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実はグルコサミンに膝痛軽減効果なし。でも認知症リスクは低下の可能性【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

こんにちは。

「グルコサミン」と聞くと膝の痛みを和らげる効果があると思われがちですが、実は医学的な証明はありません。一方最新の研究では、グルコサミンが認知症を抑制する可能性が示されました。今回はそんな論文をお伝えしたいと思います。

ランダム化試験で確認できなかった膝痛軽減

「グルコサミンを飲めば膝痛が軽減するかも」。このように考えた医師や医学者は決して少なくありません。そのためそれを実証すべく少なからぬ臨床試験が実施されましたが、ような効果は実証できませんでした。決定打となったのは2017年、「リウマチ性疾患紀要」という学術誌に掲載されたJos Runhaar氏(エラスムス大学、オランダ)たちによる研究です [末尾文献1] 。この学術誌は「欧州リウマチ学会」という著名学会の公式学術誌であり、そこに載る論文の信頼性は高いと考えられました。ご紹介しましょう。

Runhaar氏たちが実施したのは「メタ解析」と呼ばれる研究です。「メタ解析」とはいくつかの臨床試験データの併合解析。個々の臨床試験より信頼性の高い結果を得ようとする際に採用される手法です。膝痛を伴う関節炎に対しグルコサミンと偽薬(外見は味はグルコサミンと同じだが、なんの効き目もない)を比較した「ランダム化試験」4つが併合されました。4試験に参加した患者さんの数は1,403人。かなり大規模(≒高信頼性)な解析です。

ランダム化試験:比較する2群をくじ引きで割り振る試験。どちらかの群が有利になるような人為性が排除されるため臨床試験としての信頼性は非常に高い。

その結果グルコサミンは、偽薬に比べ痛みを軽減せず、膝の機能も改善しませんでした。飲み始めて3カ月後だけでなく、もっと長く飲み続けた24カ月後で比較しても同様でした。この解析対象となった4試験は、試験の信頼性と正確性を厳密に吟味したうえで残ったものです。それだけにこの解析結果は、十分な説得力がありました。

認知症リスクは16〜18%低下か

このように膝関節炎の改善には期待薄のグルコサミンですが、認知症抑制は期待できるかもしれません。3月29日、学術誌「BMCメディシン」に掲載された研究をご紹介します。論文著者はJiazhen Zheng氏(香港科技大学)たちです [末尾文献2] 。

Zheng氏たちが解析対象にしたのは「UKバイオバンク」と呼ばれる、英国で実施されている自主参加型の観察研究に登録された50万人弱です。平均年齢は56.5歳。すでに認知症を発症している人たちは除外されています。うち9万5千人弱がグルコサミンを常用していました。

この人たちを9年間弱観察したところ、2,500人弱が認知症を発症しました。そしてグルコサミン常用者では非常用者に比べ、認知症リスクが相対的に19%低くなっていました(0.81倍)。この結果は認知症発症と関係する因子(年齢や学歴、喫煙や飲酒の習慣など)の影響を統計学的に除外しても同様でした。やはりグルコサミン常用で認知症発症リスクは相対的に16〜18%低下していたのです(0.82〜0.84倍)。

グルコサミン常用者は膝痛のためコンドロイチンも飲んでいる可能性が高いので、コンドロイチンを飲んでいる人を除外した比較も行われました。しかしやはり、同様の結果でした。「コンドロイチン併用の有無を問わず、グルコサミンは認知症を予防している可能性が否定できない」とZheng氏たちは記しています。

グルコサミンで認知症を抑制できるとすればなぜ?

このような結果となったメカニズムをZheng氏たちは、以下のように推測しています。

  • グルコサミンが脳内のGLUT2という受容体に作用する結果、アルツハイマー病のリスクが減る
  • グルコサミンには炎症を抑える作用が示唆されているが、神経細胞の炎症は認知症の危険性を上げる。
  • グルコサミンが腸内環境を整え、「腸・脳連関」を通して認知症を抑制する

などです。UKバイオバンクで観察された認知症抑制は単なる偶然ではなく、それを説明し得る医学的理論が存在するということですね。

まとめ

いかがでしたか?

グルコサミンは膝痛には役に立ちそうにないけれど、将来の認知症のリスクは減らすかもしれないというお話でした。

認知症については「ボケたくなければこれを食べよう!認知機能・記憶力が良い人の食生活が判明」「『高血圧を下げるとボケる』は迷信!【エビデンスで俗説を切る】」という論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。

ではまた!

今回ご紹介した論文

グルコサミンは膝関節炎の痛みを軽減しない

グルコサミンは将来の認知症を減らすかもしれない

(どちらも全文、無料で読めます。英語ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語に直せます)。

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本超。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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