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アメリカは北朝鮮の非核化をあきらめたのか 米民主党は2024年大統領選向けの政策綱領に盛り込まず

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
米民主党全国党大会の初日に演説したバイデン大統領(右)とハリス副大統領(左)(写真:ロイター/アフロ)

米民主党は、2024年米大統領選挙向けの政策綱領から「北朝鮮の非核化」への言及を削除した。「北朝鮮は今や決して核兵器を放棄しない」といった米国内での認識の高まりを表しているとみられる。

民主党の大統領候補に指名されているカマラ・ハリス副大統領が正式に党の指名を受諾する党全国大会が8月19日、中西部イリノイ州シカゴで開幕した。それを前に、18日に90ページ余りに及ぶ党綱領が発表された。

新たな党綱領では、ロシアと北朝鮮の軍事協力に対抗するため、米国が同盟国との協力を強化することを強調している。

ただ、党綱領では、北朝鮮の非核化や人権など民主党が2020年の綱領で強調していた問題について言及されていない。

2024年の党綱領は「ロシアは、軍事装備の販売や経済連携を通じて、世界中の自由を攻撃する取り組みに北朝鮮、イラン、中国を参加させている」と指摘、欧州やインド太平洋の同盟国間のつながりを強化することでロシアの破壊的な行動に対抗する方針を示した。

そして、残りの任期が来年1月までの5ヵ月となったジョー・バイデン大統領が「新たな政治的、経済的課題についてEUと緊密に協力し続けるとともに、ロシアとイラン、北朝鮮との新たな軍事的、経済的同盟を崩壊させるために、欧州とインド太平洋の同盟国と協力する」と記述した。

さらに党綱領は、バイデン大統領の1期目での対北朝鮮の取り組みを紹介し、「複数の国連安全保障理事会決議に違反する北朝鮮のかく乱的な核・ミサイル計画による脅威に対抗するため、同盟国と連携してきた」とアピール。「韓国、日本との3国間協力を強化することで、朝鮮半島とその周辺の地域で平和と安定を維持している」と記述した。

また、党綱領は、ドナルド・トランプ前大統領の北朝鮮に対するアプローチを批判し、「金正恩を褒め称え正当化するなど、世界の舞台で米国に恥をかかせた」ことや北朝鮮の指導者と「ラブレター」を交換したことなどを非難した。これに対し、「バイデン大統領は、違法なミサイル能力増強を含む北朝鮮の挑発に対し、同盟国、特に韓国を支持してきたし、今後も支持し続ける」と強調した。

米民主党が綱領から「北朝鮮の非核化」を削除したことは、北朝鮮の核兵器に対する米政権の戦略的姿勢の変化を示したものとみられる。

トランプ氏が率いる共和党であれ、民主党であれ、米国内では北朝鮮の核保有の現実がますます受け入れられている。

民主党の党綱領にみられるように、ますます達成不可能と見られるようになった北朝鮮の完全な非核化から、軍備管理措置による北朝鮮の核能力の管理に焦点が徐々に移っている。

これに対し、北朝鮮は、米国が北朝鮮を実質的な核保有国と認め、核軍縮交渉を進めたい構えだ。

●共和党綱領でも「北朝鮮の非核化」言及なし

7月8日に発表された共和党の政策綱領でも、「北朝鮮の非核化」という文言が見当たらなかった。さらに共和党の綱領では「北朝鮮」自体にも言及がなかった。

韓国メディアのKBSワールドは8月20日、米民主、共和両党の綱領が「北朝鮮の非核化」について触れなかったことについて、「北韓(=北朝鮮)が核による攻撃能力を向上させながら挑発を続ける中、韓国政府が掲げる『完全かつ不可逆的で検証可能な非核化』の原則が弱まるのではないかという懸念の声が出ています」と報じた。

トランプ氏は7月18日の共和党全国大会での指名受諾演説で北朝鮮の最高指導者の金正恩氏について言及し、金氏が11月の大統領選挙でトランプ氏が勝利することを望んでいると主張、当選すれば「核兵器などをたくさん持っている人と仲良くするのはいいことだ」などと述べていた。

一方、北朝鮮は、トランプ氏が以前金氏と親密な関係にあったにもかかわらず、米国でどんな政権が発足しても「気にしない」などと応じた。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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