「抗酸化作用」は「諸刃の剣」。「発がんリスク上昇」を報告する研究も。
体を守る作用もある「活性酸素」
「抗酸化作用」と聞けば無条件に「体に良い」、逆に「活性酸素」は「体を錆び付かせる悪い物質」と信じていませんか?
確かに「多すぎる活性酸素」(酸化ストレス)は体のあちこちを傷つけます。でも適量なら逆に、体を守ってくれます。特に注目したいのが活性酸素による「発がん抑制作用」。がん細胞を早期にやっつけてくれるのです。
だから行きすぎた「抗酸化」は活性酸素によるこの「発がん予防作用」を弱め、結果として発がんリスクを上げてしまうのです。
実例をお示ししましょう。
βカロチンで肺がんリスクが増加
衝撃的だったのは、1994年に報告された臨床試験でした [文末文献1] 。
喫煙者の肺がんを予防しようと思い、βカロチンサプリ(1日20mg)を長期間飲んでもらったところ、偽薬(プラセボ:見かけはサプリだがなんの効果もなし)を飲み続けた人たちに比べ、肺がんを発症するリスクが相対的に18%増加していました(1.18倍)。
βカロチンは強力な抗酸化作用を持ちますが、逆にがんのリスクを増やしてしまったのです。
ビタミンE長期服用では前立腺がん
それだけではありません。
2011年に報告されたセレクト(SELECT)という名の臨床試験でも、抗酸化サプリ摂取に伴う発がんリスク増加が観察されました [文末文献2] 。
約3万6千人の中年男性を対象として調べた結果、ビタミンEサプリを1日400 IUをおよそ5.5年間飲み続けた人たちでは、偽薬を飲んだ人たちに比べ、その後「前立腺がん」となる危険性が17%増加していたのです(1.17倍)。
ビタミンEも、抗酸化作用で有名ですね。
酸化ストレス抑制には「サプリ」より「生活習慣」。
多すぎる「活性酸素」(酸化ストレス)が体を傷つけるのは事実です。しかし抗酸化サプリでそれを抑えすぎると「がんのリスク」が上がってしまいます。「諸刃の剣」なのです。
ではどうすれば良いでしょう?
「バランスの良い食事だけで十分」と主張する学者もいます [PDF]。というのも、そもそも私たちの体には活性酸素を除去するシステムが備わっているからです。普通に暮らしていれば、活性酸素は問題なく消えていくそうです。
厚生労働省の「e-ヘルスネット」にも、「日ごろからバランスの取れた食事、適度な運動習慣ならびに十分な睡眠により抗酸化防御機構を良好に保つことが酸化ストレスを防止するためにも重要となります」と書かれていました。
そう考えると、昔から言われている「健康な生活」とは、実のところ酸化ストレスを安全に抑える生活でもあったのですね。恐るべし、先人の知恵。
まとめ
いかがでしたか?
メディアやネットではいつも悪者扱いされている「活性酸素」が、実は発がんを抑えている可能性があるという論文のご紹介でした。
抗酸化サプリを飲み続けてがんになっては本末転倒。気をつけたいものです。
サプリについては次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。ではまた!
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今回ご紹介した論文
本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。