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2025年は廃業するラーメン店が続出? 危機を回避するための3つのラーメンとは?

山路力也フードジャーナリスト
2025年は廃業するラーメン店が続出するかもしれない。

今ラーメン業界が直面している危機とは

ラーメン業界はこれまでにない危機を迎えている。
ラーメン業界はこれまでにない危機を迎えている。

 コロナ禍以降、ラーメン業界を取り巻く環境は決して良いとは言えない。高騰する食材原価に原油高、さらには人件費も上がっており、ただでさえ薄利多売のビジネスモデルのラーメン店において、食材費や人件費の高騰は死活問題となっている。原価などが上がった分を売価に乗せられれば良いが、長引く不景気で消費者の財布の紐は固いままだ。

 人件費などはタブレットやモバイルオーダーの導入、さらにはキャッシュレス決済への切り替えや、配膳ロボットや調理ロボットの導入などである程度抑えることは可能かもしれない。しかし肝心のラーメンそのものに影響する食材原価を圧縮することは、これまでのクオリティや味を損なう可能性が極めて高い。

 加えて現代のラーメンは昔のラーメンとは異なり、厳選した材料を大量に使う設計になっているものが多い。本来ならば一杯1,000円以上の価格をつけてもよいクオリティでありながら、消費者の意識が昔のラーメンのままで追いついておらず、なかなか1,000円以上の売価をつけられないという状況に陥っている。売価に対してオーバースペックになっているのが今のラーメンの構造的な問題なのだ。

 2024年は例年以上にラーメン店の倒産や廃業が相次いだ。その流れは2025年にさらに加速していくことは間違いない。これまでのオーバースペックなラーメンでは利益が見込めない。この厳しい状況を回避するためには、これまでの設計を捨てて売価にあった原価率の利益を見込めるラーメンにシフトしていくしかない。実際数年前より設計を見直して新たなラーメンに切り替えている既存店も増えつつある。

 2025年のラーメン業界はどうなるのか。2025年のラーメンのトレンドを予測しながら、3種類のラーメンを通じてラーメン店が生き残る道を探ってみたい。

①昔ながらの中華そばの再構築

ライトなベーススープのラーメンが増えつつある。
ライトなベーススープのラーメンが増えつつある。

 本来、ラーメンとは安くて美味しくてお腹いっぱいになる食べ物であった。いつからかラーメンが料理として進化して、嗜好性の高いものになっていった側面がある。このこと自体はラーメンという食文化にとって不可欠なことであり、その流れを否定するものではないが、オーバースペックになる以前に立ち戻った、昔ながらのラーメンがあっても良いし、今の素材と技術を駆使すれば昔のラーメンよりも安くて美味しいラーメンを作ることは十分可能だ。

 スープそのものはライトでチャーシューの煮汁をタレに使ったような、昔ながらのノスタルジックな中華そば。都内を中心に勢力を拡大している『ちゃん系』と呼ばれるラーメンもその一つだが、どことなく懐かしさを覚えるラーメンを出す店が増えている。大量の食材を長時間炊いたスープや、手間のかかる具材をたくさん乗せたラーメンとは真逆のシンプルで分かりやすいラーメンは、従来のラーメンと比べれば原材料費のみならず仕込みにかかる人件費も抑えられるだろう。

②背脂ラーメンの再評価

かつてブームとなった背脂ラーメンの復権はあるか。
かつてブームとなった背脂ラーメンの復権はあるか。

 背脂ラーメンとは豚の背脂が浮いたラーメンのこと。1970年代後半から東京では『千駄ヶ谷ホープ軒』をはじめ多くの「背脂チャッチャ系」と呼ばれるラーメンを提供する店が増え、背脂ラーメンは東京を代表するラーメンの一つとなっていった歴史がある。前述した昔ながらの中華そばにも通じるが、ラーメンがオーバースペックになる前のシンプルな設計のラーメンでありながら、背脂によってジャンクさやラーメンらしさを表現しやすくなっている。

 固形の背脂を振りかけて麺やスープと一緒に食べるのは、『ラーメン二郎』などのガッツリ系とも近く、背脂の量によって味わいをカスタマイズするシステムは、家系ラーメンにも通じる部分がある。ベースのスープが軽くても背脂の旨味によって満足感は担保出来る。さらに背脂に味をつけたり、味を変えるアイテムなどを揃えれば、新たな表現も出来る。家系やガッツリ系のラーメンがリバイバルのように再ブームになっている今、背脂ラーメンのブームが再び来る可能性は高い。

③スープを使わない汁無し麺

原価のかかるスープを使わないという発想。
原価のかかるスープを使わないという発想。

 昨今「油そば」を提供するチェーン店が勢力を拡大している。さらに個人店でも油そばやまぜそばを提供する店が増えて来た。油そばやまぜそばは原則としてスープは使わずにタレと油だけで調味する設計で、スープを使ったとしてもその量はラーメンの比ではない。昨今のハイスペックなラーメンにおけるスープに対する労働負荷はとても大きく、原材料費や人件費の面からもスープを使わないという選択は非常に効果的だ。さらに「TKM」と呼ばれる「卵かけ麺」にいたっては、乗っているのは卵黄とネギだけと具材の仕込みすら必要ない。

 一般的に油そばやまぜそばの場合は、ラーメンよりも麺量が多い傾向にあり、一杯における満足感は高くなる。大半の客がラーメンのスープを残している状況を考えても、スープを使わない油そばやまぜそばは、原価を落とせるだけではなく食材ロスの問題も回避出来る。タレを複数用意したりトッピングや味変アイテムを揃えることで、メニューとしてのバリエーションも増やしやすいのもメリットだ。

 いずれのラーメンも共通しているのは、目新しいものではなく以前から存在していたラーメンであるということと、そして原材料のスペックや量に頼らず、かつ仕込みなどの人件費も抑えやすいということ。現場の労働負荷が軽減されれば離職率も減ることだろう。

 すでにブランドとして確立されている店やファンがしっかりついている店、インバウンド需要があるような場所はさておき、まだまだラーメンの価格や価値に対しての消費者の評価は厳しいのが現状だ。安くて美味しいラーメンという原点が、これからのラーメンには欠かせない視点になっていくことだろう。

※写真は筆者の撮影によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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