは「なぜ総選挙(特に小選挙区)で国民が躍進できて主敵は何者であったか」です。国民の候補者は皆その答えを身にしみて知っているため仮に執行部が連立へ突っ走っても大分裂必至といえます。だから踏み込めません。
他党と協調していない国民の小選挙区勝利11人は立派
最初に検討すべきは「小選挙区で勝った国民候補」が11人もいる点です。
「小選挙区勝利」は政党の底力を示します。というのも衆議院議員定数465人のうち289人(約62%)を占めるから。何だかんだいって自民と立憲民主党が2強を形成するのも、ここで勝ちきる力が圧倒的だからです。今回も自民132で立憲104。国民11は維新23に次ぐとはいえ、維新が「うち大阪で19」と偏っているのに対して国民は7県5ブロックに分散しています。
連立与党の公明は「自民が出さない+応援してくれる&維新が大阪で出さない」を条件に前回(21年)小選挙区で9議席を得るも、今回「維新が出す」に転じて大阪の4議席を失ったのが響いて4議席に止まったのと比較すると全国レベルで他党と協調していない国民の11は立派です。
最大の対立候補は自公で立憲は11分中9選挙区で候補を出していない
うち最大の対立候補(次点)が自民9(※注1)と公明2。公明退潮の原因を専ら維新の戦術変更とみなされるのに隠れているも、国民に負けた2議席も大いに痛かったといえます。
注視したいのは他の対立候補。仲が悪い共産が立てるのは当然として立憲が11選挙区中9選挙区で候補を出していません。図らずも候補者不足に悩んだ立憲の不在を補った形となったのです。
仮に与党が国民を連立に引き込みたければ最低でも11人分の選挙区で次回は自公の候補者を立てないという「よほどの厚遇」がない限り難しい。おそらくそれは無理でしょう。
比例復活の選挙区も小選挙区勝利と同じ構図
次に小選挙区で敗北したものの比例で復活した16人(※注2)。12選挙区で国民が次点で当選が自民11(※注1)立憲1となりました。12分中、立憲も擁立したのは2選挙区に止まります。小選挙区勝利の傾向と同じく立憲と争わないで済んだのが「自国対決」に持ち込めた主因の1つです。
残り4人は国民候補が3位以下での復活。「大阪8区」は維自激突という地域要因なので残り3をみると、すべて「自立激突」(自民2勝・立憲1勝)。比例票に救われた形なのです。
要するに国民の主敵は(大阪を除くと)自民で、かつ立憲と同一選挙区で競い合わないのが勝利に近づく構図という点で小選挙区勝利と同じといえます。
比例復活するのとしないのでは大違い。何であれ当選は当選で「衆議院議員現職」となれるばかりか、次期総選挙で「前職」(※注3)として挑めるアドバンテージが大きいからです。
落選選挙区の多くは維新候補に食われた
最後に国民公認で小選挙区へ立候補しながら落選(比例復活もならず)した14選挙区。国民が次点につけながら敗北したのが6選挙区で勝者はすべて自民。うち3選挙区は野党の動向にかかわらず自民候補が強いので仕方ないとして残念なのは当選した自民候補が得票率5割を割りながら敗退した東京の3選挙区です。
6選挙区すべてに立憲は候補を出していません。東京の3選挙区は共産(3)と維新(2)と競合したのです。前述の通り共産と共倒れするのは致し方ないとして意外と維新が国民当選を邪魔している形です。
実は先の復活当選兼選挙区次点の12人中7選挙区で維新候補も擁立されています。いずれも小選挙区では国維共倒れ。もし維新が擁立せず、維新票がそのまま国民に乗ったと仮定したら7つすべてで当選した自民(※注1)候補を凌駕したのです。
つまり選挙区での共倒れの多くは維新候補に食われた票が大きかったといえます。出していない立憲は国民票へ少なくとも負の影響を与えていません。
小選挙区での立国共倒れは6選挙区
小選挙区で国民が3位以下で落選した残り8議席での当選者は自民6(※注1)、立憲1、公明1でした。8つのうち7つで立憲も候補を出して(※注4)当選1・次点6(うち復活当選3)という結果。この6選挙区こそ結果から導かれる小選挙区での立国共倒れといえます。
比例議席を得た最大要因が選挙区での善戦にあった
こうした事情は小選挙区の国民候補者41人および関係者が知り抜いているのはいうまでもありません。あくまでも主敵は自公で立憲候補と同一選挙区で重なったケースはそもそもさほどなく。さらなる小選挙区勝利上澄みを阻んだのは、あえていえば維新候補だと。
確かに比例での国民躍進(17議席)は純粋に同党の主張が支持された結果と賞賛されましょうが、「自公は論外。といって立憲も嫌」という選択であった可能性も大いにあります。前述の通り国民の比例議席の大半(※注2)は小選挙区からの復活当選が占めるため議席を得た最大要因が選挙区での善戦にあったのです。
連立したら復活当選者に限っても16選挙区を諦める羽目に
以上を考え合わせると今後、国民が政策実現のためといえ自公政権と連立レベルまで接近して立憲を袖にするような動きを露骨に示すのは危険といえます。今回の総選挙で国民候補のいた41選挙区中、立憲も出したのは10に過ぎず、復活も含めた当選者はわずか3人。いわばは暗黙の味方でした。
もし立憲と完全に仲違いして国民候補のいる選挙区へ立憲が容赦なく擁立してきたら壊滅的打撃を受けましょう。それをかわすには最低限、小選挙区で勝った11選挙区に自公が候補者を出さないよう調整する必要があるも望み薄。
百歩譲って候補者調整が上手くいっても残り30人(国民の候補者41人-11)は選挙区の立候補すらかないません。くしくも「11選挙区」とは自公協力で今回、自民が立てず公明に譲った数と同じ。復活当選者に限っても16選挙区も諦める羽目に陥ります。
公明の反発も必至。自民に選挙区を渡す代わりに「選挙区は自民。比例は公明」と呼びかけてもらうバーターが「比例は公明か国民」になってしまって比例票の減少が確実だからです。
※注1:いわゆる「裏金非公認」1人を含む。
※注2:国民の比例獲得議席は17。うち1人は比例単独で小選挙区で立候補していない。
※注3:解散を受けての総選挙の場合、解散した時点で現職は「前職」と表記が変わる。ゆえに実質的に前職≒現職である。
※注4:立憲系無所属1を含む