「ラーメンは売らない!」 人気ラーメン店の決断の理由とは?
店ごとにコンセプトが異なる『麺屋武蔵』
常に革新的なラーメンを生み出し、ラーメン界に衝撃を与え続けている人気ラーメン店『麺屋武蔵』(本店:東京都新宿区西新宿7-2-6 代表取締役:矢都木二郎)。1996年の創業以来、「革新にして上質」「唯一無二」を変わらぬコンセプトに据えて、店舗ごとに味やテーマが異なるというスタイルで、国内外に多数店舗を展開している。
例えば、神田の『麺屋武蔵 神山』(東京都千代田区内神田3-8-7)では、大きな豚バラ肉を蒸してから蒲焼きにする「蒲焼きチャーシュー」が名物。吉祥寺の『麺屋武蔵 虎洞』(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-7)では、店内で仕込む「虎のしっぽ(自家製ソーセージ)」が人気を集めている。
そんな『麺屋武蔵』であっても、長引くコロナ禍による影響は少なくない。多くの飲食店がテイクアウトやデリバリーに活路を見出している中で、これまでデリバリーなどに参入していなかった『麺屋武蔵』も方針を変えた。
「コロナ禍で売り上げが落ちている中、何がなんでも売り上げを上げていかなければと考えた時に、ラーメンだけではなく自分達の技術を活かした他の食べ物もあった方が良いのではと思い、特徴的なトッピングがある店舗に声掛けをして商品開発に着手しました」(麺屋武蔵 代表取締役 矢都木二郎さん)
ラーメン店なのにラーメンを売らない理由
2021年5月、自家製ソーセージの『麺屋武蔵 虎洞』(吉祥寺)が、自慢のソーセージを使った「ホットドッグ」を開発。デリバリー専門のヴァーチャル店舗「タイガードッグ」をスタートさせた。続いて、蒲焼きチャーシューの『麺屋武蔵 神山』(神田)では、厚切りの蒲焼きチャーシューをご飯に乗せた「ちゃあ重」のヴァーチャル店舗「蒲や」をスタート。どちらもリピーターを生む人気商品となり、今では店舗でのテイクアウトにも対応するようになった。
ラーメン店であるのにラーメンを売らない。しかもブランドとして浸透している『麺屋武蔵』の屋号は使わずに、新たなブランドとしてヴァーチャル店舗を立ち上げたのはなぜなのだろうか。
「コロナ禍によってラーメン市場も大きく縮小しています。プレイヤーの数はさほど変わらない中で勝負をするよりも、ラーメン以外の市場に販路を作りたいという思いがあります。ラーメンよりもデリバリーやテイクアウトに向いた商品の市場に参入する方が得策ではないかと考えました」(矢都木さん)
『麺屋武蔵』は創業以来、ラーメンイベントや催事出店をして来なかった。それはラーメンのみならず店舗での接客も含めた体験すべてを大切にしているからだ。残念ながらラーメンという食べ物はデリバリーやテイクアウトには不向き。それよりもデリバリーで美味しく食べられる商品を、と考えるのは当然のことだろう。
デリバリーの世界では、「ゴーストレストラン」「ヴァーチャル店舗」が増えている。その理由の一つとしては、実店舗の商品やブランドのイメージが逆に自由を奪い邪魔になる場合もある。『麺屋武蔵』が武蔵の名前を使わないのも、ブランド力の高い屋号やラーメンというイメージに縛られないためだろう。
第3の新商品は「プルドポークタコライス」
そして10月からは第3のブランドがスタートしている。スチームコンベクションで焼き上げたしっとり柔らかなローストポークが自慢のつけ麺専門店『麺屋武蔵 武骨相傳』(東京都台東区上野6-11-15)が開発したのは、細かくほぐした豚肉をソースと和えたアメリカのバーベキュー料理「プルドポーク」。それを沖縄の人気料理「タコライス」と合わせた「プルドポークタコライス」を考案し、屋号も『Taco_Pull(タコプル)』とした。
ローストポークを丁寧にほぐしてタレやスパイスで仕上げたプルドポークとタコライスの相性は抜群。アボカドやチーズ、さらには肉厚のローストポークを乗せるバリエーションもあり、ソースもガーリックソースやホットソースなどを選べる。手に取るとズッシリとした重みがあり、かなりのボリュームがあるメニューだ。
ラーメンではない料理に挑戦する『麺屋武蔵』。市場や世の中の状況を見据えながら、今後も挑戦を続けていくという。
「デリバリーはサービス内の検索上位に入らないと注文が入らず、実店舗以上に勝ち負けがハッキリする世界です。もちろん商品には自信がありますが、さらに認知度を向上させていくことが大切だと思っています。また、デリバリーだけではなく店舗でテイクアウトを始めたところ好評なので、実店舗をやる可能性もあるかと思います。これから先、しばらくはデリバリー市場も成長曲線だと思いますので、様々な可能性にチャレンジしていきたいと思っています」(矢都木さん)
※写真は筆者によるものです(出典のあるものを除く)。
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