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カルシウム「サプリ」は心筋梗塞を増やす。摂るなら食事で朝のうちに。3万6千人解析データ【最新論文】。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

 カルシウムのサプリは心筋梗塞などのリスクを増やす

 人間の健康に欠かせないカルシウム。特に丈夫な骨を保とうとカルシウム「サプリ」を飲んでいる人も多いのではないでしょうか。

 でもご注意を。カルシウムの「サプリ」は心筋梗塞などの病気を増やす危険性が報告されています。

 代表的なのは「米国栄養学会誌」という国際学術誌に掲載されたデータです。

 「ランダム化比較」という、医学では最も信頼性の高い方法で実施された臨床試験9つ(参加者約10万人)のデータを併合したところ、カルシウム「サプリ」を常用するとそうでない人に比べ「冠動脈疾患」を起こす相対リスクが「8%」だけですが、増えていました(1.08倍) [文末文献1] 。

ランダム化試験:比較したいグループをくじ引きで分ける試験。特定のグループを有利/不利にするような人為性を排除できる(≒バイアスのない結果が得られる)。

冠動脈疾患:心臓の壁を走る血管(冠動脈)に異常が生じ、血流が悪くなる状態。十分な血流(=酸素)を受け取れない心臓の筋肉は傷害されるか、死んでしまう(壊死)。心筋梗塞(心筋が壊死)や狭心症(死なないけど傷害)が典型。

骨折リスク減少は証明されていない

もっとも、それで骨が丈夫になるならまだ良いのですが、少なくともカルシウム「サプリ」による骨折予防作用は確立していません。どちらかといえば「否定」するデータの方が多いのが事実です。

例えば「米国医師会雑誌」に載った、33のランダム化比較試験(参加者数は約5万人)のデータを合わせて解析した研究では、カルシウム「サプリ」による臀部骨折リスク抑制は、ビタミンDサプリ併用の有無を問わず、認められませんでした [文末文献2] 。

ちなみに「米国医師会雑誌」(JAMA:ジャマ)は、臨床医学では4本の指に入る信頼性の高い学術誌です。なのでこの研究の信頼度も高いと考えて良いでしょう。

食事からのカルシウムは量が増えるほど骨折は減り、冠動脈疾患のリスクは増やさず

 一方、食事中のカルシウムは、摂取量が増えても冠動脈疾患のリスクは上がらず [文末文献3] 、またたくさん撮るほど骨折リスクは低くなります [文末文献4] 。

 つまりカルシウムを健康的に摂りたければ、サプリではなく食事から摂ることが非常に重要と考えられているのです。

 さて、やっと今回の本題です。

「じゃあ、食事からのカルシウムは朝と晩、どちらで食べる方が良いの?

こんな疑問を持った医師が出てきました。ハルピン医科大学(中国)のティン・ジャン氏たちです。研究結果は4月19日、「BMC公衆衛生」という学術誌に掲載されました [文末文献5] 。

食事からのカルシウムは朝食で摂ったほうが良い?

答えは「朝」

米国在住の約3万6千人の食事を聞き取り調査し、「朝晩のカルシウム摂取割合」と「冠動脈疾患を保有」の割合を調べたところ、夕飯からのカルシウム摂取割合が朝食に比べ高くなるほど、心疾患や脳卒中診断歴のある人が増えていました。

つまりカルシウムを朝ご飯より晩ご飯でたくさん摂る方が、それら疾患を起こすリスクが高い可能性が示されたのです。

もちろん、「夕飯のカルシウム摂取割合が高い」→「その後の心疾患・脳卒中が増えた」ではないので、そういう疾患を持っている人は何らかの理由で夕飯のカルシウム摂取割合が増えている可能性もあります。

体内時計に影響?

しかしジャン氏たちは、カルシウム摂取のタイミングの違いが、それら疾患のリスクを左右していると考えているようです。

そしてその仕組みの一つとして、晩のカルシウム摂取が体内時計に悪影響を与えている可能性を挙げています。興味のある方はぜひ、論文をご覧ください。全文無料で読めますよ。AIを使えば翻訳も要約も楽勝でしょう。

ともあれ、まとめると、「カルシウムを摂取するならサプリではなく食事から」、「食事でカルシウムを取るなら朝の方が脳・心臓疾患のリスクは低そうだ」ということです。

「朝、牛乳を飲む」というのは案外、理にかなった行為なのかもしれません。

最後に

いかがでしたか?

あまり知られていないカルシウム「サプリ」の医学データ、ならびに食事におけるカルシウム摂取タイミングについての最新データをご紹介しました。

骨折やカルシウム・サプリについては次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。ではまた!

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今回ご紹介した文献

  1. カルシウム・サプリ常用で冠動脈疾患リスク上昇:ランダム化試験メタ解析
  2. カルシウム・サプリによる骨折予防作用は認められず:ランダム化試験メタ解析
  3. 食品からのカルシウム摂取は量が増えると冠動脈疾患リスクが減る可能性も
  4. 食品からのカルシウム摂取が増えると骨折リスクが低減
  5. 食事からのカルシウムは朝食でたくさん摂ったほうが脳・心疾患のリスクが低くなる可能性 [2024. Apr. 19]

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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