組体操は4段以下に 「見栄えよりも安全性」 巨大化・高層化の見直し始まる ▽組体操リスク(6)
■巨大化・高層化しながらの大流行
運動会のシーズンがやってきた。全国の学校で、本番に向けての練習が始まっている。
その運動会の花形種目である「組体操」が、この10年、全国の学校で、巨大化・高層化しながら大流行を見せてきた。
人間ピラミッド(四角すい)は、100人を超える生徒を動員して、高校では11段、中学校では10段にまで達している。さらに小学校でも、9段の記録が確認されている。また、タワー(円すい)では、6段を達成した中学校がある。
この組体操ブームがいま、転機を迎えようとしている。
■リスクの認識 拡がる
巨大組体操がもつ「リスク」が広く認識されたのは、ちょうど一年前のことであった。
リスクの詳細は、拙稿「【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい 組体操リスク(1)」を含む一連の記事5本【注】を参照いただきたい。
おおざっぱに言うと、組体操は学習指導要領に記載がないにもかかわらず、小学校では3番目にケガが多い種目(他の種目は学習指導要領に記載あり)である。そして10段の人間ピラミッドでは、高さ7m、土台の最大負荷は一人あたり3.9人分(中3男子で200kg超)に達する。同時多発骨折事故も起きている。
組体操はもはや、安全管理を徹底しても制御できないほどに巨大化し、事故を多発させている。とるべき道は、組体操の縮小化しかありえない。
記事により組体操のリスクは知られるようになったものの、しかし、世論は真っ二つだった。リスクの指摘に賛同する人も多くいたが、教育関係者を中心に多くの人たちが反発をした。
■教育系人気誌の変化
そして、一年を経て、再びこの季節がやってきた。
毎年5月号に特集を組んで組体操を推奨し、ブームの一翼を担ってきた教育系月刊誌『小六 教育技術』(小学館)は、これまでとはガラリと論調を変えた。「絶対ウケる! さすが六年生の組体操」(2006年)、「心を一つに!感動の組体操」(2009年)などの全面的な推奨から、今年の5月号ではついに「組体操はやめるべきか? ケガを抑止するために 組体操から考える体育科の安全指導」とあるように、安全指導を厳しく訴える特集を設けた。
指導書や参考書のレベルでは、もう諸手を挙げて組体操を賞賛することはできなくなった。
■巨大化・高層化の見直し始まる
具体的な対応をみせた教育委員会もある。愛知県の長久手市では、3月の定例教育委員会で画期的な方針が確認された。
ここでは、具体的な数値として人間ピラミッドの高さを4段にまで制限することが報告された。そしてさらに、次のような言葉が添えられた。
子どもは、教師や保護者の駒ではない。子どもの心身の発達を軸に据えたときに、体育の授業ではどのような取り組みが適切なのか。「見栄えよりも安全性を考慮していきたい」という教育のプロとしての宣言が、組体操ブームのなかで発せられたことの意味は、とても大きい。
■学校のリスク・マネジメントが問われる
現実には、長久手市のような自治体は少数派であると推察される。概して、まるでリスクの議論などなかったかのように、多くの教育現場が、組体操ブームを再び活性化させようとしているようにさえ見える。
私は、今年5月の運動会は、教育のプロである学校のリスク・マネジメント能力が、問われる機会だと思っている。
この一年で、巨大組体操の諸々のリスクが明らかになった。もう、「知らない」とは言えないはずだ。
【注】
▽組体操リスク(1) 【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも,そして先生のためにも。
▽組体操リスク(2) 組体操が「危険」な理由―大人でも許されない高所の無防備作業
▽組体操リスク(3) 組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化